知られざるメルセデス・マイバッハの魅力を、その歴史とともに小川フミオが解説する。
特別なメルセデス・マイバッハ
最高の自動車ブランドを探しているならメルセデス・マイバッハは最右翼だろう。1909年にドイツで創業。“超”を頭にいくつ付けても足りないような高級車を手がけてきた。いまも、そのブランドのクルマが手に入る。
現在のメルセデス・マイバッハのオリジンであるマイバッハは、ゴットリープ・ダイムラーとエンジン研究を行っていた技術者のウィルヘルム・マイバッハが1909年に設立。エンジン技術の高さは世界屈指だった。
ウィルヘルム・マイバッハは、フェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵(1838~1917年)からも大きな信頼を得て、“グラーフ・ツェッペリン”としても知られる「LZ127」(1928年)のエンジンも手がけた。
いま日本では、「スターズ@メルセデス・ベンツ銀座」など、メルセデス製品の中でも、とりわけ上級車種に焦点をあてて展示するショールームで、メルセデス・マイバッハは見られる。
メルセデス・ベンツの「Sクラス」とも違う、ショファードリブンのリムジンを求める層に向けたモデル(高級SUVもある)は、1952年にダイムラー・ベンツ(当時)傘下に入ったマイバッハの伝統を、現代によみがえらせたモデルだ。
では、メルセデス・マイバッハのどこが特別か?
ひとつは12気筒エンジン搭載モデルが、いまも手に入る点。ぜいたくな12気筒エンジンが世界市場から消えつつあるなかで、この希少性は富裕層から大きな支持を得ている。
メルセデス・マイバッハ S680に搭載される、5980ccV型12気筒ツインターボエンジンは450kWの最高出力と、900Nmの最大トルクを誇る。
12気筒エンジンはなぜ貴重か? 瞬発力だけなら、8気筒や6気筒でも事足りるケースが少なくない。メルセデス・ベンツ自身、いまは「Eクラス」や「Cクラス」を、よく出来た4気筒エンジンで走らせる時代である。
そこにあって、12気筒は、ごく低回転域からの大きなトルクによる、グーっと大きな手で優しく、かつ力強く押し出されるような、独特の気持ちよい加速感が、ほかでは味わえない魅力のひとつ。
いまほど防振性や遮音性が徹底していない時代の車両だと、規則正しくかつ気持ちよい感覚で繰り返されるエンジンの律動のようなものも、12気筒ならでの魅力的なバイブレーションだった。それでいて、メルセデス・マイバッハ S680の燃料消費率は、100km走るのにリッターあたり13.4km(WLTP)とされている。つまり日本式表記だとリッターあたり約7.5km。それほど悪くない。
こういう燃費などをみると、世界にあるものはすべて自分のものと“勘違い”しても許された、戦前の富裕層とはまったく違うのだ。世界との共存こそが新しい富裕層の価値観であることがよくわかる。
クリエイティブ力に感心存在感という点では、デザインの独自性も、メルセデス・マイバッハのもうひとつの特徴だ。
SUV市場のためにメルセデス・マイバッハ「GLS」という、豪華なモデルもラインナップされている。SUVというか、もっと厳密には、SUV型をしたショファードリブンのリムジン。大きくリクライニングする機構をそなえた後席の居心地はとてもよい。
しかも、ボディ各所のクロームなど、細部まで凝っていて、自動車好きなら、気分が浮き立つような、デザイン性の高さが特長だ。
八方美人的なデザインではつまらないと思う、審美性を強く求めるひとがメルセデス・マイバッハのオーナーに多いのだろうか。これまでに、ごく限定的に生産され販売された、エッジの効いたデザインのモデルも数台ある。
ひとつは、ルイヴィトン・メンズのアーティスティックディレクターをはじめ、建築家でもありファッションディレクターでもあった故ヴァージル・アブロー(1980~2021年)がディレクションした「プロジェクト・マイバッハ・コンセプト」(2021年)だ。
どことなく伝統的なオフローダーのテイストを持ちながら、従来のメルセデス・マイバッハ車とはまた違う斬新なデザイン言語を用いて、個性ゆたかなSUVに仕立てられていた。
そのあと、2023年1月に「Limited Edition Maybach by Virgil Abloh」が世界限定150台だけ生産されて、日本の割り当てぶん13台もすぐに売り切れたという。
もうひとつは、2023年9月に登場した「メルセデス・マイバッハSクラス・オート・ヴォワチュール」。ベースはメルセデス・マイバッハ S680で、ファッションのオートクチュールにインスピレーションを得て仕立てた“超”特別な内外装を持ったモデルだ。こちら日本ではわずか3人しかオーナーになれない。
自動車メーカーはこれまで、ファッション業界を中心に、異業種とのコラボレーションをときどきおこなって、限定モデルを送り出してきた。ただし、たいていはシート地などの内装色の変更や、特別な車体色の追加程度にとどまっていた。そこにあって、メルセデス・マイバッハが、これまで以上に、造型にいたるまで異業種と積極的に関わるコラボレーションに踏み切ったのは、大胆な提案をされても、それを受け止めて、プロダクトに昇華できる許容力を身につけたからだろう。
別の見方をすると、強いブランドとは、異質な要素だろうと飲み込み、そこからあたらしいクリエーションを生む力を持っているといえる。
それでも、ファッションならいざしらず、クルマでやるのはたいへんなことだ。それを実現してしまったメルセデス・マイバッハのクリエイティブ力には、感心するとしか言いようがない。
メルセデス・マイバッハをパートナーに選ぶことは、最高の自己表現になるかもしれない。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
Sクラスの上級バージョンとして価格帯を下げたことが功を奏したと思う。
ロールスでは高すぎるけどSクラスでは物足りないという層を上手く取り込んだと思う。
なぜ、最高の自己表現なのだろう。