この記事をまとめると
■1990年代後半から2010年頃まではヒット車に対して各メーカーがライバル車を送り込むのが定番だった
■ライバル車同士を比較すると各メーカーの開発方針の違いがわかる
■かつてのトヨタは自動車業界に緊張感をもたらしていたが、最近は物分かりがよくなり怖さが減った
トヨタは後出し戦法で勝ち抜いた時期がある
新しいコンセプトで注目を浴びながらも、その後に類似したライバル車が発売され、販売面で負けてしまったクルマは少なくない。とくに1990年代の後半から2010年ごろまでは、それが多かった。新しいコンセプトとデザインで登場したのは、主にホンダ車や日産車で、類似した商品を投入して販売面で駆逐したメーカーはトヨタだった。
1997年に日産キャラバン/ホーミーエルグランドが発売されると、その堂々とした外観や広い室内によってヒット作になった。当時、トヨタはグランビアなどのライバル車を用意したが、登録台数はエルグランドを下まわった。
そこでトヨタは初代アルファードを開発した。発売日は2002年5月21日で、2代目エルグランドの翌日だ。初代アルファードは渾身の開発を行い、駆動方式もグランビアの後輪駆動から前輪駆動に切り替えた。
対する2代目エルグランドは、当時の日産が経営危機に見舞われた事情もあり、後輪駆動を踏襲している。フロントマスクも不評で、その後の売れ行きはアルファードの圧勝だ。
2001年にはホンダが初代フィットを発売した。燃料タンクを前席の下に配置して後部のスペースを広げ、コンパクトカーなのに優れた実用性で注目された。実用回転域の駆動力を高めた1.3リッターエンジンを搭載して、価格も売れ筋のAが114万5000円と安い。
2002年には軽自動車まで含めた国内販売の総合1位になった。トヨタ・カローラシリーズは、長年に渡る1位から2位へ転落した。
そこでトヨタは、対抗策として初代ヴィッツにお買い得な1.3リッターのU・Dパッケージを加え、価格はフィットAと同じ114万5000円とした。
デュエットにも改良を加え、1.3Vを114万3000円で設定した。上級モデルの初代イストも投入され、トヨタはフィットのライバル車を114万5000円前後の価格帯にズラリと揃えた。フィットは人気車で堅調に売れ続けたが、トヨタは強敵であった。
後出しは自動車業界を活性化させる機会でもあった
フィットの発売から約6カ月後には、共通のプラットフォームを使うコンパクトミニバンのホンダモビリオが登場した。燃料タンクを前席の下に搭載するメリットは、ミニバンでこそ最大限度に発揮される。3列目シートの床下に燃料タンクが配置されず、床と座面の間隔を十分に確保できて、3列目に座っても膝の持ち上がる窮屈な姿勢にならないからだ。
このモビリオに対抗するトヨタ車が、2003年9月に登場した初代シエンタだ。薄型燃料タンクを開発して、モビリオと同様、床と座面の間隔を十分に確保した。シエンタもヒット作になっている。
ちなみにモビリオの後継となるフリードは、前席の下に燃料タンクを配置するレイアウトをやめてしまった。そのために、モビリオに比べて床と座面の間隔も不足して、膝を抱えるような着座姿勢になっている。
その点でシエンタは、いまでも薄型燃料タンクを使い続けている。方針を変えるホンダと育てるトヨタ。この違いは両社のさまざまな面に当てはまり、本質的な違いに結び付いている。
トヨタの追撃が決定的だったのは、2000年に登場したホンダ・ストリームだ。ワゴン風の3列シートミニバンで、スポーティな雰囲気も併せ持ち、一躍人気車になった。これに対抗してトヨタは、ほぼ同じサイズの初代ウィッシュを2003年に投入した。
※写真はマイナーチェンジ後の初代ストリーム
2003年の時点で、ストリームで売れ筋になる1.7Sの価格は170万円、ウィッシュで代表グレードの1.8Xは若干安い168万8000円だ。外観、サイズ、機能、価格まで、すべてにおいてウィッシュはストリームに対抗した。販売合戦の結果は、ウイッシュの勝利となった。
以上のようなトヨタのやり方は、当時は執拗で嫌な印象を受けたが、いまでは懐かしい。なぜなら販売の好調な他社製品を追撃する当時のトヨタは、自動車業界全体に緊張感をもたらし、他社の商品開発や販売を活性化させたからだ。ホンダの低床設計など、トヨタに鍛えられたといっても大げさではない。
ところがいまのトヨタは妙に物分かりがよくなり、3代目ヴィッツなどは、リーマンショックの影響もあって質感を大幅に下げた。もはやいい意味で怖いトヨタではなくなり、緊張感も薄れ、国内市場は商品開発、販売面ともに伸び悩んでいる。日本のクルマ作りは、良くも悪くも、トヨタに大きく左右されるのだ。
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