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アメ車が大排気量OHVエンジンを搭載し続ける理由とは?

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アメ車が大排気量OHVエンジンを搭載し続ける理由とは?

今や搭載するモデルはアメリカ車ぐらいになってしまった大排気量OHVエンジンについて、世良耕太が論評する。

OHVエンジンを採用し続けるNASCAR

なぜランドクルーザーは世界中で愛されているのか?

アメリカを代表するストックカーレースシリーズの「NASCAR」は5月、2022年シーズンから最上位カテゴリーのカップシリーズに投入する次世代車両(Next Gen)を公開した。

第7世代(Gen-7)に分類されるNext Genは一気に近代化し、リジッドだったリアサスペンションが独立になり、Hパターンの4速マニュアルトランスミッションは5速のシーケンシャルになって、スチール製の15インチホイールは18インチのアルミホイールに変更される。ステアリング・システムはリサーキュレーティングボール式からラック&ピニオン式になる。

新しく採用する技術よりも、変更前のスペックの古さに驚く。「Hパターンの4速?」「15インチのスチール?」と。2022年に一気にモダンになるNASCARの最上位カテゴリーには、これまで同様にシボレーは「カマロ」、フォードは「マスタング」、トヨタは「カムリ」を投入する。エンジンはどれだけ近代化するのかというと、5.8リッターのV型8気筒ガソリンOHVだ。

つまり、変更なし。OHVが古くてDOHCが新しいとは、NASCARを統括する組織も、NASCARを愛するアメリカの人たちも、思っていない(のだろう)。古いとか新しいとかの問題ではなく、大排気量OHVエンジンは、アメリカの人たちとっての譲れないスピリットなのだ。バーボンウイスキーが大麦を主役とするスコッチと違ってトウモロコシを主原料とするように。

OHVエンジンの仕組み

OHVはOver Head Valve(オーバー・ヘッド・バルブ)の略である。吸気~圧縮~燃焼・膨張~排気の行程でガソリンが持つ化学エネルギーを機械エネルギーに変換する4ストロークエンジンは、吸気と排気を出し入れするバルブが欠かせない。4ストロークエンジンが実用化された頃はサイドバルブ(SV)が用いられていた。そのSVに替わる“新しい技術”として登場したのが、OHVである。1901年の考案で、考案者は現在でもGMのブランドとして名が残るデイビッド・D・ビュイックだ。

SVは文字どおりバルブがシリンダーの横(サイド)に並んで配置されるため、ふたつの円形平面をカバーする燃焼室が大きくなってしまう。燃焼室が大きいと火炎伝播が遅くなるため燃焼効率を高めることができないし、圧縮比を高めて効率を上げるにも限界がある。

一方、OHVはバルブをサイドではなく、上(オーバー・ヘッド)に配置したのが特徴だ。SVはサイドにあるバルブが上向きに開くが、OHVは上にあるバルブが下向きに開く。下にふたつあった円形平面のうちひとつが上に移動したので燃焼室は小さくなり、燃焼効率は飛躍的に高まった。

OHVの場合、バルブを駆動するカムシャフトはクランクシャフトの近くの低い位置に置いてギアで駆動し、そこから長いプッシュロッドを上に伸ばしてロッカーアームを動かし、バルブを開け閉めする。

低い位置にあったカムシャフトを上に持っていったのがOHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)だ。OHCにすると、OHVのように長いプッシュロッドを使わずに済むので、ロッドの共振に悩むことなく高回転化できた。吸気側と排気側に独立したOHCを設けたのがDOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)で、さらなる高回転化に向いている。

高性能と豊かさの象徴

一般論でいえばOHVの弱点は高回転化に不向きなことであるが、NASCARのエンジンは10000rpmでまわる。レーシングエンジンなので特殊であるとすれば、最新のシボレー「コルベット」が搭載する6.2リッターV型8気筒ガソリンOHVの最高出力発生回転数は5750rpmで、レッドゾーンは6000rpmに設定されている。

カムシャフトが高い位置にあるOHCやDOHCに比べ、重心を低くできるのがOHVの利点だ。ヘッドまわりをコンパクトにできるのもOHVのメリットに挙げられる。OHVとOHC/DOHCでバルブ駆動方式は大きく異なるが、運転席に収まってアクセルペダルを踏み込んでしまえば両者に昼と夜ほど、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンほどの違いはない。音の違いはバルブ駆動方式の違いというより、気筒数や排気の取りまわしによる影響のほうが大きい。

それでもアメリカ生まれのハイパフォーマンスカーがOHVエンジンを積んでいなければならないのはやはり、ファンが記号性を求めているからだろう。 “OHVエンジンを積んでいる”ことが大事なのである。そうでないと収まりがつかないのだ。

NASCARが一気に近代化を果たし、コルベットがエンジンの搭載位置をフロントからミドシップに変更する大転換をおこなったのに、エンジンは相変わらずOHVなのだから。

コルベットをはじめ、アメリカを代表するハイパフォーマンスカーは軒並み大排気量OHVエンジンとともに進化した。そのため、ユーザーの深層心理に大排気量OHVエンジンが高性能と豊かさを象徴する記号として刷り込まれていったのかもしれない。それゆえ、今なお多くのアメ車に搭載されるのだろう。

文・世良耕太

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みんなのコメント

8件
  • 技術的なものやコストだと思ってる。
    選択肢としてOHVしかない車種ばかりの中で
    人気だからというのも都合が良すぎる認識。
    でもアメ車らしさが残るからアリだとは思う。
  • 良くも悪くもアメリカン。
    馬力上げたけりゃ排気量増やせばいい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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