既存の概念を超えたスバッロの作品
フランコ・スバッロ氏が手掛ける作品は、どれも既存の概念を超えている。ズバッと。
【画像】フェラーリV8搭載 スバッロ・スーパーエイト ルノー5とクリオ 斬新なワンオフ例も 全122枚
イタリアに生まれ、スイスでデザイン会社を創業した彼は、自動車業界の異端児と呼ぶに相応しい。彼の作品を目の当たりにすると、まるで他の惑星から運ばれてきた乗り物のように見える。デザイナーのルイジ・コラーニ氏の仕事も同様だった。
スバッロ社の奇抜なコンセプトカーは、スイスのジュネーブ・モーターショーで発表される事が多い。近年の同社のブースには、彼が主宰するデザイン学校の学生作品が多く並んでいるけれど。
フランコが描き出すスタイリングは極めて多彩だ。必ずしも有機的な曲線に包まれているわけではない。スーパーエイトのように鋭く挑戦的な例も、得意とするスタイルの1つといえる。
スーパーエイト誕生の経緯は定かではない。最初のオーナーも不明。アメリカのTVドラマ、私立探偵マグナムにも登場するフェラーリ308 GTSのエンジン音は素晴らしいが、低い運転姿勢とタイトな車内に、改善の余地を感じたのかもしれない。
少なくとも、同様に小さなハッチバックのリアへ12気筒エンジンを押し込んだ、スーパートゥエルブの後継モデルだったことは間違いない。こちらはカワサキ製の1.3L 6気筒エンジンが2基組み合わされ、5速MTを介して後輪を駆動していた。
1984年のジュネーブ・モーターショーで発表
スーパートゥエルブは、ピーキーなバイク用エンジンを合体させるという、複雑な技術で成り立っていた。そう考えると、フェラーリの量産モデルから心臓移植したスーパーエイトは、より良識のある内容といえる。注目度は変わらないとしても。
斬新なクルマを数多く手掛けるフランコは、メカニックとしてキャリアをスタートさせ、分野を超えたカーデザイナーへステップアップしていった。スイスにスタジオを構えると、裕福な顧客を相手に、特別なクルマを生み出すようになった。
他の例と同様に、スーパーエイトも1台のみが作られた。1984年のジュネーブ・モーターショーで展示されているが、その後は公道を走る機会が少なかったようだ。現在の走行距離は2万7000kmほどだという。
現在のオーナーは、オランダのカーコレクター、ハーバート・ファン・クイク氏。多様なコレクションの、重要な一角をなしているという。
農場が広がるアムステルダム郊外の倉庫には、ロータス・エリーゼやノーブルM12、デ・トマソ・パンテーラのほか、アメリカン・クラシックなどが所狭しと並ぶ。興味の幅は非常に広いようだから、特別なハッチバックが含まれていても不思議ではない。
当時のスバッロは、派手なボディキットで着飾った、見た目重視のショーカーも多く生み出していた。しかし、スーパーエイトはしっかり中身が伴っていることに驚かされる。
240psの最高出力を発揮できるシャシー
3.0L V8エンジンと5速マニュアルが組み合わされたパワートレインだけでなく、シャシーにブレーキ、サスペンション、サブフレームなども、308 GTSから受け継いでいる。240psの最高出力を、ちゃんと発揮できるように作られている。
四角いボディは、レオナルド・フィオラヴァンティ氏による、低く流麗なスタイリングとはまったくの別物。だが、ちょうど同時期に発表された、テスタロッサに似た処理が施されている。その頃のモダンな潮流に着想を得たのだろう。
見た目で最大の特徴といえるのが、何枚ものフィンが並んだ、ボディサイドの大きなエアインテーク。低く構えたフロントのヘッドライトも、フィンでクールに決めている。前方に広がったフロントスカートは、ガレージ前の除雪ができそうな低さだ。
リアまわりの造形は平滑だが、低い位置の左右から2本出しのマフラーカッターが上方に伸びる。まるで後続車両を威嚇するように。四角いテールライトは、オペル・キャバリエ Mk2から流用されている。
深リムのアルミホイールを包む極太のリアタイヤや、リアフェンダーの広がり方が尋常ではない。太めのBピラーにはオレンジのステッカーがあしらわれ、フランコの美学がグラフィックとしても展開されている。
言葉として並べると、要素が喧嘩しそうに思える。しかし実際は、レッドのボディのなかで驚くほど調和している。仕上げも細部までハイクオリティだ。
この続きは後編にて。
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