世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。
そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。第6回は、国内販売的には成功しなかったが、今もカーマニアには強い印象を残す珍車らしい珍車、日産 ラティオを取り上げる。
「ドライバーの声は神の声」R34スカイラインGT-R開発秘話【日本自動車界の至宝GT-R三代(3)】
文/清水草一
写真/日産
■平凡のなかに見られた非平凡さ
かつて日産に、ラティオというクルマがあった。サニーの流れを汲む、最後の子孫である。
ラティオには、2004年登場のティーダラティオと、2012年登場のラティオの2種類があるが、今回取り上げるのは、ティーダの冠が取れたラティオのほうである。
2012年に8年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたラティオ。初代モデルはティーダの派生車だったが車名は「ラティオ」のみに変更された
「かつて」といっても、ラティオはそれほど昔のクルマではない。2016年まで販売されていたから、つい最近とも言える。が、その存在は限りなくレアで、販売終了からそれほど経っていないわりに、街で見かけることはほとんどない。それも、どこにも特別なところのない、ウルトラ平凡な小型セダンでありながら、ウルトラレアなのだ。レア=珍車。平凡だけどレアというのもなかなかレアだ。
ここまでラティオについて、「平凡平凡」と連呼したが、実はラティオは非凡なクルマだった。何が非凡かといえば、エクステリアデザインだ。あまりにもカッコ悪かったのである。もちろん、デザインの好き嫌いは人それぞれだが、私の美的センスに照らせば、それはスーパーウルトラカッコ悪いカタチをしていて、思わず「クルマのカッコよさって何だろう?」と、哲学的に考え込んでしまうほどだった。
具体的にどうカッコ悪かったかというと、まずは全体のフォルムだ。FFの割にフロントオーバーハングは短く、逆にリヤオーバーハングはそこそこ長くて、それだけでどこかバランスが狂って見える。それに輪をかけていたのが、早めに後方に向けてなだらかに下がり始めるルーフと、サイドウィンドウの切り欠きや、ウエストのエッジラインだ。それまた、頭が軽くてお尻が細長いような、どこかバランスがおかしい形に見せていた。
このあたりは非常に微妙で、言葉で表現するのが難しいが、ラティオは、「前が潰れてるわりにお尻が伸びていた」とでも言おうか? セダンがまとうべき威厳みたいなものとは最も遠い世界にありながら、カジュアルでファッショナブルな感覚もゼロの、猛烈に田舎っぽいフォルムに仕上がっていた。
フロントフェイスも同様だ。ヘッドライトはちょっと可愛らしい、大きなツリ目の猫目で、どこかゆるキャラ的な輪郭だ。グリルは平凡な逆台形だが、メッキ縁は不自然に太さを変えていて、これがまたどうにも微妙にセンスが悪い。目は妙にカワイイんだけど、口は不器用なおじさん風とでも申しましょうか。フォルム同様、セダンらしい威厳はゼロだが、カジュアルでファッショナブルな感覚もゼロだった。
■中国市場重視で何が変わったか?
総合すると、ラティオのカッコ悪さの源泉は、そのセンスのなさにあった。前型に当たるティーダラティオは、どこかひょうきんでセンスのあるデザインだったが、あれがなぜこんな形になってしまったのか。
市場の位置付け的にはかつての「サニー」と同様、「カローラ」対抗の5ナンバーコンパクトセダンとなる
このカッコ悪さは、ズバリ、中国市場対策の賜物だった。ラティオの中心市場は中国と北米。中国では「サニー」、北米では「バーサ」として売られた。開発段階では、中国と北米のデザイン部門がコンペを行ったが、デキではなく市場規模で中国デザインに軍配が上がった。ラティオの生産台数の約半分が中国向けだったゆえである。
2012年と言えば10年前。わずか10年前だが、当時の中国人のデザインに対する好みは、先進国のソレとは明らかに異なっていた。基本的に重要なのは目立つこと。じゃ立派に見えればいいのかというとそうでもなく、我々には、彼らが何を求めているのかサッパリわからなかった。結局のところ「センスが違うんだよね」ということになってしまう(その後超速で進歩し、現在は大きな違いはなくなった)。
当時、国産メーカーで、中国人の好みに最も適切に(?)対応したのが日産だった。日産は中国市場ではずっと健闘しており、日系メーカーとしてはトヨタ・ホンダとほぼ互角の戦いを続けている。その要因のひとつは、中国対策のデザインにあった。日産はいち早く中国にデザインスタジオを置き、中国人スタッフに中国のセンスでデザインさせ、それが成功したのだ。
その代表が2代目・3代目ティアナ。中国では記録的な大ヒットとなった。ラティオのデザインは、その小型版だったと言えばわかりやすい。初代ティアナは、日本では「モダンリビング」を謳い文句にそれなりにヒットしたが、2代目以降は、中国市場シフトデザインも足を引っ張って、日本ではサッパリ売れなくなった。
■クセになる魅力がマニア心をくすぐる!?
2016年に国内販売を終了したが、その後も中国や東南アジアでは販売され続けた
ラティオのデザインについては、もうひとつの主力市場・北米でも、ジャーナリストに酷評された。しかし案に相違して販売はそこそこ好調に推移し、「アメリカで最廉価クラスのセダンを買う層は、カッコなんかどうでもいい」という実態が明らかになったという。ガックリ。
いま改めてラティオのデザインをまじまじと見つめると、「どこがそんなに悪いの?」という、哲学的な疑念が生じてくる。そして、クセになるような魅力も感じる。しかしここはやっぱり、ラティオはウルトラスーパーカッコ悪かった……と断言したい!
ラティオの名誉のために付け加えると、デザイン以外の性能は意外と高かった。1.2Lエンジンは低速トルクがあり、副変速機付きCVTもいい仕事をするから、実用性能はまったく問題なし。乗り心地はふわっとしていて良好。静粛性も高かった。特筆すべきは室内とトランクの広さで、「なんじゃこりゃ!?」というくらい広かった。どっちもメルセデス・ベンツ Sクラスに肉薄していたと言えば、その凄さがわかるだろう。
中国向けデザインと実用性能の高さ、そして広大な居住空間により、ラティオならぬ中国サニーは十分なヒットモデルとなった。が、ここ日本では珍車となり、私のように特殊なツボを持つマニアは、街で見かけたら思わず走って追いかけたくなってしまう。ある意味、忘れえぬクルマである。
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名前は「サニー」。
当時「世界一醜いセダン」とまで呼ばれた迷車。