フィアット850 スパイダー(1965~1972年)
フィアットのスパイダーと聞くと、珍しいエキゾチックモデルに聞こえるだろう。だが、1965年から1972年にかけて製造された、リアエンジンの850 スパイダーは約12万4000台も売れている。
【画像】1000cc以下の楽しいクラシック カプチーノ/スプライト/850 スパイダー/スマート・ブラバス/オースチン・セブン ケータハム・セブンも 全67枚
モデル後期には843ccから903ccへ排気量が大きくなり、スタイリングもリフレッシュ。立ち上がったヘッドライトが与えられ、850 スポルト・スパイダーと呼ばれるようになったが。
850 スパイダーには右ハンドル車が存在しない。アメリカ市場が主眼に置かれ、彼の地で英国製スポーツカーとしのぎを削っていた。
今回ご登場願ったのは、ヘッドライトカバーの付いた前期型。ロブ・テイラー氏が30年を掛けて大切にしてきた1台だという。彼は、850のキャンピングカーとサルーンも所有しているという、クラシック・フィアット・マニアだ。
カロッツエリアのベルトーネ社が手掛けたボディは、驚くほど小さい。しかし乗り降りはしやすく、パッケージングは良く考えられている。ラゲッジスペースは広く、フードはきれいに折りたたまれ、エンジンルームにもゆとりがある。
850 スパイダーでは、フロントのディスクブレーキと、フェイクウッド・リムのステアリングホイール、5枚のアナログメーターという豪華装備が標準装備だった。テールゲートを開くと、エグゾースト・ヘッダーが並んだ直列4気筒が収まっている。縦方向に。
ペダルとステアリングホイールとの位置関係は、若干オフセットしている。だが、身長の高いドライバーでも問題なく運転席に座れる。
当時の量産リアエンジンでベストの操縦性
エンジンは滑らかに、静かに回転し、サルーンより13psも高い49psを発揮。最高速度144km/hを実現していた。燃費は、穏やかな気持ちで流せば18.0km/L近くまで伸びるというが、現実的には14.0km/L前後のようだ。
ロケットのように加速はしないが、軽くダイレクトなステアリングとしなやかな乗り心地が相まって、走りの質感は良い。エンジンは7000rpmのレッドラインまで軽快に回る。
クラッチペダルは軽く、漸進的につながる。4速MTの扱いには注意が必要。ギアの回転を調整するシンクロメッシュが弱く、特に2速ではタイミングを計る必要がある。
850 スパイダーの操縦性は、1960年代後半の量産リアエンジン・モデルとしてベストにランクインできる。コーナリングは基本的にニュートラルで、低速コーナーへ突っ込みすぎるとアンダーステアへ転じる程度。
そもそも、テールを振り回すほどパワーはない。派手な身振りを楽しむモデルでもない。
北米市場では、トライアンフ・スピットファイアなどより安価に売られていた850 スパイダー。アルファ・ロメオは高すぎる、という輸入車好きのオシャレなドライバーが好んで購入した。
そのため、2022年に状態の良い中古車を探すなら、イタリアかアメリカまで範囲を広げる必要がある。堅実的といえる価格で、英国市場にも少数は流通しているようだが。
部品の入手は徐々に難しくなっている。ボディパネルは殆ど手に入らないという。さらにテールライトは、ランボルギーニ・ミウラと同じ部品。維持が簡単ではないことは間違いない。
協力:ロブ・テイラー氏、フィアット・モータークラブGB
オースチン・セブン(1923~1939年)
歴史は勝者によって記される。英国車の歴史では、オースチン・セブンほどこの名言が当てはまるクルマはないだろう。
それ以前にも小さな英国車は存在した。だが、ハーバート・オースチン氏と見習い技術者だったスタンリー・エッジ氏が作り上げた、美しくシンプルな小型車は、現代に通じる要素を完全に抑えていた。
英国市民へ届ける準備が整ったのは、1923年。強固で安価なAフレームシャシーに696ccの4気筒エンジンと3速MTを搭載し、チャミーという愛称の付いたオープントップのボディで、大人2名と子供2名が乗ることができた。
英国価格は当初155ポンドと充分に手頃だったが、1934年には100ポンドで購入可能になっていた。当初、オースチンの安価な量産モデルに対しては、懐疑的に捉える人もいた。しかし、販売台数は急激に増加。彼が正しいことを、市場の反応が証明した。
1924年には手直しが加えられ、電動スターターやスピードメーターなどが追加。エンジンは747ccへ拡大され、当時の馬力課税の枠組みを超えたモデルという評判を集めた。
1926年末迄に製造されたセブンは、約1万5000台。ボディにはサルーンも用意され、様々なコーチビルダーが特装を手掛けるようにもなった。
モータースポーツのファンからも、セブンは重宝がられた。手頃な価格とメカニズムのシンプルさ、活気あふれる動力性能が、アマチュアにもピッタリだった。360kgと軽いシャシーは、荒野を走るトライアル・レースでも活躍している。
サイドバルブ4気筒エンジンの馬力は当初10.5psだったが、1930年から1933年のウルスター仕様では24psを発揮。スーパーチャージャーで加給すれば33psまで高まり、最高速度も120km/hに届いた。
運転する喜びを満喫できる最小のクルマ
今回ご登場いただいたオースチン・セブンは、1927年式。ボディはHテイラー&Co社による2シーター・シングルドアのセミスポーツ・タイプが架装されている。シャシーは9フィート(約274cm)で、スプリント・ギアが組まれている。
V型のフロントガラスと、カーペットの敷かれたフロアなどが与えられ、当時の価格は175ポンド。オースチンのカタログモデルより高かった。
見た目の特徴といえるのが、ボディ上半分を覆うファブリックだろう。グリーンに塗装された下半分と、ニッケルメッキのモールで区切られている。ボンネットには、ラッパのような吸気口も飛び出ている。Hテイラー&Co社が、ボートを得意としていた名残りだ。
3速MTにシンクロメッシュは備わらず、クラッチはスイッチのように突然つながる。それでも、小さなオースチンは機敏に反応し、小気味よく走る。
軽いボディのおかげで慣性は最小限。ダブルクラッチで2速へシフトアップし、ハイリフト・カムが組まれた活発なエンジンを吹かしたくなる。
ステアリングホイールへは、路面の振動が伝わってくる。サイドエグゾーストから、威勢の良いノイズが放たれる。コーナーでは、オープンボディから身体が転げ落ちそうになるが、積極的に運転するのが面白い。
こんなに楽しくても、環境負荷は最小限。ドライバーだけでなく、通り掛かる人も笑顔にする。運転する喜びを満喫できる、最小のクルマといって良いだろう。
英国には、驚くことに1万台近いオースチン・セブンが生き残っている。戦前のドライビング体験を、100年後の今も体験できる貴重な生き証人でもある。筆者も、思わず夢中になってしまうクラシックだ。
フィアット850 スパイダーとオースチン・セブン 2台のスペック
フィアット850 スパイダー(1965~1972年/欧州仕様)のスペック
英国価格:1017ポンド(新車時)/2万ポンド(約330万円)以下(現在)
生産台数:12万4669台(合計)
全長:3780mm
全幅:1500mm
全高:1220mm
最高速度:144km/h
0-97km/h加速:16.2秒
燃費:13.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:705kg
パワートレイン:直列4気筒843cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:49ps/6400rpm
最大トルク:6.2kg-m/4000rpm
ギアボックス:4速マニュアル
オースチン・セブン(1923~1939年/英国仕様)のスペック
英国価格:175ポンド(新車時)/2万ポンド(約330万円)以下(現在)
生産台数:約29万台(合計)
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:144km/h
0-97km/h加速:16.2秒
燃費:13.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:635kg
パワートレイン:直列4気筒747cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:24ps/5000rpm
最大トルク:−
ギアボックス:3速マニュアル
この続きは後編にて。
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