CW311市販化への夢が捨てられず
「イズデラ(ISDERA)」というスポーツカーメーカーの存在を知る人は、はたしてどれだけいるだろうか。イズデラとは、ドイツ語で「Ingenieurbüro für Styling, DEsign und Racing」、スタイリング、デザイン、そしてレーシングのためのエンジニアリング・オフィスを意味する社名である。創始者であるエーベルハルト・シュルツは、エンジニア、またデザイナーとしてのキャリアをポルシェでスタートし、その後メルセデス・ベンツへと移籍。ここでコンセプトカーのCW311の開発に携わった。
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生産台数14台のスパイダー
しかしメルセデス・ベンツは、結果的にこのCW311の市販を断念。その魅力に並々ならぬ感情を抱いていたシュルツは、そのプロジェクトを譲り受けると、チューナーのライナー・ブッフマンとともに「B&B GmbH & Co Auto KG」社を設立し、ここでCW311の開発を継続したのだった。メルセデス・ベンツの象徴である、スリーポインテッドスターのエンブレムがフロントグリルに輝いていたのは、その宣伝効果を期待してのことだったという。
ブッフマンとの共同作業は1982年まで続き、この年シュルツは新たにイズデラ社を設立するに至った。同年後半にはイズデラにとっては初の量産モデルとなる「スパイダー033i」が発表されるが、これはエキゾチックで先進的なフォルムを持つもので、カスタマーからの依頼に応じてハンドメイドされるモデルだった。
リヤミッドに搭載されたエンジンは、メルセデス・ベンツから供給された1.8Lの直列4気筒。1985年にはその進化型ともいえる2.3Lの直列4気筒エンジン搭載モデル「033-16」もデビューを飾り、さらに1987年のジュネーブ・ショーでは、このスパイダー・シリーズの最終進化型となる3Lの直列6気筒エンジンを搭載した「スパイダー036i」が披露されたのである。
参考までにその最高出力は217ps。3世代にわたるイズデラ・スパイダーの生産台数はわずかに14台と、モナコ・オークションの主催者であるRMサザビーズは発表しているが、生産台数の少なさは、一台一台をハンドメイドし、完成までに一台あたり12か月という時間を必要としたことが直接の理由と考えられる。
AMG製直列6気筒エンジンを搭載
出品車のスパイダー036iは、1989年3月にイズデラのファクトリーから出荷されているが、2011年にはセカンド・オーナーが再びそれをイズデラのファクトリーに持ち込み、エクステリアをさらにダイナミックな造形へとモディファイしている。
前後のフェンダーはさらにワイド化され、メタリックシルバー仕上げに。タイヤサイズもより大きな16インチ径が組み合わせられることになった。キャビンはそもそもバイオレットのカラーだったが、それもブルーレザーに張り替えられ、まさに新車同様のコンディションに。シートもレカロ製のスポーツスターへと変更されている。
さらにイズデラが最も重要で魅惑的なアップデートを行ったのは、リヤミッドの直列6気筒エンジンだ。新たにメルセデスAMG製の3.6L直列6気筒エンジンが搭載され、パワーは276psにまで向上。より魅力的なスパイダーがここに完成したのである。
主催者のRMサザビーズは、このイズデラ・スパイダー036iに、32万5000~37万5000ユーロ(邦貨換算約4400万~約5100万円)の予想落札価格を提示していたが、残念ながら落札者は現れなかった。
* * *
イズデラという小さなスポーツカーメーカーにマニアの目が向くのは、まだまだ先の話、ということなのだろうか。むしろ先行投資として、いま手に入れるべきクルマなのかもしれない。
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