この記事をまとめると
■GRヤリスとGRカローラには「GR-FOUR」という4WDシステムが搭載される
時代を先取りしすぎて売れなかった……いま復活すれば人気車になりそうなクルマ4台
■トヨタにはかつて「GT-FOUR」というグレードのクルマがあった
■当時WRCの世界で猛威を降っていた「GT-FOUR」を名乗った名車たちを振り返る
GR-FOURのご先祖「GT-FOUR」を振り返る
2020年に登場した4WDスポーツのGRヤリス。WRCのノウハウを活かして開発されたこのモデルの重要メカニズムのひとつである4WDシステムには、「GR-FOUR」という名称が与えられた。その名を聞いて、往年の「GT-FOUR」を思い出して「懐かしい」思ったあなたは長年のクルマ好きか、なかなかなクルマオタクだろう。今回は、そんなトヨタの4WDスポーツの歴史を作ってきたGT-FOURを振り返りつつ、改めてGR-FOURを見つめ直してみよう。
初代セリカ GT-FOUR(ST165)
GT-FOURという名前が初めて世に出たのは1986年10月のことであった、前年に4代目へとフルモデルチェンジしたセリカに、ハイパワーターボエンジンと4WDシステムを採用する高性能な上級モデルとして登場したのが初代セリカGT-FOURだった。
新開発となるツインカムターボエンジン(当時はDOHCエンジンにターボが付くことは凄かった)、3S-GTEは、当時の2リッターの量産エンジンとしてはトップレベルの185馬力を発生。それをセンターデフ方式のフルタイム4WDで受け止め、路面に伝えている。センターデフ方式を採用することにより、フロントとリヤの回転差を吸収し、4WDながらスムースなコーナリングが可能となったのだ。
このST165セリカが登場した当時、WRCは2WDから4WDへの転換期でもあった。WRCのグループA規定への変更により、販売台数の関係からかセリカGT-FOURの実戦投入は1988年まで待つことになるが、それまでFRのスープラで戦っていたTTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)にとって、セリカGT-FOURの登場はうれしかったことだろう。なお、1990年にはカルロス・サインツがドライバーズタイトルを獲得した。
また、このセリカと言えばスクリーンでの活躍も忘れてはならない。1987年に公開された映画「わたしをスキーに連れてって」原田貴和子演じる佐藤真理子、高橋ひとみ演じる羽田ヒロコの愛車として登場した。4WDは雪に強いと謳う彼女たちがセリカGT-FOURで雪道を疾走する映像は、当時の若者たちに大きな影響を与えたのだ。
2代目セリカ GT-FOUR(ST185)
セリカGT-FOURとしては2代目となったST185は1989年に登場した。このときは、2WDのセリカが5代目になるのと同タイミングでのフルモデルチェンジと同時にラインアップ。新採用となったツインエントリーセラミックターボは、エキゾーストとタービンハウジングの通路をデュアル化して排気ガス干渉をなくし、タービンホイールにセラミックを採用して軽量化を施し、レスポンスを向上させた。これによりエンジンは225馬力にパワーアップ。また、日本車初となるトルセンLSDも採用され、より高い駆動力とコントロール性を手に入れた。
1991年9月にはWRCのホモロゲーションモデルとして「セリカGT-FOUR RC」が世界限定5000台で販売された。RCは「ラリー・コンペティション」の頭文字である。タービンの変更や水冷式インタークーラーの採用などにより、さらに性能が高められていた。
WRCでは、1993年に日本車初のマニュファクチャラーズタイトルを獲得。6連覇を成し遂げていたランチアを抑えての快挙であった。なお、この年はセリカGT-FOURをドライブするユハ・カンクネンがドライバーズタイトルを獲得したため、ダブルタイトルを獲得する偉業を成し遂げている。ちなみに、翌1994年もディディエ・オリエールがドライバーズタイトルを獲得し、ダブルタイトルとなった。トヨタWRCの最初の黄金期はこのST185で迎えたと言える。
トヨタ=WRCのイメージを確固たるものに
3代目セリカ GT-FOUR(ST205)
リトラクタブルヘッドライトから丸目に変更された6代目セリカは1993年10月に登場。GT-FOURは遅れて1994年2月に登場した。
先代のGT-FOUR RCで専用装備であった水冷式インタークーラーをカタロググレードにも標準装備し、エンジンは255馬力にパワーアップ。ブレーキも対向4ピストン、リヤ対向2ピストンに容量アップされ、タイヤもインチアップされた。
このST205でもホモロゲーションモデルである専用グレードが登場。こちらは「GT FOUR WRC仕様車」という名称が与えられた。世界限定2500台、国内限定2100台で販売され、大型のリヤスポイラーやフードエアスクープなどが特別装備として与えられた。
WRCには1994年から参戦するが、この代からはなかなか苦しい戦いとなった。また、技術規定違反が問われることもあり、約2年でST205でのワークス活動は終了。その後、TTEはWRCへと復帰するが、このときはカローラでの参戦となった。1999年に7代目へとセリカはモデルチェンジするが、GT-FOURはラインアップされず。ST205が最後の「セリカGT-FOUR」となった。
カルディナ GT-FOUR(T240)
GT-FOURの名前を冠したのはセリカだけでない。トヨタの快速ツーリングワゴンとして愛された、カルディナにも与えられた。2006年に登場した3代目カルディナのトップグレード「GT-FOUR」には、260馬力を発生する3S-GTEエンジンとセンターデフ式フルタイム4WDシステムを装備、さらに上級のNエディションにはリヤにトルセンLSDが標準装備された。なお、Nエディションの「N」はニュルブルクリンクから由来している。
一説にはニュルでのラップタイムは80スープラより速かったと言われているので、カルディナGT-FOURの実力は相当なものだ。ATしかラインアップにはなかったものの、この実力と3S-GTE&フルタイム4WDというパッケージは「GT-FOUR」を名乗るにふさわしいと言える。
GRヤリスにGR-FOURを搭載へ
そして、長年の空白期間から2020年にGR-FOURという名称でトヨタの4WDスポーツは復活した。GR-FOURは多板クラッチによる前後駆動力可変システムを採用し、前後駆動力配分の自由度が大きく取られた。これにより、通常時はフロント6:リヤ4、スポーツモード時はフロント3:リヤ7、トラックモード時だとフロント5:フロント5という駆動配分を可能にしており、安定感やコントローラブルなハンドリング、そして速さと必要な場面に応じてモードを切り替えることで求める性能を実現しているのだ。
GRヤリスのトップグレード「RZ High-performance」にはリヤにトルセンLSDが装備されているあたりも、なんだかGT-FOURの面影を感じる。
単純な4WDではなく、スポーツ4WDに名付けられ続けたGT-FOUR。GR-FOURはその後継の名前にピッタリのメカニズムとドライブフィールを持ったスポーツ4WDシステムなのだ。
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