早くも2023年は4月を迎えて新年度に入ったが、世間を騒がしているのは値上げのニュースばかりだ。円安による輸入品の価格高騰に加えて、例えば鳥インフルエンザの流行による卵不足など深刻なニュースが多い。クルマ業界も同様で、年初から各モデルの値上げが発表されている。これが新年度に入り加速しそうな勢いなのだ!
文/小林敦志、写真/日産、トヨタ、Adobe Stock(トビラ写真:sumire8@Adobe Stock)
リーフは100万アップも「値上げは悪」か? 国産車の値上げラッシュの予感はどうなるのか
■厳しいEV関連部品 ノートの上位グレードは100万円以上の値上げ
日産は2023年2月27日にノートおよびノートオーラの値上げを発表した
日産自動車は2023年2月27日に、ノート及びノートオーラの価格改定を行うとのリリースを発信した。“世界的な原材料費や物流費などの高騰を鑑み“と価格改定の理由を説明、2023年5月より価格引き上げを行うとした。
例として、ノートオーラGはこの価格改定によって4万5000円の値上げとなった。またリリース発信時にはノートSグレードの改定価格は発表されておらず、シビアな価格調整が続いているのだなと感じた。
さらに本稿を執筆していると、2023年3月31日にホンダから“N-BOX、FREED、STEP WGN価格改定について”というリリースが発信された。リリースでは価格改定の理由を“原材料価格や物流費などの世界的な高騰に伴い”とし、前述した3車種の事実上の価格引き上げでの販売2023年4月21日より開始するとした。
一例としてはN-BOXのFF Lで1万9800円、フリード・ハイブリッドG FF(7人乗り)で5万5000円、ステップワゴンe:HEVスパーダ(FF/7人乗り)で5万5000円の価格アップとなっている。
ちなみにステップワゴンで同グレードのガソリン車とHEV車の価格アップ分は同じ5万5000円であった。新年度をむかえ、これからも新車の価格改定の動きが活発化するか注目したいところである。
おもに欧州からとなるが、輸入車はすでにブランドによっては複数回の車両価格の引き上げを行っている。しかも1回で数十万円レベルでの引き上げも珍しくなく、それに比べると引き上げ幅が小さいのは明らか。
輸入車は例えば欧州ブランド車で欧州生産車ならば欧州から船便で日本に持ってくることになる。この海上輸送費がいまどきではバカにならないことが大きく影響していると言ってもいいだろう。
ノートのケースでは今回の車両価格引き上げとともに、一部メーカーオプション構成の見直しも実施しているとのことなので、見直しによって生産コストの引き下げも行い、価格の引き上げ幅を抑えているようである。
日産はこれに先立ち、2022年12月にBEV(バッテリー電気自動車)となるサクラとリーフの価格改定をノートと同じく原材料費や物流費の高騰を理由に実施している。
リーフの“e+G”で約103万円、サクラGで約10万円の車両価格引き上げとなっている。BEVはICE(内燃エンジン)車に比べ生産コストがかかり割高な製造原価になってしまうのだが、利益を減らすなどしてできるだけ価格転嫁しないようにする傾向がある。
原材料や物流費の高騰を吸収する“蛇腹”がほぼないともいえ、いち早く車両価格引き上げが行われたものと考えている。
スーパーなどで卵が1パック400円になるなど、世の中では食料品や日用品の値上げがとまらない。食料品ではすでに複数回の値上げが実施されている商品も珍しくいないのに、新車というか日本車ではいまもってほぼ値上げという声は聞こえてこない。
その背景にあるのは、メーカーだけでなく新車を販売するディーラーの“企業努力”が大きく影響しているのは間違いない。我々エンドユーザーへの販売価格は目立って引き上げられていないが、メーカーから販売ディーラーへのいわゆる“卸売り価格”はすでに引き上げられているようである。
しかしそれがダイレクトにメーカー希望小売価格に反映されないで販売が続く代わりに、車両価格や用品からの値引き、下取り査定額の上乗せなどを引き締めることで、なんとかディーラーは赤字にならない程度の利益を上げているのである。
「ここまで世の中のインフレが深刻になる前に比べれば車両価格からの値引き額はかなり引き締まっております。新車からの利益がますます減少傾向にあるなか、アクセサリーを中心とした用品値引きや下取り査定額の上乗せを抑え、できるだけ全体で利益確保に努めようとするディーラーが目立ちます」とは事情通。
また、一部ディーラーでは点検・整備や用品装着などの作業工賃の値上げを実施しているとの話も聞いている。これは車両価格引き上げの背景にある、部材費や物流経費の上昇というよりは、慢性的なメカニック不足のなか離職者が目立っており、労働環境改善(おもに賃上げ)を進めようとの狙いのほうが大きいようだ。
新車の販売現場は車両価格の値上げへの不安と同等もしくはそれ以上に、慢性的な販売職も含めた“働き手不足”への不安も大きくなってきているのである。
■4月以降に値上げが加速するとの声あり
各社が価格改定を発表する中で、納期の長いクルマを受注しているディーラーは、その対応に苦慮している
しかし問題はそのタイミングだ。ノートは2023年5月からとしているが、これはノートが比較的納期が短いことで価格改定がある意味スムーズに行われている。
しかし、これが納車までに1年やそれ以上かかるモデルでは、それだけバックオーダーを抱えているのだから、そのなかで価格引き上げを行えばいたずらに混乱を招くことになるだろう。
日本車の価格引き上げについては、ノートのようにメーカーオプションを見直しながら引き上げ幅をできるだけ抑えようとしてくる傾向が目立ってくると筆者は判断している。そうなると、価格引き上げを発表してもその実施が1年後やそれ以上になってしまうモデルも出かねないものと考えている。
最近目立っている新規受注停止車については、受注再開のタイミングで“新価格”に移行しやすいともいえるだろう。
スズキは2022年11月にオンライン開催した2022年度上期(2022年4月~9月)の連結決算会見において、鈴木社長は“単純に原材料費高騰などを価格に転嫁する値上げはできない”とした。さらに、“装備内容の見直しなどで価格を抑えやすくなる”ともした。過剰装備気味のいまの新車の装備内容の見直しで価格抑制は可能だということらしい。
スズキは販売現場をまわってもセールスマンからは、「ウチのクルマは装備をおごっている」といった発言をよく聞く。確かに日本の軽自動車は自動変速やオートエアコン、クルーズコントロールなどが普及グレードでも当たり前のように装備されるが、世界の同クラス車ではエアコンすら装着されないケースもあるので、その意味では“過剰装備”といわれてもおかしくない。
ただ、一度そこまで装備をグレードアップさせ、ユーザーもそのような装備があるなかで乗っていたのを、ある日突然装備を減らすというのはなかなか難しいだろう。
■原材料高騰の中 生産価格の抑制にメーカーも必死
2022年10月に改良を行った新型カローラは、ガソリンのFF車のみリアサスペンションの構造を変更。カローラクロスと同じトーションビーム式となった
筆者は2022年秋に南カリフォルニアを訪れた時に、アメリカンブランドの「トヨタカムリクラス」のセダンのレンタカーを借りた。そのモデルは2022年モデルでは自動ブレーキまで非装着として価格アップそして納期遅延をできるだけ抑えようとしていた。レンタカーで借りたモデルだったが、筆者としては複雑な気持ちになった。
また2023年2月に2022年10月に改良を行ったトヨタカローラセダンが筆者のもとに納車されたが、それまで乗っていた現行・前期型のダブルウィッシュボーンリアサスペンションがトーションビームに変更された(ガソリンエンジン車)。
なまじ3年ほどダブルウィッシュボーン車に乗ってしまったので、「ああ、やっぱり4輪独立サスペンションではないな」ということは乗り出してすぐわかった。
“のり弁当”で入れていた白身魚フライの価格高騰が顕著なのでコロッケに切り替えるか、そのまま50円値上げするのとどちらが顧客満足度を維持できるかというのと同じぐらい難しい選択を、これからメーカーやディーラーは迫られることになりそうだ。
日本では全体的に価格を引き上げずに商品を売ることを“良心”と捉えた報道が目立っているが、これが目立ちすぎると“値上げは悪”ということになりかねない。これが悪循環となり、まわりまわって自分たちの収入がなかなか上がらないことにつながっているとは、最近よく語られる話。
自動車用鋼板の値上げなど、自動車生産の根幹部分の原材料費もいよいよ値上がりが顕著となってきた。そして、いままでメーカーやディーラーの、まさに血のにじむ企業努力で値上げをなんとか抑えてきたが、それもすでに限界に近付いている。
筆者の見方としては2023事業年度下期、つまり2023年9月以降日本車の車両価格引き上げは目立ってくるのではないかと考えている。
新型プリウスは発売後の値上げも想定済みの価格設定とみられており、値引きゼロを前提に極力先代からの価格アップを抑えているという声が販売現場では聞かれるという
新型プリウスは販売現場では「思っていたより価格は先代比で上がっていなかった」という声も聞く。モデルチェンジやマイナーチェンジでの価格改定で原材料費の高騰などを転嫁するのはよくあること。
新型プリウスは発売後の値上げもコミコミでの価格設定ではないかといった声も販売現場では聞くが、その一方で値引きゼロを原則としているので、極力先代からの価格アップを抑えているという声もある。
今後注目なのは6月デビュー予定の次期型アルファードの車両価格となるだろう。日本国内で圧倒的な販売シェアを持つトヨタが、いまの車両価格引き上げムードをどのように捉え、そして今後どのように動くのか、そこに今後の日本国内での日本車の車両価格の動きを左右させるものがあるといっても過言ではないだろう。
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みんなのコメント
政治家は、対応してるふり…
出来る努力じゃ、どうにもならん…どうしましょうね。
売れるなら値上げは別にいいと思うけどね。