EVやオートパイロットなど、先進的なブランドイメージを売りにするテスラ。だが、新車の納車時期が不透明にも関わらず、“予約”に2000万円超の頭金が必要となるなど、ここにきて問題が噴出。新しい技術やコンセプトの車は大歓迎だが、車を買ってくれるユーザーを大事にする姿勢が求められている。
文:福田俊之、ベストカー編集部
ベストカー2018年1月10日号
トヨタ「2025年頃までに全車種を電動専用車もしくは電動グレード設定車に」と発表
モデル3の生産はひと月僅か260台
テスラの基幹車種「モデルS」。価格は960万円~
テスラは、2010年に日本市場にも参入するが、充電設備が不充分でEV自体がエコカーの主役になっていないことから顧客はごく一部の富裕層にかぎられる。
お膝元の北米でも、モデルSは年間3万台にも届かず、2016年度のテスラの世界販売台数は8万台以下に留まっている。言うまでもなく、先行投資が膨らんで最終損益は赤字の垂れ流し状態だ。
ただ、常に新しい価値の創造にチャレンジする、有望銘柄に熱いまなざしを向けるのが浮世離れの投資家たちの世界。米国の株式市場では、テスラの株価が急騰し、時価総額でフォードとGMをあっさり抜き去ったほどである。
投資家がテスラ株に期待感を寄せるのは、採算性よりも夢とロマンを追い求めるマスクCEOが打ち出す壮大な野望だ。年間生産台数を2018年までに50万台、2020年までに100万台にする大胆な計画をぶち上げたことも好材料となった。
その拡大戦略のカギを握るのが新型車の「モデル3」の投入。最低価格が3万5000ドル(約400万円)というコストパフォーマンスの高さを売りに2016年3月予約開始後、わずか3週間で40万台もの大量受注を獲得したことでも関心を集めた。
ところが、である。当初計画では2017年9月には1500台、同12月までに2万台を生産する予定だったが、フタを開けてみれば、9月はわずか260台。生産ラインの溶接技術などが量産レベルまで達していないのが難航している理由だ。
受注ぶんの納車だけでも気が遠くなるほど先になる見通しで、マスクCE0も「生産地獄」に陥っていることを認めている。
新車ロードスターは2年後納車でも頭金に2840万円
テスラ「ロードスター」。ベースモデルの予約金5万ドル(約565万円)と比較しても、その予約金は破格だ
まさに時代の寵児も「好事魔多し」だが、米メディアの情報によれば、テスラの現金燃焼ペースは1分間当たり約8000ドル(約91万円)。このペースで燃焼すると、数カ月後には手元資金を使い果たす計算になる。このため、テスラでは、あの手この手で現金をかき集める姑息な戦術を練り出した。
例えば、初の商用EVトラックの「セミ」と新型「ファウンダーズ・シリーズ・ロードスター」の投入を発表したが、ロードスターの納車は2年余り先にもかかわらず、購入には頭金25万ドル(約2840万円)の大金を払わなければならない。トラックのセミは5000ドル(約57万円)で予約注文できるが、生産に入るのは2019年の計画だ。
新たなモデルを生産するにも工場設備に巨額の資金が必要になるのは目に見えているが、そうまでして現金を確保しなければならない厳しい台所事情といえる。
起業家が大ボラを吹くのは、壮大なビジョンを持っていることの裏返しだともいわれている。しかし、現時点でのマスク氏は、起業家としてモノづくりのための投資拡大ではなく、口からのでまかせで嘘八百を並べ立て、株価を吊り上げるマネーゲームに興じるギャンブラーのように思えてならない。
【福田俊之】
ユーザーにとって「不都合な現実」をどう説明するのか
テスラ「モデル3」。公式HPには「日本での納車時期は2019年以降を予定しています」と記されている
前述のロードスター、現在開発中で発売時期が遅れる可能性があるにもかかわらず、最初の1000台の特別仕様「ファウンダーズ・シリーズ・ロードスター」の購入を希望する場合、車両価格全額となる25万ドル(約2840万円)を頭金として払えと、かなり強気な姿勢を取っている。
モデル3ですらまともに納入できていない状況では、この車が納入されるのは、いったいいつになるのだろうか……。
セミに関しても、現在の生産設備では足りないため、設備投資が必要なのは明白だ。しかし、現在テスラはモデル3生産への大規模投資のため、1四半期当たりの現金燃焼は10億ドル(約1140億円)を超えているといわれている。さらなる手持ち資金をどう生み出すのだろうか?
債権者や株主に投資を要請しなければならないかもしれない状況だが、マスク氏はこの問題について、現在のところ明確な説明をしていない。
モデル3だけでも、事前予約台数は50万台に上っているが生産すらままならない。モデルが増えて資金が分散すれば、さらに首が絞まることになるだろう。
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