日産ノートが2018年上半期(1~6月)登録車販売台数において、ナンバー1を獲得した。さらにセレナも2018年上半期ミニバンナンバー1の座についた。
まさに奇跡の大ヒット! なぜこれほど大ヒットしたのか? その原動力となっているのはノート、セレナに追加ラインアップされた、モーターの力だけで走行し、エンジンは発電専用というe-POWERだ。
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さて、そのe-POWERが天下を取った理由は何なのか? 魅力はどれほどのものか? また、今後e-POWERは増えていくのか? モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が解説する。
文/岡本幸一郎
写真/ベストカー編集部
■e-POWER追加が奇跡の大ヒットに結びついた!
e-POWER効果により、ノートとセレナの販売が絶好調だ。日本国内の登録車の販売において、2018年の上半期(1月~6月累計)には7万3380台を記録したノートがランキング首位となり、さらには5万6095台を販売したセレナもミニバンナンバー1の座についた。
思えば約2年前の2016年11月、登録車の月間販売台数ランキングにおいて、それまでは、よくてもせいぜい5位前後だったノートが、日産車としては30年ぶりにランキングトップとなり、話題騒然となったのも記憶に新しい。当時は「まぐれ」という声もあったものだが、まったくそうではなかった。
翌12月は惜しくも王者プリウスにわずか373台差で負けたものの、年が明けた2017年1月には再び首位に返り咲いたかと思えば、3月、7月、9月と2017年は計4回も首位に立ち、2017年上半期(1月~6月)、2017年度上半期(4月~9月)、2017年の年間(1月~12月)においていずれも2位となった。
2018年に入ってからも1月から3か月連続で首位となったほか、上半期の販売台数でも首位となった。これは日産にとって実に 48年ぶりの快挙だ。4月~7月はアクアに譲ったものの、8月、9月には首位の座を奪還した。
2012年9月の登場から時間が経過し、もういつモデルチェンジしてもおかしくないクルマが、ひとつのきっかけでこれほどまでになるというのは前代未聞。あまりの人気を受けて、競合車に対して見劣りしていた先進安全運転支援システムを充実させたり、当初e-POWERにはなかった4WD車を追加するなど商品力の向上を図ったことが、さらなる販売増に寄与する好ましい状況を生んでいる。
■ミニバンナンバー1のセレナがウケた理由
一方のセレナは、2016年8月に現行型に移行し、予想どおり高い人気を博していたところ、e-POWERの追加により、それがさらに盤石となった。
実質的には、トヨタのノア/ヴォクシー/エスクァイア三兄弟を合計するとセレナをずっと上回ることには違いないが、同クラスの競合車もマイナーチェンジや改良を図り、販売増に向けて努力しているなか、2017年にはなかなか上回ることのできなかったヴォクシーの牙城を2018年に崩すことができているのは、e-POWERのおかげであることはいうまでもない。
両車の2018年10月時点における今年度のe-POWERの販売比率は、セレナが約40%、ノートが約65%となっているという。とくにノートは、一時期よりもやや落ちたとはいえ、今でも3台に2台はe-POWERが売れている計算になるわけだ。
これほどでe-POWERが人気を博した理由としては、なによりもまず非常に興味をひくものであることが大きい。
そして、実際にドライブしてもインパクトがあることや、価格が手頃であること、さらには既出の2モデルに関しては、設定された車種がよかったことはいうまでもない。
要するに、すべておいてその魅力がわかりやすいところが、ヒットした理由といえるだろう。
e-POWERを訴求するために、日産では「電気自動車の新しいカタチ」という表現を用いた。ただし、実際にはこれぞまさしくシリーズハイブリッドであり、正確に分類すると電気自動車ではないので、正しくないといえば正しくない。
おりしも日産はセレナでアピールした「同一車線内自動運転」が、自動運転ではないと一部でバッシングを浴びた。一連の日産の手法を自動車メディア業界内でも厳しいことを言う人は少なくなかった。
しかし、たしかにそうではあるが、いずれも商品の特徴を端的に上手く表現していることには違いない。
ユーザーにとっては、定義に対してどうかよりも、どういう商品かがいかにキャッチーに伝わるかが大事。実際にも電気自動車のように走れるe-POWERを「電気自動車の新しいカタチ」と表現することで、少しでも多くのユーザー予備軍の人に興味を持ってもらえば、それで万々歳だ。そこに目くじらを立てるべきはない。
■ワンペダル感覚の「アクセルひと踏み惚れ」で購入するケースが多い
電動車両と呼ぶよりも電気自動車と呼んだほうが、より多くの人に響くことは想像に難くない。ちなみに日産ではe-POWERとピュアEVを併せて「電動車両」と認識しており、そこにはマイルドハイブリッドや1モーター2クラッチ式のハイブリッドは含まれない。
そして興味を持った人、なかでもそれまでEVに触れたことのなかった人が実際にドライブして、アクセルペダルだけでクルマの加減速が自在に行えるワンペダル感覚や、モーターによる瞬発力のある独特の加速フィールを味わって、まさしくアクセルを“ひと踏み”で惚れて購入にいたるというケースが非常に高いらしい。それはまったくうなずける話。
日産としてもe-POWERの出来には自信があるので、日本全国のできるだけ多くの購入可能性のある人たちに実車に触れてもらうための機会を積極的に設けてきたそうだが、それが功を奏していることが昨今の販売実績にも表れているわけだ。
e-POWERはまったく新しいシステムだが、これを作り上げることができたのは、リーフで培った技術を持つ日産だからこそだ。力強くスムーズに走らせるための出力制御や、電動車両特有の音の問題への対処なども申し分なく、完成度の高いものができた。
ピュアEVであるリーフが誕生して当初の想定よりも売れていないのは否めないが、リーフの開発で培った技術はけっして無駄になっていないのだ。
そして価格。ぶっちゃけガソリン車との価格差はそれなりにある。単純には比較できないが、ノートのガソリンのSが142万1280円、Xが152万3880円、メダリストが209万1960円。
ノートe-POWERと1.2Lガソリン車の同じグレードで比較してみると、Sグレード同士で48万600円差、Xグレード同士で49万7880円差、メダリスト同士で26万1360円差。おそらく所有して普通に使っている期間に燃費でモトをとれる人はほとんどいないだろう。
しかしそれはガソリン車と比較しなければよいだけの話。充分に現実的に購入可能な価格設定であることには違いなく「高価」というほどではない。
そもそも購入検討者にとっては、価格差にも勝る「e-POWERに乗りたい!」という積極的な気持ちがある。金銭的にモトはとれないまでも、e-POWER独特の運転感覚を味わえると思えば、精神的には充分にモトが取れると思ってよいだろうし、実走燃費もガソリン車とはそれなりに違うことはいうまでもない。
さらに、売れゆきがよいのは、設定した車種がよかったから。セレナの属するMクラスミニバン市場は、魅力的な競合車があればそちらにたやすく流れる。セレナはe-POWERがなくても、もともと売れていたところに、e-POWERが追加されたことで、ハイブリッドミニバンに興味を持っている人の目をこちらに向けさせることができたのが大きい。
一方のノートも、登場から時間が経過していても、実用性に優れるパッケージングや普遍的なデザイン、上質な内装などのコンパクトカーとしての基本的な実力の高さが効いた。
そこに、いずれも日産の充実した販売網による絶対的な販売力や、いまでも地方に行くほど高まる日産のブランド力など、日産そのものの底力の強さも、e-POWERの成功の要因として挙げられよう。
■今後のe-POWER戦略はどうなる?
では今後の日産のe-Power戦略はどうなるのだろうか? 日産は2022年までの中期経営計画で、5車種のe-POWERを投入することを明らかにしており、EVを含めた電動車両で乗用車の国内販売構成比40%達成を目指すとしている。
ベストカー本誌では、今後登場するe-POWER搭載車を予想している。具体的な予想は下記の通り。
●2019年春登場予定/新型ジューク(発電用 1.2Lエンジン+モーター、120ps/28.0kgm)
●2019年10月登場予定/ティアナe−POWER(北米仕様の新型アルティマ、発電用2Lエンジン+モーター)
●2019年12月登場予定/エクストレイル(発電用1.2Lエンジン+モーター、150ps/35.0kgm)
●2019年3月登場予定/新型ノート(発電用1.2Lエンジン+モーター、120ps/28.0kgm)
●2020年秋登場予定/キューブ後継車(発電用1.2Lエンジン+モーター、120ps/28.0kgm)
当面は既存の1.2Lエンジンをベースとするユニットを基本に展開されるが、車両重量の大きい車種に向けてエンジン排気量を拡大した新規ユニットも用意される見込みで、例えばそれがやや動力性能不足が指摘されているセレナにも与えられる可能性もある。
一方、e-POWERの登場当初より、ぜひやるべきといわれている軽自動車のe-POWERについては、ただでさえ重くなった近年の軽自動車に、バッテリーの搭載などにより、さらに重量が増加することが確実なところ、660ccのエンジンとの組み合わせでは効率がよくないことから、当面はないものと思われる。
いずれもしてもe-POWERは、日産が標榜する「インテリジェント モビリティ」における「電動化」の中核をなす技術として、今後もますます幅広く展開されていくことは間違いない。
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