現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 充実したシリーズ展開を行うマクラーレン。そのモデルラインナップを詳細解説【Playback GENROQ 2019】

ここから本文です

充実したシリーズ展開を行うマクラーレン。そのモデルラインナップを詳細解説【Playback GENROQ 2019】

掲載 更新
充実したシリーズ展開を行うマクラーレン。そのモデルラインナップを詳細解説【Playback GENROQ 2019】

McLaren 720S × 600LT × 570S

マクラーレン 720S × 600LT × 570S

充実したシリーズ展開を行うマクラーレン。そのモデルラインナップを詳細解説【Playback GENROQ 2019】

それぞれの主義主張

スポーツシリーズとスーパーシリーズ、2つのモデルラインを用意するマクラーレン。しかし600LTの登場により、その境界がわかりづらくなってきた印象は否めない。そこで570S、600LT、720Sの3台を比較し、シリーズによる走りの違いに迫ってみよう。

「マクラーレンのモデル構成はわかりにくいのだろうか?」

マクラーレンのモデル構成がわかりにくいとの声をよく耳にするようになった。同社は昨年発表した経営戦略“TRACK25”に従い、2025年までに合計18のニューモデルを投入している真っ最中。多少の混乱を招くのはやむを得ないところもあるだろう。

でも、本当にそんなにわかりにくいのか?

繰り返し紹介されている通り、マクラーレンのポートフォリオは下から順にスポーツシリーズ、スーパーシリーズ、アルティメットシリーズの3つに分類できる。このうちP1、P1 GTR、セナ、セナGTRが属するアルティメットシリーズは、ごく少数の顧客のために限定数が生産される特別なカテゴリー。今年のジュネーブ・ショーではこれにスピードテールが追加されたが、いずれも別格扱いのモデルなので、まずはボリュームゾーンのスポーツシリーズとスーパーシリーズに注目してみよう。

スーパーシリーズで現在、生産中なのは720Sと720Sスパイダーの2モデル。一方、スポーツシリーズは540C、570GT、570S、570Sスパイダー、600LT、600LTスパイダーと6モデルを数える。

「では、“スポーツ”と“スーパー”で何が違うのか?」

いうまでもなく価格は明確に異なる。ちなみにスポーツシリーズの価格帯は540Cの2410万円から600LTスパイダーの3226万8000円まで。一方スーパーシリーズは720Sクーペの3338万3000円からスパイダーの3788万8000円までとなり、2つの間にはざっと1000万円の開きがある。

クルマのスペックにはどんな違いがあるのか?

排気量3.8リッターのV8ツインターボエンジンを積むスポーツシリーズの最高出力は540psから600psまで。そして排気量が4.0リッターに引き上げられたスーパーシリーズは720psを生み出すので、ここにも120-180psの格差が存在することになる。

「スポーツシリーズ2台分に相当する領域を1台でカバーするスーパーシリーズ」

これとともに重要なのが、スーパーシリーズで標準装備となるアクティブ・サスペンションとアクティブ・エアロダイナミクスがスポーツシリーズには備わらない点である。このため、一方に公道での快適性、他方にサーキットでのパフォーマンスを据えたグラフで1台のモデルがカバーできる領域を示すと、スーパーシリーズのほうがスポーツシリーズよりも全般的に長い直線となる。言い換えれば、スポーツシリーズであれば2台分に相当する領域を、スーパーシリーズは1台でカバーできるのだ。

各モデルの味付けはどうか? エンジンの最高出力を示す3ケタの数字をモデル名から取り除くと、C、GT、S、LTというアルファベットの文字列が残る。それぞれクラブ、グランドツアラー、スポーツ、ロングテールの頭文字で、サーキットでのラップタイムを指標とすると、この順番でパフォーマンスは高くなる。つまりCやGTは快適性重視、Sはややスポーツ寄りの万能タイプで、LTはサーキットにフォーカスしたモデルと説明できるのだ。

このうち今回は570S、600LT、720Sを俎上に載せ、その世界観の違いを説明しよう。

「720Sはショックや振動を上質に受け止める。この乗り味はマクラーレンの独擅場だ」

まずは720Sでワインディングロードを走る。

4輪を支えるダンパーの油圧回路を複雑につなぎあわせるとともに、ここに油圧コントロール・ユニットを組み合わせたプロアクティブ・シャシー・コントロール(PCC)は、マクラーレンの乗り味とハンドリングを語るうえで欠かせない重要なテクノロジー。アンチロールバーを廃して乗り心地を改善する一方、ダンパーの油圧を電子制御することで無用なボディの姿勢変化を防いでいる。720SではこれがPCCIIに進化。センサーを増やしてホイールストロークと姿勢変化を精密に検出することにより、さらに洗練された制御を実現した。

その乗り心地は快適そのもの。素早いホイールストロークに対してはコツンというショックがつきまとうものの、その動きも上質なダンパーでしっかり受け止められるため、不快な印象は一切与えない。一方で、大きくうねった路面ではボディをフラットに保ったままゆったりと受け流し、極めて心地いい。スポーツカーに付きものの足まわりの硬さがないとは言わないが、ショックや振動を上質に受け止めるこの乗り味はマクラーレンの独擅場といえる。

「570Sは荷重移動に対する反応が鋭く、より鋭敏に反応してくれる」

続いて570Sに試乗する。こちらも乗り心地は良好だが、720Sに比べると姿勢変化は大きめで、路面に突き上げられればそれなりにショックが伝わる。コンベンショナルなスプリングとダンパーを組み合わせたサスペンションの宿命で、ホイールストロークの周波数帯でいえば得意な領域と苦手な領域が存在するのだ。このため瞬間的に浮き上がったタイヤが次にしっかりと路面に接触するまでに空白の時間帯(といっても10分の1秒単位の話)が存在し、720Sほど満遍なく接地している印象が得られないのである。

もっとも、あくまでもこれは720Sと比較した話であって、570Sのロードホールディング性はこのクラスのスーパースポーツカーでは極めて高いし、乗り心地も良好。つまり、720Sのレベルがいささか高すぎるだけのことなのだ。

もちろん570Sにも美点はある。機械的なアンチロールバーを“張った”570Sは荷重移動に対する反応が鋭く、たとえば左右に素早く切り返すシーンではより鋭敏に反応してくれる。その点、720Sはわずかな遅れが認められるが、これも直接比較してわかる程度の話で、720Sだけに乗っていればまず気づかないだろう。

「コンベンショナルな600LT。極上のアジリティはロードカーとは思えないほど」

では、600LTはどうか。足まわりの性格は570Sの延長線上、つまりコンベンショナルな味わいだが、スプリングとダンパーを固めることでロードカーとは思えない極上のアジリティを実現。それもステアリング・ゲインだけを高めた巷のプレミアムカーとは異なり、慣性モーメントやヨーダンピングなどの本質的な物理量を改善して作り上げられているだけにコントロール性はバツグン。サーキットでのカウンターステアも一瞬にして決まるレーシングカートのようなシャープなハンドリングに、LTの最大の魅力はある。

もっとも、これを実現するため足まわりは公道での移動がギリギリで許容できるレベルまで固められているほか、570Sとは別物のエンジンマウントは停車時に明確なエンジン・バイブレーションを伝える。やはりサーキットで最上の一面を見せるマクラーレンがLTなのだ。

この3台でどれがいちばん好みかと訊ねられれば、私は迷うことなく720Sと答える。日常的な快適性に加え、ワインディングロードを攻めたときに安定した接地感が得られる点がなによりの魅力。いつでも即座に分厚いトルクを生み出すエンジンのパワフルな印象も、私が720Sに惹かれる理由のひとつだ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)、市 健治(Kenji ICHI)

【SPECIFICATIONS】

マクラーレン 720S

ボディサイズ:全長4534 全幅1930 全高1196mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1419kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:537kW(720ps)/7500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/5000-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35R19 後305/30R20
最高速度:341km/h
車両本体価格:3338万3000円

マクラーレン 600LT

ボディサイズ:全長4604 全幅1930 全高1194mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1356kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600ps)/7500rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/5500-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前225/35R19 後285/35R20
最高速度:328km/h
車両本体価格:2999万9000円

マクラーレン 570S

ボディサイズ:全長4530 全幅2095(ミラー含む) 全高1202mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1344kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:427kW(570ps)/7500rpm
最大トルク:600Nm(78.5kgm)/5000-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前225/35R19 後285/35R20
最高速度:328km/h
車両本体価格:2672万5000円

※GENROQ 2019年 5月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

こんな記事も読まれています

キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #14 【日産 グロリア】
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #14 【日産 グロリア】
グーネット
小山美姫が初予選で感じたスーパーGTの難しさ「タイヤのおいしいところを使えなかった」
小山美姫が初予選で感じたスーパーGTの難しさ「タイヤのおいしいところを使えなかった」
AUTOSPORT web
明暗別れたホンダ・シビック陣営の予選。ホームの鈴鹿がアゲインストの難コースに!? /第3戦予選
明暗別れたホンダ・シビック陣営の予選。ホームの鈴鹿がアゲインストの難コースに!? /第3戦予選
AUTOSPORT web
予選Q2のユーズドで驚異的な速さを見せたENEOS福住仁嶺、MOTUL千代勝正。決勝は天候が鍵に/第3戦予選
予選Q2のユーズドで驚異的な速さを見せたENEOS福住仁嶺、MOTUL千代勝正。決勝は天候が鍵に/第3戦予選
AUTOSPORT web
本場ドイツのエンジン技術を磨け! 整備士不足時代に「体験」で学ぶ
本場ドイツのエンジン技術を磨け! 整備士不足時代に「体験」で学ぶ
ベストカーWeb
くるまりこちゃん OnLine 「桜シーズン! 」第99回
くるまりこちゃん OnLine 「桜シーズン! 」第99回
ベストカーWeb
驚速D’station Vantage GT3、初ポールの秘訣はタイヤ、新型の能力、チームの対応力にあり
驚速D’station Vantage GT3、初ポールの秘訣はタイヤ、新型の能力、チームの対応力にあり
AUTOSPORT web
バニャイア、母国で今季スプリント初勝利。マルティンが転倒で、M.マルケスが3連続2位/第7戦イタリアGP
バニャイア、母国で今季スプリント初勝利。マルティンが転倒で、M.マルケスが3連続2位/第7戦イタリアGP
AUTOSPORT web
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #13 【ルノー カングー】
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #13 【ルノー カングー】
グーネット
「悔しい」予選2番手のスバルBRZ。重要な決勝に向けてのセット変更と井口&山内のドライビング
「悔しい」予選2番手のスバルBRZ。重要な決勝に向けてのセット変更と井口&山内のドライビング
AUTOSPORT web
「手応えあり」のSHADE RACINGと「全然わからない」Studie。雨予報の鈴鹿でミシュランの逆襲はあるか
「手応えあり」のSHADE RACINGと「全然わからない」Studie。雨予報の鈴鹿でミシュランの逆襲はあるか
AUTOSPORT web
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #12 【フォード エコノライン】
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #12 【フォード エコノライン】
グーネット
商用バン&ワゴン宿命の対決 ぶっちゃけハイエースと日産NV350キャラバンどっちがいいの?
商用バン&ワゴン宿命の対決 ぶっちゃけハイエースと日産NV350キャラバンどっちがいいの?
ベストカーWeb
あなたの知らない英国車「ブリストル406」とは? BMW製6気筒と兄弟といわれる直6エンジンで気持ちよく走るコツをお教えします【旧車ソムリエ】
あなたの知らない英国車「ブリストル406」とは? BMW製6気筒と兄弟といわれる直6エンジンで気持ちよく走るコツをお教えします【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
ペドロ・アコスタ、2025年よりレッドブルKTMファクトリー・レーシングに昇格が決定/MotoGP
ペドロ・アコスタ、2025年よりレッドブルKTMファクトリー・レーシングに昇格が決定/MotoGP
AUTOSPORT web
藤井誠暢「タイヤがすべて」 ファグ「イギリス人だから雨は得意だよ(笑)」【第3戦GT300予選会見】
藤井誠暢「タイヤがすべて」 ファグ「イギリス人だから雨は得意だよ(笑)」【第3戦GT300予選会見】
AUTOSPORT web
初ポール獲得のアレジ「本当に最高。好物をいっぺんに食べているよう!」【第3戦GT500予選会見】
初ポール獲得のアレジ「本当に最高。好物をいっぺんに食べているよう!」【第3戦GT500予選会見】
AUTOSPORT web
D’station Vantageがチーム初ポール。ダンロップの1-2に最重量muta GR86が続く【第3戦GT300予選レポート】
D’station Vantageがチーム初ポール。ダンロップの1-2に最重量muta GR86が続く【第3戦GT300予選レポート】
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2999.9万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

2390.03540.0万円

中古車を検索
600LTの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2999.9万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

2390.03540.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村