1980年代 ランチア・デルタ/アウディ100/プジョー405
フロントエンジン・フロントドライブ(FF)の技術的進化が目覚ましかった、1980年代の量産車。1980年から1989年の欧州カー・オブ・ザ・イヤー、欧州COTYのトップ3に選ばれた合計30台のうち、22台がFFだったことにも、その事実は表れている。
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ハッチバック・モデルの台頭も、大きな特徴だった。同じ30台では、20台にテールゲートが備わっていた。
その傾向は、コンパクトカーに限らなかった。1985年に2位となったルノー25や、1986年に優勝したフォード・スコーピオといった大きなモデルにも、テールゲートが与えられていた。
1980年の欧州COTYを受賞したランチア・デルタは、その傾向を予見させたといえる。ジョルジェット・ジウジアーロ氏のスタイリングをまとったハッチバックボディが、前輪駆動のパワートレインを包んでいた。
発表は1979年のドイツ・フランクフルト・モーターショー。小さなプレミアムモデルとして開発されたが、進化版のHFインテグラーレはラリーで大活躍した。それに比べると、ベースモデルは少し存在感が薄いようではある。
ベータより小柄なサイズを支えたプラットフォームは、フィアット由来。前後とも、マクファーソン・ストラット式のサスペンションが採用されていた。エンジンも、フィアット譲りのオーバースクエアな4気筒。当初は75psの1.3Lか、85psの1.5Lを選択できた。
ツインチョークのウェーバー・キャブレターと、新開発の吸気マニフォールド、エグゾーストを組み合わせ、最高出力を向上。高めの価格を正当化する、性能が与えられた。
フィアット・リトモを最適化したモデル
オペル・アストラやプジョー505を抑えて、1980年の欧州COTYを勝ち取ったデルタは、広々とした車内空間と快適性、走行安定性などで審査員の好評価を集めた。そんな強みは、40年以上が経過しても変わらないようだ。
今回、この企画のためにデルタを持ち込んでくれたのは、グラハム・ワイアット氏。1985年に登場したHFターボで、最高出力は140psまで増強されている。
「速くて、少し扱いにくいですね」。審査員のレイ・ハットンは感想を漏らしつつ、英国クラシックカーのメッカ、ビスター・ヘリテイジのコースを楽しそうに運転する。
もう1人の審査員、マット・プライヤーもうれしそうだ。「ステアリングと敏捷性が素晴らしい。気に入りました」。過去に運転したデルタより、一体感が強いという。
「操縦性は素晴らしい。でも、グリップが驚くほど低いかも。サイズは完璧で、数が売れたフィアット・リトモを最適化したようなモデルといえます」。と、スティーブ・クロプリーもデルタの魅力を改めて噛み締める。
これの3年後に欧州COTYを受賞したのが、アウディ100だ。スタイリングは丸みを帯び、コンセプトカーのように未来感のあるボディを獲得。ルーフやウインドウ回りなど、ボディ面は平滑化され、空気抵抗を示すCd値は0.30と優秀といえた。
現在でも優れた能力を実感させる100
車重は、ボディサイズを考えると意外なほど軽い1100kg。1.8L 4気筒と2.2L 5気筒ターボのガソリンに加えて、2種類のディーゼルターボという比較的小さなエンジンで、活発な走りを叶えていた。同時に、クラス最高の経済性も備わった。
さらに、四輪駆動のクワトロも登場。その頃の欧州COTYで審査員長を務めたポール・フレール氏は、このアウディが当面は最も価値あるカー・オブ・ザ・イヤーになるだろうと述べていた。
ご登場願った100は、2.2Lガソリンエンジンにクワトロが組み合わされた、1991年式。後期型で重くなっているが、1350kgとまだ軽い。アウディUKのヘリテイジ部門が管理する車両で、走行距離は24万kmを超えているが、それを感じさせない状態にある。
5速MTは2速のシンクロメッシュがヘタっているものの、ボディやシャシーはソリッド。1983年の欧州COTY選出時に審査員だったレイも、「驚くほど良く走りますね」。と改めて感心する。
スティーブが続ける。「かつて優秀だったクルマが、今でも能力を充分に実感させてくれます。人間工学的には不完全でも、優れた点はしっかり保たれているようです」
マットも賛同する。「大きなステアリングホイールに、踏み応えのあるペダルと手応えの良いシフトレバーが組み合わされた、好感を持てるクルマです。しかも、走りはかなり機敏。当時はだいぶ先進的なモデルに感じたことでしょう」
前輪駆動のファミリーサルーンへ新風
1988年の欧州COTY、プジョー405にも、そんな特長は当てはまる。シトロエンAXと、ホンダ・プレリュードという優れたモデル以上の実力を備えていた。審査員57名中、54名が最高得点を与えるという、圧倒的な勝利を収めている。
スタイリングを手掛けたのは、ピニンファリーナ社。ボディラインはシンプルで、バランスが美しい。前輪駆動のファミリーサルーンとして、セグメントに新たな風を吹き込んだといえた。
発売当初のエンジンは、燃費の良い1.6Lから1.9Lのガソリンと、洗練された1.8Lと1.9Lのディーゼル。これも、魅力を後押しした。
いい感じに車齢を重ねてきたブルー・シルバーの405は、ポール・グリットン氏がオーナー。後期型のGTXグレードで、オートマティックが載っている。「1988年の欧州では、ファミリーサルーンの典型例でしたね」。とレイが振り返る。
マットもうなずく。「シンプルで運転しやすい。リラックスできる一方で、ステアリングは素晴らしい。この時代のファミリーカーのあるべき姿です。本当に気に入りました。信頼性も高かったと記憶しています」
スティーブも笑顔を崩さない。「車内空間は広く、動的能力は素晴らしい。洗練され、今でも運転しやすく感じられ、好きになるクルマですね。ピニンファリーナの見事なスタイリングを抜きにしても」。405の魅力に疑う余地はないようだ。
それでも、今回の3名の審査員を最も感動させたのは、技術的な水準の高い100だった。1980年代の代表には、ドイツ・インゴルシュタット生まれのサルーンが選ばれた。
協力:アウディUK社
1980年代の欧州COTY代表 3台のスペック
アウディ100(1982~1991年/英国仕様)
英国価格:1万6541ポンド(1988年時)/1万2000ポンド(約223万円/現在)以下
生産数:約110万台(予想)
最高速度:193km/h
0-97km/h加速:10.0秒
燃費:10.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1296kg
パワートレイン:直列5気筒2226cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:140ps/5700rpm
最大トルク:19.0kg-m/3500rpm
トランスミッション:5速マニュアル(前輪駆動)
プジョー405(1987~1995年/英国仕様)
英国価格:8535ポンド(新車時)/3500ポンド(約65万円/現在)以下
生産数:約150万台(予想/フェイズ1のみ)
最高速度:173km/h
0-97km/h加速:10.9秒
燃費:10.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1028kg
パワートレイン:直列4気筒1580cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:93ps/6000rpm
最大トルク:13.6kg-m/2600rpm
トランスミッション:5速マニュアル(前輪駆動)
ランチア・デルタ(S1/1979~1991年/英国仕様)
英国価格:5145ポンド(1982年時)/3万ポンド(約558万円/現在)以下
生産数:−台
最高速度:160km/h
0-97km/h加速:8.5秒
燃費:10.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:970kg
パワートレイン:直列4気筒1498cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:85ps/5800rpm
最大トルク:12.5kg-m/3500rpm
トランスミッション:5速マニュアル(前輪駆動)
この続きは、欧州COTYの1番を選ぶ(5)にて。
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