排気量以上に空気を押し込んでエンジンパワーを出す装置
最近輸入車を中心に、一時期はランエボやインプレッサWRXといったモータースポーツベース車以外絶滅状態に近かったターボ車が日本車でも増えつつある。かつては「パワーはあるけど、乗りにくくて燃費が悪い」と言われた時代もあったターボ車がなぜ復権しているのかを、「そもそもターボとは」というところから掘り下げてみよう。
●そもそもターボって何?
ターボとは排気ガスの流れを使ってエンジンに空気を過給(押し込む)機構で、同じ排気量なら過給することでよりパワーが得られる、小さな排気量で大きな排気量並のパワーが出るというもの。機構を簡単に書くとターボ(ターボチャージャー)には排気側、吸気側に羽車が付いており、排気ガスが出ることで排気側の羽車が回ると吸気側の羽車も回り過給が行われ、ベースのNAエンジンより大きなパワーを得られる。
NAエンジンとは自然吸気(ノーマル・アスピレーションもしくはナチュラル・アスピレーション)エンジンのことで、こちらはごく簡単に言えば吸気した空気をそのまま燃やし排気するので、排気量とエンジン回転数相応のパワーしか出ない。
ターボと並ぶ過給機としてはスーパーチャージャーがあり、スーパーチャージャーはエンジンの力を過給することがターボとの違いで、後述するターボの弱点だったレスポンスに優れることがメリットになっている。
続いては1度消えかけたターボが最近増加してきた理由について
●なぜターボは廃れたのに、最近増えているのか?
日本車初のターボ車は79年登場の430型セドリック&グロリアの2ℓ直6である。年号が昭和だった時代は、「排気量が2000cc以上になるのを含め、3ナンバー車は自動車税が5ナンバーの倍掛かる」という特殊な事情があった。
そのため小さな排気量で大きな排気量並の動力性能を得られるターボ車、430型セドリック&グロリアでは2ℓターボと2.8ℓNAのエンジンスペックは非常に近く、「5ナンバーで3ナンバーの大排気量車並みの動力性能を得られる」2ℓターボは大きな存在意義があった。
そしてターボ車は3ナンバー車の自動車税の高さ(年号が平成になると改正されるが)、日本の自動車業界自体が上り坂でスポーツモデル≒ハイパワー車の需要の拡大、昔は燃費がそれほど重要視されなかったといった時代背景もあり90年代初めを頂点に増え続けた。
ちなみに430型セドリック&グロリアターボが登場した当時は排ガス規制の強化やオイルショックといった背景もあり、パワーのあるターボ車の認可(自動車メーカーが販売するための許可)を渋る運輸省に対する日産の主張は「ターボ車は排気ガスの流れを再利用し、小さな排気量で大排気量車並みのパワーが出るので低燃費につながる」というものだった。ターボ車の歴史を振り返ると現在であればかなり的を射ているが、過程を考えると微妙に感じるところもある。
その微妙なところがターボ車の弱点やデメリットで、時代が2000年代になると大パワーを必要するスポーツモデルの激減や、パワーよりも燃費を重視される時代になったことなどで必要性が薄れ、排気量が660ccと限られている軽乗用車を除くと、ターボ車はめっきり減ってしまった。
次はターボのデメリットについて
●具体的なターボ車のデメリットは次の2点
(1)燃費の悪さ 大人しい巡航であればそれほどNA車と変わらないものの、ターボ車は排気ガスの排出が大きくなるまでターボチャージャーが回らない=パワーが出ないという、ターボラグと呼ばれる弱点があった。そのため特にATとの組み合わせだとドライバリティ(運転のしやすさ)が悪く、常用域でアクセル開度が増えがちになったり、ターボラグによるレスポンスの悪さで運転がしにくかったりと結果的に燃費が悪いケースが多かった。
※ターボラグに関してはターボチャージャーのサイズを適正なものにすることや、ターボチャージャーの材質を鉄から重量の軽く回りやすいセラミックやチタンなどに変更、排ガスと吸気の流れをスムースなものにするなどし、かなり改善されてはいた。
また日本ではあまりない使用パターンであるが、高回転域を使い続ける高負荷時には、ハイパワーなターボ車は発熱量も多く、エンジン内部を冷やすためガソリンを多く吹く必要があることも、燃費の悪さの1つと言える。
(2)コストの高さ これは当然のことであるが、ターボ車はNA車に対しターボチャージャーや効率を上げるため吸気を冷やすインタークーラー、ターボチャージャーやインタークーラーに付帯する配管など、特にターボチャージャーやインタークーラーは高い精度が必要な部品であることもあり、自ずとコストは高い。そのため自動車税が納得のいく段階的なものになったこともあり、ハイパワー化の手段として同系統であれば排気量を上げても基本的にコストは変わらないNAエンジンに移行が進んだ時期もあった。
次はそんなターボが最近になって燃費のいいエコエンジンとして注目されるようになったワケ
●ターボ車復活の理由を、きっかけを作ったフォルクスワーゲン車を例に考える
(1)直噴エンジンが一般的なものとなった 空気と燃料が混ざったものを燃焼室に噴射する通常のポート噴射に対し、燃料を直接燃焼室に噴射する直噴エンジンはより正確な燃料噴射を行うのに加え、高圧縮化や直接燃料を吹くことで燃焼室の温度が下げやすいといったメリットにより、ターボとの相性がよく、ターボの弱点をカバーしやすくなった。
(2)ドライバリティの向上 前述したターボラグがターボチャージャーの進化や直噴化で減少したのに加え、VWで言えばツインクラッチATのDSG、他社でも変速スピードの早いレスポンスに優れた6速以上の多段ATの登場により、ターボラグが非常に少ないNAエンジンのように運転できるターボ車が増えた。
(3)同じパワーを得るのにターボを使えばエンジンを小さくできる (1)、(2)によりターボ車の弱点が補えるようになれば「小さな排気量で大きなパワーを得られる」という本来のメリットが生き、最近よく聞くダウンサイジングターボというコンセプトに発展する。
ダウンサイジングターボの分かりやすい例を挙げると、ジャガーの2ℓ直4ターボは3ℓV6NAの代替である。3ℓV6NAが2ℓ直4ターボになればエンジン重量は大幅に軽くなり、軽さという要素も燃費向上につながる。
これは1.2ℓ3気筒エンジンにスーパーチャージャーを加え1.5ℓNAの代替としている日産ノートにも当てはまる。
また気筒数は同じでも排気量を小さくすれば、1.5ℓ直4ターボを2ℓ直4NAの代替としているホンダステップワゴンのように、同じ4気筒でもエンジン本体はフィットなどに搭載される1.5ℓまでをカバーするものなので、2ℓまでをカバーするものより軽量で済む。また同じ直4でも1.5ℓであれば2ℓよりサイズも小さいので、大きなエンジンの搭載を考慮しなければエンジンルームも小型化できその分室内を広くできるというメリットも生まれる。
(4)ターボ化のコストが下がっている 前述した通りターボ車はコスト高であるが、ターボ車の急激な増加による量産効果でターボ化に必要なパーツのコストは下がりつつある。また前述したジャガーや日産ノートのようにターボ化のより気筒数が減れば、気筒数が減った分でターボ化によるコストを相殺か、ターボ化の方が安く済むというケースもある。
こういったターボ車の進化とダウンサイジングターボのメリットにより今では輸入車を中心に、ドイツ車では当たり前、あの排気量至上主義のアメリカ車でさえターボ車は増加中だ。むしろ日本車は交通環境も含め燃費向上の飛び道具としてハイブリッドが強いこともあり、ダウンサイジングターボでは輸入車に対し遅れ気味で、ここ2年程度でようやく増えつつあるのが現状だ。
ただし燃費というのはエンジン、トランスミッションといったパワートレーン系だけでなく、車重、空気抵抗など様々な要因が絡み合うものだけに、ダウンサイジングターボだからといって今までよりも劇的に燃費がいいものは少ないというのが実情でもある。そのあたりは自動車メディアの情報などから自分に合ったものを選んでほしい。 (文:永田恵一)
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