売れゆきが好調なトヨタ車などに、納期がとても長くなっている車種が目立っている。例えば、ハリアーの納期は11月くらい、ヤリスクロスは10月くらいの予定になっているという。
そして、この2車種と同じくらい、最近は月販1万台ほど売れていたトヨタ車がアルファードだ。しかし、このアルファードについては、そこまで納期が延びていないという。高額な高級ミニバンが驚くほど売れているというのに納期遅延にならずに済んでいるのだった。それはいったいなぜなのか?
圧倒的人気は残価にあり!? 「アルファード」はそんなにリセールバリューがいいのか?
そのほかの納期が延びているクルマについても含めて、新車事情に詳しい自動車ライターの小林敦志氏が解説する。
文/小林敦志
写真/Minerva Studio@AdobeStock、TOYOTA、DAIHATSU、ベストカー編集部
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■基本的に受注販売のような販売方法なので納車までの期間は発生する
新車で購入するクルマというのは、世界的に見れば新車ディーラーの自社敷地内にストックしている在庫車を購入するのが一般的。日本では、自転車をホームセンターや大型自転車店へ行き、そこに置いてある現物の自転車から選んで購入するのと似ている。
そのため、アメリカなどでは購入条件に納得し、ローンの審査がパスすれば、そのまま購入した新車に乗って帰ることができる(ライセンスプレートの申請もその場ででき、正規のプレートは後日郵送されてくる。カリフォルニアではそれまで仮プレートを装着している)。
一方で日本国内では“受注販売”がシステム上は大原則となり、その昔は受注月内に登録(軽自動車は届け出)を済ませて納車するのが大原則でもあった。しかし、それが今では形骸化しており、全体で見ても納車まで“待たされる”傾向が顕在化している。
トヨタ系以外のディーラーでは売れ筋モデルや軽自動車を中心に、ディーラーがメーカーに先行してオーダーすることで、ストック車両として自社管理している在庫車をメインに販売する傾向が目立っているが、それでも早くて納車までに1カ月ほどかかってしまう。
■さまざまな手続きや状況が納期に影響しがち
まず納期は、注文書を交わしてから、その車両がメーカーへ発注する車両(受注販売)なのか、それともディーラーがストックしている車両なのか、で納期は異なってくる。
受注販売車両のなかでも、複雑であまり選ばれないメーカーオプションが選択されていたり、かなり珍しいボディカラーが選択されていれば、車種によらず納車まで時間を要してしまうことがほとんどとなる。
しかし通常、量販車については、売れ筋モデルの売れ筋仕様などは、注文が入っていなくても、先行して生産予定を入れて、生産過程で販売店への割り当てが決まるという流れになっている。
そのため、バックオーダーを抱えているなどの特別な事情がない限りは、それらの車両がすぐに引き当たるので、購入車両が工場へのオーダー車両となっても、極端に納車まで待つ必要はない。
ディーラーが在庫として持っている車両が引き当たれば、契約翌日には車庫証明(登録車の場合)の申請も可能であり、短納期が期待できるのだが、それでも結果的には初度登録に必要な書類回収など申請手続きの準備のために時間を要し、納車までに1カ月ほど要してしまう。
軽自動車は車庫証明が必要であっても、“後申請(新規届け出後)”となるのだが、それでもやはり登録車より若干早いぐらいとなっているのは覚悟してもらいたい。
■人気のアルファードの納期が伸びないのは、生産ラインを増やしたため?
最近の新車販売のトピックでは、アルファードの販売台数が注目されている。支払総額で600万円も珍しくないのだが、2020年度(2020年4月~2021年3月)での年間販売台数で10万台強を販売したことに、業界関係者の多くが驚かされた。
メルセデスベンツ車並みともいっていい、リセールバリューの高さがありながら、50万円引きも珍しくない大幅値引きが飛び出すこともあり、残価設定ローンを組めばミドルミニバンのヴォクシーよりも買い得感の高い月々の支払い額になったりするのも売り上げ増に貢献しているようだ。
実は現行アルヴェルも登場当初は納期の長期化に悩んでいた。そこである特定のグレードのみ生産移管を実施(実質生産ライン追加)。その結果、コロナ禍の爆売れにも関わらず納期は安定している
そして、半導体の供給不足問題の影響も出始めているとはいえ、トヨタがウエブサイトで公表している“工場出荷目処”のアルファードの納期では、ハイブリッド以外が1~2カ月、ハイブリッド車が2カ月程度、そしてエグゼクティブラウンジが2~3カ月程度と、目立って納期遅延していない。
それどころか、登録車としては、むしろ納期が早めのモデルとなっていることも、爆発的な販売台数が続いている理由に大きく貢献しているのは間違いない。
しかし、年間で10万台強も売れているアルファードの納車状況がなぜ順調なのか?
事情通は「アルファード系はコロナ禍前では、半年待ちも当たり前という納期遅延車の代表ともいえるモデルでした。しかし、コロナ禍直前ぐらいのタイミングで生産ラインを増やしたそうです」と話す。
さらに「当時はすでにヴェルファイアはアルファードの半分以下ほどの販売台数でもありましたから、アルファードの生産枠を大幅に増やすことができたものと考えております」とのこと。
登場して間もない新型車でもないので、大量のバックオーダーを抱えているわけでもない。
また、リセールバリューを考慮すると、ボディカラーはパールホワイトか黒系で、選択するグレードも「S Cパッケージ」か、特別仕様車となる「S“タイプゴールドII”」かの選択となることが圧倒的に多いので、このあたりを集中的に生産していることも、納期遅延を基本的に招かないことに影響しているのではなかろうか。
■納期の長期化は受注の集中によるものばかりではない
ただ、アルファード以外では、トヨタ車のなかには深刻な納期遅延となっているモデルが目立つ。そのなかでも納期遅延が顕著なモデルとしてよく挙げられるのがハリアーとヤリスクロス。この2車では予定納期が若干異なること以外に、納期遅延の状況も異なるのである。
ヤリスクロスはいまのところ、納車まで“半年待ち”というのが販売現場で聞く話。このままだと納車が2022年へ越年してしまうことにもなりそうだが、納期は今後、若干でも短くなっていくだろうとの話も販売現場で聞く。ちなみにヤリスクロスの場合は全バリエーションに関して半年待ちとなっている。
GRヤリスを除くヤリスシリーズも生産ラインを増やして増産対応中。ただし、同じ工場で新型アクアも生産開始となるのでそのヒット次第により、納期にも再度影響が出そうだ
ヤリスクロスの月販目標台数は4100台であり、2020年8月末の正式発売後1カ月の累計受注台数は約4万台であった。つまり、発売1カ月後の時点で月販目標台数の約10カ月分をすでに受注していたことになる。
そのなかで、発売1カ月後以降もかなり大量の新規受注が積み上がっていったのである。その結果、多少の増産をかけたとしても、いつまでも大量のバックオーダーを抱えたままとなり、いまの納車半年待ちとなっているのである。
「今年の後半に向かい多少納期が早まりそうだ」とは、販売現場のコメントだが、これも新規受注がさすがにペースダウンしていくものとし、バックオーダーの消化が今後進んでいくものと、セールスマンが先読みした結果のコメントと考えていいだろう。
一方のハリアーは、すでに現行型が発売となってから1年が経過するなかで深刻な納期遅延が続いているのだが、それはヤリスクロスのように全バリエーションではなく、グレード間や装着するオプションなどで、同じハリアーでも納期遅延の状況が異なっているのである。
業界の事情通は「ハリアーで目立って納期遅延傾向にあるのは、ハイブリット 4WD の最上級グレードであるZ レザーパッケージに、“調光パノラマルーフ”、さらに外板色でプレシャスブラックパールを選んだ場合と聞いています。そもそも本革シートで納期がかかり気味なのに加え、調光式パノラマルーフがさらに納期遅延に拍車をかけるようになっています」と説明してくれた。
最上級グレードやオプションは手の込んだ装備品が多く、もともと受注生産の色彩が強いグレード。しかしオーナーさんの所有欲を満たすものであるので、待つ人は待ってでも購入されるらしい
新型コロナウイルス感染拡大以降、新車販売の世界でも“プチ贅沢”ではないが、それほど高額イメージのないモデルで最上級グレードをオプションテンコ盛りで購入するといった傾向が目立っている。
そのため、当初はそれほど選択されないだろうといったグレードに、さらに装着頻度が少ないと思われたオプションまで頻繁に選ばれるようになり、結果として、顕著な納期遅延を見せるのはごく一部の仕様となるケースが目立ってきている。
■メーカーの単なる需要読み違いというイタいケースもたまにある
また、量販グレードが当初の予測をはずれてしまい、納期に時間がかかるといったケースもある。
いま時は正式発売前に“予約受注”として、発売数カ月前から熱心な販売促進活動を多くのメーカー系ディーラーが展開している。これは発売直後に「受注台数が〇万台突破!」などと人気車ぶりをアピールしたいということもある。
しかし一方で、予約受注を可能な限り多く積み上げ、実際消費者はどのグレードを多く選ぶのか、そして人気のボディカラーや選択頻度の高いオプションはどれなのか、などのデータをとり、本格生産に入る時には、予約受注段階での量販グレードで人気のボディカラーと装着頻度の高いオプションを装着した仕様の生産割合を増やして、より効率的な生産を進めようとしているのである。
しかし、時としてその予測が裏切られることがあるのだ。平時では予約受注や発売直後では、上級グレードがよく売れ、その後中間グレードが売れ筋になっていくことが多い。
このような傾向は当然メーカーも承知しており、このような傾向も加味して量産グレードを絞り込んでいくのだが、あくまで予測なので稀だが外してしまうこともある。
ただ、すでにその予測に基づいて生産計画を立てているので、部品調達なども当然その計画に基づいて発注している。そのため、予測が外れたとしても軌道修正というのが容易にできず一部グレードだけ納期遅延が顕著になるということになるのである。
これは、4月末に発売された新型ヴェゼルにおいて、最上級グレードの「PLaY」だけが1年待ちになっているのが事例として紹介できるだろう。量産グレードとしては「Z」としたようだが、予測に反してPLaYの受注が多くなってしまい、パノラマルーフの供給体制なども影響しているようだが、PLaYだけ納期遅延が顕著となっている。
発売直後にすてに1年待ちとアナウンスされたヴェゼル「PLaY」。専用装備が魅力的なのか、売れ筋と想定した「Z」を差し置いて受注が集中。読み違いによる混乱が見受けられる
また最近流行っている、“2トーンのボディカラー”では、ルーフ部の塗装作業が“職人仕事”になるので納車に時間がかかるといったことも聞いたことがある。
■半導体の供給不安は当面継続予測もあり
トヨタ車のなかで人気の高い、パッソやルーミー、ライズといったダイハツによるOEM車では、「少し前は納期が短かったのに、急に納期遅延になった」ということが頻繁に発生することがあり、「ダイハツOEMの納期は“ムラッ気”があるので注意している」とは、販売現場でよく聞く話となっている。
トヨタはダイハツから何車種かOEM供給を受けている。小型の売れ筋モデルが多く、生産台数も多い。また半導体の供給問題も影響を受けており、現在納期が変動しているのであろう
「ダイハツサイドの生産計画の都合だろう」として納得しながら、販売促進活動を進めているとのことである。
トヨタ以外のメーカー車においても、納期遅延となる背景にいくつかのパターンがあるのは、ヴェゼルで説明したように同じである。ただ、半導体供給不足の問題が影響しての納期遅延については、トヨタ以外のメーカーのほうが目立っているのが現状。軽自動車でもディーラー在庫が少なく、納期が2~3カ月というのも珍しくなくなってきている。
筆者の私見としては、“契約してから納車までに数カ月を要する”という現状については、「新車は欲しいけど面倒くさい」と感じてしまう人も多く、新車販売にはあまりいい影響は与えていないものと考えている。
アメリカではディーラーの在庫車を購入するのが基本。日本で実現するには在庫車を保管する広大な土地や各社の販売権の取得が必要なので、ハードルは高い(Minerva Studio@AdobeStock)
法整備も必要となるので、短期間での実現はほぼ不可能と考えるが、アメリカのように、ディーラー在庫が豊富にあり、気に入った実車があって契約が成立すれば乗って帰ることができるようになれば、消費者の購買意欲を大きく刺激し、日本の新車販売市場もずいぶん見えてくる“景色”は変わってくるだろうなあと考えている。
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