一部改良を受けた新しいスバル「BRZ STI Sport」に、サトータケシが乗った!
新たに追加されたグレード
2021年にフルモデルチェンジを受けて2代目へと進化したスバルの後輪駆動のスポーツカーBRZは、2023年秋にマイナーチェンジを受けている。その時に追加されたグレードが今回試乗したBRZ STI Sportで、目玉はSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)がチューニングした専用サスペンションだ。
メルセデス・ベンツでいえばAMG、BMWならM、トヨタならGRといったブランドと同様に、サーキットでの過酷なバトルから得た技術とノウハウを注ぎ込んだモデルとなる。
ただしパワートレインには手を加えておらず、2.4リッター水平対向4気筒エンジンの最高出力235psと最大トルク250Nmには変更がない。
ちなみにこのマイチェンで、BRZのMT仕様にも運転支援機能「アイサイトX」が備わるようになったことも大きなトピックであるけれど、試乗車は6段ATモデルだった。
STIが足まわりをチューニングしたと聞いて危惧したのが、「乗り心地がトンガっていたらイヤだなぁ」という点だった。というのもスバルBRZの美点のひとつが、「スポーツカーとしては」というエクスキューズ抜きに称賛できる、しなやかでフラットな乗り心地だったからだ。
水平対向エンジンの重心の低さは、足まわりを硬めなくてもグラッと傾かないという素性の良さにつながり、ここから乗り心地は快適なのにコーナーではしっかり踏ん張るという、BRZの好ましい身のこなしが生まれている。
この絶妙なバランスが崩れていないか、という懸念は、試乗を開始して5分後には吹き飛んだ。
1000万円級のスポーツカーと比較しても遜色がないSTIがチューニングを施したという日立Astemo製のフロントダンパーは、ダンピングが強力というよりも繊細な印象。伸び縮みする4本の脚をキメ細やかにコントロールすることで、洗練された振る舞いを実現している。車両とドライバーの一体感をさらに増す装置として機能している、という印象だ。
もうひとつ感心したのが、オプションのブレンボ製の通気式ディスクブレーキ。グンと踏み込んだ時の制動力はもちろんのこと、踏み込む力に応じて減速力を増減できるコントロール性の高さに目を見張る。コーナー手前のハードブレーキング時に、車体が水平を保ったまま路面に吸い付くように速度を殺していくフィーリングは、1000万円級のスポーツカーと比較しても遜色がない。
専用チューニングの足まわりと合わせて、クルマがひとまわりギュッとコンパクトになって、その隅々にまでドライバーの意思が通じるようになるように感じたので、22万円也のオプションのブレンボはおすすめです。
実は筆者、「オートマのスポーツカーってどうなのよ?」と、思うタイプの守旧派、マニュアルトランスミッション支持者である。「いまや2ペダルのほうが、タイムは速くて燃費もいい」ということは理解しているけれど、交差点に入る時のシフトダウンや、ETCゲートを通過した時のシフトアップがうまくいったとかヘボったとか、そのたびに一喜一憂できるのがMTの醍醐味だ。仮にスバルBRZやマツダ「ロードスター」のようなスポーツカーを購入することになれば、100%マニュアルを選ぶだろう。
という筆者であるけれど、この6ATは悪くなかったというか、率直に言ってかなりよかった。6ATのスポーツドライビングというと、パドルシフトでぱんぱんとギヤを変えるスタイルを想像するかもしれない。もちろんそういう乗り方もできるけれど、このエンジンと6ATを組み合わせたパワートレインは、アクセルペダルの踏み加減でシフトアップやシフトダウンをコントロールできる。
パドルシフトをぱんぱん操作するのならMTでシフトするほうが楽しいけれど、アクセルペダルだけでコントロールするのであれば、MTとはまるで異なる世界が開ける。だからMT信者の筆者であっても、このオートマ仕様を楽しむことができた。
試乗をしながら感じるのは、足まわりにしてブレーキにしてもトランスミッションにしても、クルマと運転が大好きで、サーキットの修羅場をくぐり抜けてきた手練が気合を入れてセッティングをしているということだ。研究所で、和気あいあいと、時に喧々諤々の議論をしながら、心を込めてクルマづくりを行う作り手の顔が見えるようなスポーツカーだった。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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国内外問わずの選択肢の中で常に次の候補に入ってるクルマなので無くなる前にそろそろかなと。