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アイルトン・セナ没後30年記念コラム:強烈な個性を持つ天才ドライバーがF1にもたらした新基準

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アイルトン・セナ没後30年記念コラム:強烈な個性を持つ天才ドライバーがF1にもたらした新基準

 今年の5月1日は、1994年F1サンマリノGPでの事故でアイルトン・セナが死去してからちょうど30年に当たる。長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、F1の歴史のなかでセナが稀有な存在である理由について記した。

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F1名ドライバー列伝(1)アイルトン・セナ:王者プロストを青ざめさせた予選ラップ

 あるサーキットがひとつの出来事に関連して記憶されることはあるかもしれないが、イモラとアイルトン・セナの死ほど深い結びつきのある組み合わせは他にないだろう。素晴らしい戦いや歴史的瞬間の舞台となったサーキットであるアウトドローモ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリにとって、悲しい出来事を想起されるのは残念なことだろうが、イモラがセナを思い起こさせるのは現実として致し方ないことであろう。

 セナは、F1というスポーツよりもはるかに大きな存在になった最初のF1ドライバーだった。彼が命を落とす原因となったクラッシュを、数億人ものファンがテレビの生中継で目撃し、葬儀のために300万人以上ものブラジル人が集まり、サンパウロの通りに列を作った。また、クラッシュの原因について決定的な結論が示されなかったことで、その謎が、セナの神話に深みを与えた。

■さまざまな面でF1における先駆者だった

 セナがさまざまな面でF1ドライバーの基準を引き上げたということに、疑いの余地はない。F1において体力がいかに重要かをすぐさま理解したセナは、身体面の強化に懸命に取り組み、サンパウロを拠点とする有名なトレーナー、ヌーノ・コブラと契約した。

 セナはまた、専属の広報担当者を雇った最初のF1ドライバーで、予選後に毎回、ポルトガル語、イタリア語、英語でのメディアからの質問に対応した。セナは自分のメッセージを伝えるために、個人的にジャーナリストや雑誌にコンタクトを取り、自分に関して良い報道がなされるよう、当時、強い影響力を持っていた何人かのジャーナリストを味方につけようとした。

 彼のインタビューは長く、すべての答えが慎重に選び抜かれた言葉で構成されていた。1987年にはフジテレビと先駆的な関係を築いたことで、日本で大きな注目を集め、すぐさま日本のファンにとってアイドル的な存在になった。マクラーレン・ホンダで3回のタイトルを獲得するなかで、日本でのセナの人気はさらに高まっていった。

■レース中のエチケットについては負の面も

 セナが基準を変えたもののひとつとして広く知られるのは、レース中のエチケットだ。ただし、それは必ずしも良い方に変えたとはいえない。「通してくれ、でないとクラッシュが起きるぞ」という態度によって彼は、あれほどの才能と勝利への意欲を持ったドライバーとしては異常ともいえるほど多くのアクシデントに巻き込まれた。いくつかの露骨な行動に対して処罰がなされなかったことで、まだカートで走っている子どもを含む若い世代において、彼の態度が受け入れられてしまった。

 F1の世界では、ティエリー・ブーツェンとマウリシオ・グージェルミン以外、真の友人はほとんどいなかった。セナは、ライバルたちがコース上で自分を特別に扱うよう仕向けようとした。

 当時、ブルーフラッグには強制力はなく、バックマーカーはリーダーたちからポジションを守ることができた。しかしセナは、バックマーカーたちに大きな恐怖を植え付けていたので、周回遅れを処理し始めると、アラン・プロストやネルソン・ピケに対して、何秒もタイムを稼ぐことができた。

 ホイール・トゥ・ホイールのバトルになったときには、セナは相手に全くスペースを与えず、自分が必要なスペースを確保することに努めた。このポリシーが通用しなかったのは、相手がナイジェル・マンセルの場合だけだった。

■後輩ドライバーたちとのふたつのエピソード

 セナがF1における自分の立ち位置をどのように考えていたのかについて、当時若手ドライバーだったふたりが、興味深いエピソードを伝えている。そのうちひとつはセナのドキュメンタリーに含まれていたので、知っているファンも多いだろう。

 1993年のエストリルでマクラーレンでのデビューを飾ったミカ・ハッキネンは、予選でセナを0.05秒弱の差で上回った。セナは自分がなぜ負けたのか理解できず、ハッキネンに対して、あるコーナーで最速だった理由を尋ねた。

 その時、ハッキネンは「度胸ですよ」と答える際に冗談でスラングを使ったところ、セナはすさまじい反応を見せたという。セナはハッキネンに対し、「お前は今まで何回勝った? 何回チャンピオンになった? 何回ポールを獲った?」と叫び、自分との成績の違いを指摘し、激怒しながらモーターホームを去った。セナは、数週間後のシーズン最終戦まで、ハッキネンに話しかけることはなかった。

 同じ1993年、圧倒的強さを誇っていたウイリアムズ・ルノーに乗るデイモン・ヒルとポジション争いをした後のことだ。ヒルのディフェンスに不満を持ったセナは、レース後にヒルをつかまえて、「二度と僕に対してああいうことをするな」と警告した。

 ヒルは「でも、あなたが同じことを他のドライバーに対してやっているのを見たことがありますけど」と言うと、セナは「僕が言ったことを聞いていなかったのか。僕に対して二度とああいうことはするな!」と鋭く速やかに返したという。

■強い個性と稀有な才能を持ったカリスマ

 セナは速いドライバーだったか? それは間違いない。情熱的か? それも疑いようがない。超プロフェッショナル? 当時は他に類を見ないほどだった。カリスマ的? 私がドライバーにあれほどのカリスマ性を感じたのは、他にマリオ・アンドレッティとカルロス・サインツSr.だけだ。悲劇の死から30年たっても、そのパーソナリティについては、関係者のなかで意見が分かれる部分があるものの、セナはドライバーとして真の天才であり、政治的な手腕においても極めて優れていたことは、紛れもない事実だ。

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みんなのコメント

3件
  • dai********
    今でも私のアイドルです。95年や96年は何をしていたか覚えてないけど1994年だけは鮮明に覚えてます。
  • こまんたれぶー
    テレビ戦略にまんまとやられてますね。
    当時のファンは男がほとんどで女性は少なかった。更なる経済効果を狙う為、女性ファンを増やす必要があった。
    そこで古館を使い、セナを「音速の貴公子」と呼んだ。女性誌でも数多く取り上げられ、「音速の貴公子」セナに夢中になった。
    当時、子供の名前も瀬奈、ドラマの主人公も瀬名。
    ヒーローにはヒール役が必要でそれがプロスト。
    鈴鹿サーキットのシケインでの接触。車の優先権は前走車にある。それを無理矢理ねじ込むセナ。箱のレースは多少の接触はあるが、タイヤ剥き出しのF1などは絶対に駄目!死にますよ。その翌年の鈴鹿サーキットでの第一コーナーでの接触。これも駄目!当時セナは「鈴鹿のポールはインではおかしい、アウト側にしろ」と不服申し立てをしたが通らず、腹いせに意図的に接触。これはセナも認めています。
    それなのに何故か悪者はプロスト。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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