使い勝手は国産に譲るが総合力では輸入車の満足度も高い
シートアレンジの数や内容、カップホルダーの配置など、細部の使い勝手では欧米車よりも日本車のミニバンが優れていると思えることが多い。
しかし、デザインや走りのよさなど、クルマ好きにとっての所有する喜びを含めた総合力では、欧米のミニバンのなかにも傑作と賞賛したくなるモデルは決して少なくないので、ここでは筆者の独断で選んだ5台のオススメ輸入ミニバンを紹介したい。
5台中、3台が新車では買えなくなって久しい絶版車だが、今でも中古車として狙う価値があるといえるため、積極的に列挙している。
(1)シボレー・アストロ
日本でも90年代に大ブレイクした元祖ミニバン。全幅2m、車重2.5トンの威風堂々としたスタイルは存在感が抜群で、いまだ最新の国産ミニバンと並んでも押し出し感の強さでは負けていない。
巨体を悠然と転がす雄大な運転感覚や、往年のアメリカ車ならではの柔らかいクッションのような掛け心地のシートなど、すべての感覚が他のミニバンでは得られない独自の味わいだらけ。今乗るとむしろ新鮮に感じるほどだ。コーナリングとブレーキは頼りないが、無駄に飛ばさなければ問題はない。
ドロドロした排気音を奏でる4.3リッターのV6エンジンは街乗りでもリッター5km以上は走り、同クラスのミニバンとしては極端に悪いわけではなく、レギュラーガスでOK。
基本設計は80年代のアメ車ゆえに骨格部分とエンジン本体は極めて頑強で、メンテナンスに精通した販売店や整備工場が多いのも強みだ。
再評価に値する傑作車である。
(2)フィアット・ムルティプラ
当サイトの記事【歴史に残る「変顔」クルマ5選】でも紹介したように、前期型の珍奇なスタイリングばかりが注目されがちだが、最大の美点は古典的、かつ典型的なホットハッチと呼びたくなる秀逸なハンドリングにアリ!
NAの1.6リッターエンジンは絶対的には非力ながら、旧世代のイタリアのエンジンらしく、回せば回すほどパワーを絞り出す特性が涙モノの気もちよさ! 今どきのフラットトルクなダウンサイジングエンジンと違って、情け容赦なくブチ回す快感を味わいつくせる。
ミニバンとしてはほぼ唯一のMT! というだけでも泣けるのだが、シフトの操作感もギヤ比も絶妙で、ただひたすら無意味なシフト操作を延々と続けたくなるタイプだ。
峠の登りでは遅いが、下りでは信じられないほど軽快で、ラリーカーでも運転してるかのように、ハナ先が思いのままに向きを変える快感に没頭できる操縦性は、ほとんど奇跡。
筆者の経験上、いまだ運転の楽しさではムルティプラを超えるミニバンは現れておらず、人類史上最高に楽しいミニバンとして称えたい。居住性や使い勝手など、ミニバンとしてはいろいろ微妙な部分が多いが、大きなサイドウインドーがもたらす開放感はファミリーカーとして特筆できる美点だ。
(3)スバル・トラヴィック
2000年代初頭、自社製のミニバンを持たなかったスバルが販売したOEM車。欧州製の本家オペル・ザフィーラと違ってタイで生産されたが製品クオリティに差はなく、エンジンは日本仕様のザフィーラより200cc大きいのに価格は安かったなど、お買い得さが際立った。
マニアの間では「OEMながらサスペンションはスバルチューン」といわれ、スバルファンからの評価は高かったが、実際は「スバルの車両実験部も納得したサスペンション」ということである。
乗り味は欧州車そのもので、高速域での安定感は当時の国産ミニバンを圧倒するレベルに。メーター読みでしっかり200km/h以上が出せることでも話題となった。
古くなるとATの電気系などにトラブルが出やすく、一部のスバルディーラーでは厄介者扱いをされることもあるようだが、オペル版のメンテナンスをフォローするヤナセでも対応してくれるので大きな不安はない。
現行車でもオススメモデルはある!
(4)シトロエン・C4ピカソ(新旧)
国産車の感覚で見るとヘンだと思える部分が多いが、実は国産ミニバンにはない魅力が詰まっている。粘り気のあるコーナリングや、フル積載状態で大きめの凹凸を乗り越えたりしても挙動が乱れない骨太なシャーシは、世界的ラリードライバーの新井敏弘氏が氷上で試乗して驚愕するほどハイレベル。
長期バカンスの国フランスで作られたクルマならではのたくましさと、室内の様々なギミックとのギャップも楽しい。異様なまでに大きなフロントウインドーとグラスルーフによる圧倒的な開放感など、乗員をワクワクさせるコツを知り尽くしたエンターテイナーによる演出が施されている。
パワートレインの洗練度の差は大きいが、先代モデルも基本的には同じ類いの魅力を備えており、強くオススメしたい。
(5)フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン(新旧)
長年にわたり世界の実用車のベンチマークとされるゴルフの美点をほとんど損なうことなくミニバン化。ゴルフと同じく、輸入車が初めての人でも違和感なく扱える一方、ドイツ車ならではの硬質感や高精度感に感激できる。
ミニバン化することでボディ剛性や静粛性が悪化するはずなのに、それをまったく感じさせないところにドイツ人の執念を感じる。
3列目シートの背もたれの角度が立ちすぎなところのみ戸惑うが、人間工学に基づいた正しい着座姿勢を強制される(指導される)ようで、大衆迎合の権化のような国産ミニバンとの思想の違いが見えて面白い。
(文:マリオ高野)
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