ロシア製の高級車といわれて、すぐにイメージできるモデルはあるでしょうか?大多数の方にとって、おそらく思い浮かぶモデルはないはずです。強いていえば、旧ソビエト連邦時代の「ジル」「チャイカ」といった政府高官用の高級車しか思い浮かばないのが実情でしょう。
そんな状況の中、ロシアのプーチン大統領が自国の自動車産業を育てるべく、新たに立ち上げた自動車メーカーが「アウルス(AURUS)」。そのフラッグシップモデルとなる高級乗用車「セナート(SENAT)」が、2019年のジュネーブ・モーターショーで国際デビューを果たしました。今回は会場での注目度が高かったアウルス・セナートの詳細をご紹介します。
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異様な存在感を発揮していたAURUS ブース
3月7日から17日にかけて開催された第89回ジュネーブ国際モーターショー。世界中の報道陣が集まるプレスデイ初日には、世界のさまざまな自動車メーカーがきらびやかなプレゼンテーションを行い、注目のニューモデルを発表しました。そんな中、一箇所だけ異様な雰囲気を醸し出しているブースがありました。「AURUS」と書かれたそのブースは、ショーが開幕した後もずっと真っ黒なカーテンでブース全体を囲い、ひたすら沈黙を貫いていたのです。
プレスデイでは、できるだけ早い時間帯にニューモデルを発表して、少しでも長く展示時間を確保したいとどのメーカーでも考えます。そのため多くのメーカーが集まるジュネーブでは、朝8時台からプレスカンファレンス(記者発表会)が集中。同時刻に2つのメーカーの発表が重なり、数年前から事実上すべてのプレスカンファレンスを見られない事態となっています。メーカーとしては、スケジュールが重なって取材陣の数が減るデメリットよりも、できるだけ早くお披露目をするメリットの方が大きいのです。そのため、プレスカンファレンスが午後遅い時間になってしまったメーカーは、ずっとボディカバーを被せた状態でニューモデルを置いておくか、もしくは最初からニューモデルを公開し、プレスカンファレンスの前に再度ボディカバーを被せて、改めてアンヴェールしています。
しかし、「AURUS」は違いました。「AURUS」のプレスカンファレンスは午後3時30分。そのときまで、一切の活動を行わず、カーテンを閉め切っていたのです。筆者はこれまでジュネーブで20年以上取材していますが、このような出来事はまったく前例のないものでした。この日は午前7時30分に開場していたので、実に8時間にわたって息を潜めていたのです。
そしてプレスカンファレンスの開始時間とともに、文字通り満を持しての幕開け。発表前から只者ではない存在感を発揮していたのです。
アウルス・セナートとは?
このアウルス・セナートとは、ロシアの国営組織NAMI(中央自動車エンジン科学研究所)が開発した高級車です。このモデルは、2018年5月7日に行われたプーチン大統領の就任式に初登場。それまで使用していたVV221のメルセデス・ベンツ S 600 Pullman Guardに代わる新たな大統領専用車として、まずはリムジン仕様がお披露目されました。
その後、同年8月のモスクワ・モーターショーでは標準ボディのモデルを初公開。そして2019年のジュネーブ・モーターショーでついに国際デビューを果たしました。
ブランド名の「AURUS」とは、「AURA」(オーラ)、ラテン語でゴールドを表す「AURUM」、ロシアを表す「RUS」を組み合わせたもの。読み方としては、アウルス、アウラス、オーラスなどが考えられたため、「AURUS」のスタッフに直接訪ねてみました。何度も繰り返し発音してもらったところ「アウルス」が正しい呼び名でした。ちなみに車名の「SENAT」については、「セナットゥ」が実際の発音に近い表記になります。日本では「セナート」の呼び名が一般的なため、今回の表記もそれに合わせました。
各部に競合車の影響が感じられるデザイン
ブースのメインステージに展示された車両は、カッパーゴールドのボディカラーをまとった、標準ボディのセナート S600。最近のフルサイズ・ラグジュアリーセダンの中では背の高さが特徴的です。そのため、一見するとロールス・ロイスのSUV「カリナン」のような印象さえあるほど。押し出しの強さはむしろロールス・ロイス以上で、後ろから迫ってきたら、とりあえず道を譲って置いたほうが良さそうな威圧感を感じさせます。
ディメンションは、全長5630 mm、全幅2020 mm、全高1685 mmで、ホイールベースは3300 mm。ロールス・ロイス ファントムと比較すると、全長は140 mm短く、全幅は同一、全高は40 mm高く、ホイールベースは250 mm短いという具合。ロールス・ロイスではゴーストよりもファントムに近いサイズ感になります。
パワートレーンは、ポルシェエンジニアリングとの共同開発によるV8ハイブリッド。排気量4400 ccのV型8気筒ツインターボガソリンエンジンは、最高出力598 ps/5500 rpm、最大トルク880 Nm/2200-4750 rpmを発揮します。ハイブリッドは350 Vの高電圧システムを採用。62 psを発生させる電気モーターと、LifePO4 テクノロジーによる大容量バッテリーを搭載。ロシアの気候や道路事情に合わせた設計とされています。
トランスミッションは、ロシア初のトランスミッションメーカーとなる「KATE」製の9速ATを採用。出力はトランスファーにより前輪と後輪に振り分けられ、4輪を駆動します。
車重は3135 kgで、動力性能は0-100 km/h加速6秒、最高速度250 km/h(リミッター作動)と発表されました。
先進安全技術も充実していて、ADAS(先進運転支援システム)、スタビリティコントロール、アダプティブクルーズコントロール、エマージェンシーブレーキシステム、歩行者を認識する衝突回避システムなどを装備。さらに道路標識の認識システム、死角検知システムなども備え、高い安全性を謳っています。
モジュラー仕様のプラットフォームを使用するため、今回発表されたセダンとリムジンに加え、今後は「Arsenal」と呼ばれるミニバスと、「Komendant」と呼ばれるSUVが登場する予定。カタログにはすでにその姿が掲載されています。
タイヤサイズは255/55 R20で、今回の展示車両にはピレリ SCORPION VERDE が装着されていました。
トランク容量は未発表で、トランクスルー機能は非装備となります。ハイブリッドシステム用のバッテリーの張り出しが気になるものの、十分以上のスペースを確保しています。
ドアをボディ下端まで伸ばし、フロアとドアシルを同一の高さにする方法は、ロールス・ロイス カリナンと同じ。もちろんドアにはソフトクローズ機能が備わります。
シートクッション側面のシート調整スイッチには、ランバーサポート、メモリー機能、助手席コントロール機能などが集中配置されています。
メーターパネルとメディアディスプレイを一枚のように見せるデザインは、メルセデス・ベンツ Eクラスなどと同様。マルチファンクションステアリングのデザインには、W222前期型のメルセデス・ベンツ Sクラスの影響が感じられます。
フロントとリアのルーフコントロールパネルにはウッドパネルを採用。ルームライトやカーテンの操作スイッチに加え、緊急時向けのSOSコール用スイッチも装備しています。
リアエンターテインメントシステムは左右独立式で、左右のドアアームレスト部にそれぞれコントローラーを配置。Harman製のワイヤレスヘッドフォンも装備されます。
今回の展示車両には左右独立式のリアシートを装備。リアコンソール周りのデザインには、ロールス・ロイス ファントムやメルセデス・マイバッハ Sクラスの影響が感じられます。もちろん、後席の居住性は申し分なく、リラックスした姿勢でくつろぐことができます。
後席用エアコンのコントロールパネルはリアコンソールに配置され、その下にはホット/コールド兼用のドリンクホルダーが収納されています。ちなみにリア中央送風口の下にあるパネルを開くと、シガーソケットと230V電源、それにリアエンターテインメントシステム用のUSB端子(左右独立)が装備されていました。
左右シート間のカバーを開くと、上部は小物入れ、下部にはクーラーボックスが設置されていました。
会場にはロールス・ロイスやベントレーのようなビスポークをイメージさせる展示があり、特にレザーカラーの豊富さが印象的でした。アウルスでは、顧客が同社のデザイナーやエンジニアと対話し、顧客のキャラクターや個性を表現した車両の製作が可能と謳っています。特注色の内外装をもちろん、例えばヘッドレストやウッドパネルなどに紋章やサインを入れたり、小物入れをシガレットケースにするような変更にも対応できるのではないかと思われます。
プーチン大統領御用達、セナート リムジン L700とは?
アウルス・ブースには展示車両がもう一台ありました。それがガラス張りの別室に置かれたセナート リムジン L700です。
プーチン大統領専用車としても知られるこのモデルは、その名の通り、標準ボディのセナート S600をベースにしたリムジン。ホイールベースは1000 mm延長されて4300 mmとなり、全長は実に6630 mmに達します。この数値はロールス・ロイス ファントム EWBより640 mm長いだけでなく、メルセデス・マイバッハ S 650 プルマンに比べてもさらに130 mm長いという巨大なもの。現在市販されている高級乗用車のカタログモデルでは世界最長となっています。
パワートレーンはセナート S600と同じ4.4L V8ツインターボエンジン+ハイブリッドで、9速ATとAWDシステムも共通です。最大の違いは、展示車両には装甲装備が施されていたこと。これにより車重は実に6950 kgに達し、0-100 km/h加速は12.5秒、最高速度はリミッターにより160 km/hに制限されます。
ちなみにプーチン大統領が以前使用していたVV221のメルセデス・ベンツ S 600 Pullman Guardの車重は、最高レベルの装甲を施した状態で4815 kg。両者を比較すると、実に2トン以上の重量増となっています。セナート リムジン L700のカタログを見てみると、VR8/VR10規格の特別装甲に加え、銃撃に耐えられるタイヤ、消火システム、酸素供給システム、追加バッテリー、外部用インターコムなどの特別装備が掲載されていました。とはいえ、同様の装備はメルセデスの防弾車両にも備わっているため、重量増の理由はほかにありそうです。
そう考えると、通常モデルであるセナート S600の車重が3135 kgに達しているのが気になります。例えば同クラスの競合車の場合、メルセデス・マイバッハ S 650は2360 kg、ロールス・ロイス ファントムでも2700 kg程度です。アウルス・セナートは、リアに102kgのハイブリッド用バッテリーを積んでいることを差し引いても、相当に頑丈なボディ設計が行われている可能性があります。
また、セナート リムジン L700の下回りを観察したところ、通常モデルのセナート S600にはない装甲板が装着されていました。ただ、メルセデス・ベンツの防弾車両であるW222のS-Guardに比べて、装甲板がやや薄い印象でした。これらをまとめると、分厚い追加装甲が不要なほど、車体自体の装甲レベルが高いということも考えられます。
その重い車体を支えるタイヤサイズは20インチ。展示車両のサイズはセナート S600と同じ255/55 R20で、「KAMA 133」と書かれた通常のラジアルタイヤが装着されていました。KAMAはスロバキアのタイヤメーカーのため、アウルス・セナート専用タイヤの可能性があります。
ただ、前述のメルセデス製防弾車両には、特殊な構造を持つミシュラン PAX ランフラットシステムが装着されています。これは、銃撃などによりタイヤの空気が失われても、タイヤがホイールから外れることなくその場から逃げられるよう設計されたもの。そんなPAX タイヤに比べると、今回のタイヤはとても銃撃に耐えられるようには見えませんでした。おそらくこのタイヤはあくまでも展示用であり、特別装甲に適した本仕様ではないと思われます。
左右のフロントフェンダーには、フラッグポールが装備されていました。これは国旗を取り付けたポールをワンタッチで装着できるアタッチメントです。
防弾ガラスのため、通常モデルに比べてウィンドウの視野が全体的に狭くなっていることがわかります。ちなみに防弾ガラスは、ロシアのMagistral Ltd製でした。
セナート リムジン L700のユニークな装備は、BピラーとCピラーの間のサイドウィンドウをはめ殺しにして、その内側にディスプレイを装備していること。防弾車両の場合、機能的に不要なウィンドウははめ殺しにして、その部分に追加装甲を施すほうが効果的です。
例えば、メルセデス・ベンツ Gクラスベースの防弾車両「G-Guard」では、ラゲッジルーム部分のサイドウィンドウをはめ殺しにして、追加装甲に充てています。セナート リムジン L700の場合も、同様の理由で左右のウィンドウを潰しているのです。ただ、そのままでは後席の乗員は外の状況がまったく把握できないため、はめ殺しにした左右のパネル部分にカメラが埋め込まれています。
写真では解りにくいかもしれませんが、Cピラーの前方上寄りの部分に1箇所だけ色が異なる部分があり、そこにカメラが設置されています。このカメラは斜め前方に向けられていて、その様子は内側の左右に設けられたディスプレイに映し出されます。いわば、通常のウィンドウ越しの景色をカメラを通じて再現しているのです。車内の撮影は固く禁じられていたためディスプレイの写真はありませんが、リアルタイムに外の様子を映し出していることを確認できました。
ちなみにウィンドウ越しに確認したリアコンパートメントは、大きなセンターコンソールがパーティションからリアシートまで連続して設けられているため、左右が完全に分離されていました。また、メルセデス・マイバッハ S 650 プルマンと同様に、後ろ向きの格納式補助席が装備され、定員は6名でした。
日本で実車を見られる機会は来るのか?
このようにユニークな内容を持つロシア製高級車のアウルス・セナート。ロシアではすでに予約受注が開始され、モスクワにあるNAMIの施設で生産されます。顧客の要望に応じて装備内容が1台1台異なるため、現在は手作業により組み立てが行われています。このままでは生産量が極めて限られてしまうため、2020年末までにタタールスタン共和国に新車工場を開設する予定。本格稼働すれば、年産5,000台が実現できると発表されています。
もちろん日本での販売計画はないため、ロシアや中東などを旅行しない限り、実車を目にする機会はほぼないでしょう。唯一可能性があるとすれば、日本での日露首脳会談の開催。2016年12月に行われた会談の際は、プーチン大統領専用車のメルセデス・ベンツ S 600 Pullman Guardが持ち込まれた前例があります。それだけに、次回開催時にはアウルス・セナート リムジンの上陸が期待されます。
日露関係はひと筋縄ではいかないだけに、現状ではトランプ大統領専用車の新型「ビースト」のほうが先に見られそうです。とはいえ、アウルス・セナート リムジンが日本で走行する姿を、ぜひ一度見てみたいものです。
[ライター・画像/北沢剛司]
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