2023年1月、ソニー・ホンダモビリティがEV新ブランド「AFEELA」のコンセプトカーを発表。この会社は、自動車業界に新たな風を起こすのか? それとも悲観的なのか? その理由と今後の展開を考察していく。
文/高根英幸、写真/ソニー・ホンダモビリティ
打倒テスラは難しいか!? ソニーホンダEVが意外な業界にウケる可能性も
■ソニー・ホンダモビリティ新ブランド「AFEELA」の印象は薄い
CES 2023で初公開されたAFEELAのコンセプトカー
ソニーのクルマ作りがいよいよ本格的に始まる。それもホンダというこれ以上ないほど魅力的なパートナーを得て。ホンダとの合弁会社ソニー・ホンダモビリティがCES2023で発表した新ブランドAFEELAのコンセプトカーは、一見すると近未来感を感じさせる高級4ドアクーペといった出立ちだ。
抑揚の抑えられたツルンとしたボディは、高速走行より市街地での移動を快適に楽しめるものを目指しているようなイメージだ。それはホンダeにも通じる、どこかアナログチックで有機的なムードを漂わせている。
それでいてマグナ・シュタイヤーが作り上げたソニーモビリティ時代のコンセプトモデルVision-Sと比べ、内外装のディテールはより現実的な仕様へと仕立てられている。
しかし専用HPを見ても、まだぼんやりとしたコンセプトしか伝わってこない。生まれたばかりのブランドで試作車を発表しただけなので当然、という見方もできるが、そのいっぽうで2年後には予約を開始するというからテスラにも似たイメージ戦略を採っているようにも感じられる。
親会社があるため、テスラのような予約金制度のようなシステムは展開しないだろうが、ブランディングとしてAFEELAを未来感のあるEVメーカーへと仕立て上げたいのだろう。
エクステリアに加え、ヨーク型と呼ばれる航空機のようなU字型のステアリングを備えて、横長の大型ディスプレイがダッシュボードに広がる、近未来的なムードが漂う。
これを見て、ソニー・ホンダ連合で日本の自動車産業を活気づけてくれるのでは、と期待する向きもあるだろうが、筆者はやや懐疑的、いや悲観的と言ってもいい。その理由とソニー・ホンダが目指すべき方向性をこれから述べていく。
■クルマの中をエンタメ空間にして喜ぶのはどの層か
フロントエリアの両端まで横一線に広がるパノラミックスクリーンが目を引くインテリア。そ画面表示を遮らないよう配慮されたU字型のステアリングを採用
EVはバッテリー搭載量やモーターの出力で航続距離や加速性能がある程度定まってしまうため、コスト面がモノを言うだけで、これからはますます差が付きにくい分野になる。
AFEELAが想定している価格は、1000万円前後と言われており、ソニーホンダのブランド力ならその価格帯でもある程度説得力は出るだろうが性能面では差は出せない。
そのためAFEELAはオーディオ技術と合わせて、静粛性の高いEVならではの特長を活かして質の高いエンターテイメントを提供しようというのは分かるが、それだけで呼び込めるユーザーは限定的だ。
より広いウインドウから飛び込んでくる外界の情報があるため、没入感を得られるかは正直言って難しいところだと思う。移動しながらの車外の眺めは、見慣れた街並みでもライブ感があり刺激になる。
それにたとえレベル3の自動運転がかなりの範囲で利用できるようになったとしても、ドライバーは安心して移動中にエンターテイメントを楽しめるようになるのだろうか。助手席や後席の乗員も、ドライバーが共感しないようであれば、わざわざ移動中にエンタメ関連のコンテンツを車内全体を使って楽しもうとするだろうか。
「クルマを走るスマホにする」と、近未来のクルマが目指すイメージを伝えるセミナーの案内や記事を見かけることが珍しくない。これは一見、的を得ているように思えるが、実際には未来のクルマ像とはまったくかけ離れている。
スマホは自分の手で支えることで好きな位置に維持し、携帯できることができるコンピュータだ。それを走れるようにしたのが未来のクルマであれば、利便性はクルマ+スマホと何ら変わらない。スマホでできることをクルマの車内でできるようになったとしても、最初の珍しさだけで飽きられてしまうだろう。
■クルマ自動ドアの実現化は福祉・介護にも役に立つのではないか
車両に近づくと、迎えるようにドアが開き、車内センサーで個人を識別し、シートやステアリングのほか、体格に合わせて音響までも自動調整するという
AFEELAのコンセプトカーは、たくさんのセンサーを搭載し、知能のあるクルマを目指すとしている。例えば顔認証で人が近づくだけで開閉するドアが提案されている。
これはスマホの顔認証とECU、サーボモーターを組み合わせれば実現できることは予想できるが、実際にはドアの開閉による危険性まで含めた様々な安全対策が必要で、さらに電動化により重量増や消費電力の増大による航続距離への影響も考えると、本当に必要な機能なのか、今後議論される装備だろう。
むしろ自動ドアを実現するのであれば、車椅子のドライバーが一人で乗降できる機構や運転操作の簡素化など、これまでにないドライバーへのサポートなどクルマの可能性を広げる領域にこそ、技術開発が必要な分野ではないだろうか。
これによって介助者が必要なくなれば、人材不足や人件費負担、家族による付き添いなどの負担からも解放され、移動の自由を高齢ドライバーも含め皆が享受できるようになる。それによって経済も活性化されることにつながるハズだ。
また日本においては、充電の作業を煩わしいと感じさせるようではEVの本格普及はほど遠い。日本でソニーホンダがEVビジネスを成功させようとするのであれば、まずは独創的なアイデアと技術で、快適で利便性の高い充電環境を構築してみせてほしい。ホンダのディーラー網と、ソニーのユーザービリティの高い電子機器のノウハウがあれば、これまでにないシステムが構築できるのではないだろうか。
■ソニーとホンダの蜜月は果たしていつまで続くか
日本は新しいモノを創造する能力が低いと言われるが、ソニーとホンダはそれぞれの領域で独創性の高い商品でヒットを連発した発信力の強いブランドだ。
そして自動運転の分野においてもソニーのセンシングテクノロジーは武器になりうるが、親会社であるソニーは当然、他の自動車メーカーやサプライヤーにも製品や技術を提供して収益を得ることを狙うだろうから、どこまで独自技術を誇れるか難しいところだろう。AFEELAはある意味、ソニーの自動車ビジネスのショーケース的な存在でもあるのだ。
このあたりはホンダも同様で、ソニーホンダ以外の自動車生産量も確保しなければならないため、AFEELAに魅力が集中してしまうことは避けることになる。さらに自動運転や燃料電池ではGMとのパートナーシップもあり、自動運転ベンチャーのクルーズという従来からの協業関係もあり、そこにソニーが入り込んでくるのは難しい。
そう考えると、ソニーもホンダも協業できる領域は限られるのだから、合弁会社まで作る必要があったのかは少々疑問だ。協業によって生み出されるブランドイメージを確固たるものにするためだけに立ち上げたものであれば一時的な関係にすぎず、やがてはお互いがそれぞれの道を歩むことになるだろう。
生産はホンダが行うにしても、ソニーホンダモビリティだけで収益を確保できるようになるには、複数のモデルをラインナップする必要がある。そういった意味では今回のコンセプトカーを基本に、同じプラットフォームでSUVやミニバンを作り出す可能性は高い。
2020年8月に登場したホンダの初EV「ホンダe」
ホンダはクラリティ、ホンダeと先進的なクルマを作り上げながら、今一つヒットに繋げられなかったという苦い経験がある。そのコンセプト自体は悪くないのだが、そもそも市場規模が小さいところにも独創性を盛り込んでしまったのが失敗の一番の原因だ。
ニッチなカテゴリーでマニア受けするような凝った製品作りをするのはリスクが大きいことを、身をもって知っているハズだ。だからこそ、ソニーと協業する一方でGMと共同開発した燃料電池スタックを外販する方針を発表し、クルマ1台のパッケージに拘らない姿勢を打ち出している。まさに何でもあり、死に物狂いで色々な手段で未来の方向性を探っている状態だ。
だが、ようやく1割のシェアを確保したEVが乗用車の世界でメインストリームになるのは、意外と時間がかかりそうな気配でもある。したがって長い目でみれば、ソニーとホンダの蜜月は続いていくことはないのかもしれない。あるいはエンジンを止めると宣言したホンダは、今後の業績次第ではソニーに吸収されてしまう可能性もある。
まだ生まれたばかりのブランド、コンセプトカーを発表したばかりの状態ながら、すでにレッドオーシャンになりつつあるEV業界に殴り込みをかけるソニーホンダ陣営にはそれでも、トヨタ連合同様頑張っていただきたいのである。
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