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A7の姿を借りた“リアル・スーパーカー” ──新型アウディRS7スポーツバック試乗記

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A7の姿を借りた“リアル・スーパーカー” ──新型アウディRS7スポーツバック試乗記

アウディのハイパフォーマンスモデル「RS7スポーツバック」に今尾直樹が試乗した。RSならではの魅力とは?

魔性とも言える性格

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だから、おまえさんには乗る前にメカニズムのなんたるかぐらいは予習しておきなさいとおせえて(教えて)るんだ。ええ。なんの予習もしないで、いきなりこんな600psのバケモンに乗ろうてぇ了見がいけないよ。ええ。

まことにあいすいません。予習してなかったものだから、海ほたるの駐車場でチラリと見て、あとから知ったわけだけれど、左右のフェンダーはA7から25mmずつ広がっていて、なんとも様子がいい。いかにも車高が低くてペッタリしている。

フロントのボンネットがちゃんと閉まっていないみたいにも見える、グリルのすぐ上の薄型の冷却口に「まるでアバルトみたいだ」という思いを抱きつつ、なあに、アウディRSだ、乗りやすいに決まっている、恐るるに足らずと、スターターを押したときのエンジンの爆裂音の大きさに驚いたこと。

東京湾に浮かぶ海ほたるの駐車場は船みたいに天井があるから、音が反響したのだろうとは思ったけれど、そこからアクアラインを木更津方面に向かって橋上を走り始めてみると、さっき、あんな爆裂音を発したエンジンがにわかに静かになり、乗り心地はそれなりに硬いものの、う~む、これはいったいどんなエンジンを積んでいるのか、いまどきV8ではなくてV6なのか、と、筆者はさっぱりわからなくなった。

車内にスペック表があったので、それを眺めてみると、4.0リッターV型8気筒ガソリンターボとある。最高出力600ps、最大トルク800Nm。しかもスペック表にはないけれど、48Vマイルド・ハイブリッド(MHEV)システムが組み合わされている。このスターター兼オルタネーター(交流発電機)とリチウム・イオン電池を中心とするMHEVがクセモノで、新型RS7の怪物性、ぬえ的妖怪の、魔性とも言える性格を決定づけている。

あるときはスーパーカー、あるときはまことに静かな、ちょっとスポーティめのクーペといった涼しい顔をしてみせる。その振り幅がハンパない。

房総の田舎道をゆっくり走っていたときなんて、エンジン音はめちゃくちゃ静かになって、聞こえてくるのはロード・ノイズのみ。むしろ、騒音吸収スポンジを内部に持つ、ピレリPゼロのPNCS(ピレリ・ノイズ・キャンセリシング・システム)という静粛性の高いはずのタイヤを履いているのに、なんでこんなにロード・ノイズが大きいのか、といぶかった。

いまから考えると、あれはエンジンが休止していたのだ。そうするとロード・ノイズがおのずと目立つ。RSモデルの開発を担当するアウディ・スポーツGmbHは、だからこそPNCS付きのPゼロを選んだのだろう。

高い! のではなく、安い!?

タイヤといえば、試乗車はオプションの22インチなんぞという超大径ホイール&タイヤを装着している。それゆえ、乗り心地はいかにもスーパーカーっぽい。低速では硬くてゴツゴツ感がある。タイヤが前後ともに285/30という、横から見たら海苔が貼ってあるみたいな薄さだ。一般道をフツーに走っていて、フツーのクルマだったら、なんてことない程度の轍にステアリングをとられて、まっすぐ走らない。それほどの極薄極太、極悪と付け加えてもいいくらいの超扁平タイヤだ。

そう思ったら、オプションなのだから標準の21インチにしておけばいい。ということですけれど、1799万円もするクルマが私に買えるわけもない。

それより、こんなに極悪、じゃなかった、極太の超扁平タイヤを履いているというのに、路面がよくなれば、なんの問題もないことをこそ称揚すべきでしょう。

具体的には、帰り道、海ほたるから都内へと向かった場合は、まことに快適だった。路面がわりかしいいからだ。都内で試乗している限り、RS7スポーツバックがワンダリングする、なんてことには気づくひとはいないのではあるまいか。

乗り心地にはスッキリとしたストレートな硬さがある。試乗車が標準のRSアダプティブエアサスペンションではなく、オプションのRSスポーツサスペンションプラスを装着しているからであると考えられる。スチールのコイル・スプリングと、ダイナミックライドコントロール(DRC)を組み合わせた、初代RS6以来のピュア・メカニカルな足まわりで、ときにウニウニと揺れているようにも感じられるバネの柔らかさがあるのに、ピッチングもロールもほぼ皆無なのは、右前輪と左後輪、左前輪と右後輪のショック・アブソーバーを油圧ラインでそれぞれ結び、それぞれに必要なオイル量を融通するDRCのおかげなのだ。たぶん。

ホイールの隙間からは、これまたオプションのセラミック・ブレーキがドドンと見える。このオプション、130万円という、セラミック・ブレーキとしては超お値打ち価格で、通常のスチール製ディスクより34kgも軽量で、その分、バネ下が軽くなる。制動力アップだけでなく、乗り心地にも効果があるのだから付けるにしくはない。

おまけに、このセラミック・ブレーキを装着すると、250km/hに制限している最高速度を、オプションで305km/hに引き上げることができる。試乗車は車両価格、オプションも込みだと2000 万円以上になっている。高い! と、思ったけれど、最高速度300km/h超なのだから、安い! と、断言すべきだろう。RS7スポーツバックはA7の姿を借りた、本物のスーパーカーなのだ。

来るべき世界のグランド・ツーリング・カー

4輪操舵システムは、後輪が低速では前輪と逆位相に最大5度、自動的に操舵されて回転半径を小さくし、100km/hを超えると、前輪と同位相に最大2度操舵されて、安定性を高めるとされる。

全長5mの巨体にもかかわらず、くりんちょとUターンできる一方、高速スタビリティは高いような、割とそうでもないような、でも、やっぱりものすごく高いような……、あれこれ筆者の評価軸が揺れるのは、つまるところ、筆者の感覚が融通無碍の4WSについていけていない証かもしれない。

それはともかく、ドライブ・モードには例によってエフィシエンシー、コンフォート、オート、ダイナミックの4つのモードがあり、筆者は主にオートで走り、料金所の手前でダイナミックにして全開を試してみたりしたわけです。

ダイナミックにすると、乗り心地が俄然、いっそう硬くなり、エンジン音が唸りをあげ、ステアリングは重くなる。ガバチョとアクセルを踏み込むと、7000rpmまで4.0リッターV型8気筒ガソリンツイン・ターボが気持ちよくまわり、レヴ・リミット近くに達すると画面がピカピカっと光る。車重2140kgもある巨体がロケットみたいに加速し、ヒイィィィィンという高周波音がかすかに聞こえてくる。

4.0リッターV型8気筒の2基のツイン・スクロール・ターボチャージャーは、先代よりコンプレッサーのホイールの直径を3mmひろげ、ブースト圧を0.2bar上げている。600psと800Nmのスーパー・パワーで、アッという間に制限速度に達してしまうから、そのあとは巡航に入り、おりを見て軽くアクセルを踏んだりしてみると、ひゅんひゅんという、口笛を吹くような音が聞こえる。たぶんウェイストゲートが開く音ではあるまいか。

このV型8気筒は必要に応じて4気筒休止するシステムを備えてもいる。55~160km/hの範囲では、ドライバーがアクセル・ペダルから足を離すと、V型8気筒は4気筒になるか、あるいはオフにしてコースティング状態となり、マイルド・ハイブリッドのスターター兼オルタネーターがエネルギー回生するか、どちらかをドライブ・マネージメント・システムが自動的に選択する。MHEVシステムは、22km/h以下でエンジンのスタート&ストップをすることもある。

これらの制御のロジックはドライブ・モードの、エフィシエンシーかオートかダイナミックか、のどれを選んでいるかにより、変わってくる。それゆえ、ドライブ・モードをあれこれ切り替えていると、ますますもって変幻自在の怪物に思えてくる。あるときはV型8気筒ガソリンツイン・ターボのモンスター、あるときは4気筒、またあるときはエンジン休止のコースティングで、爆裂音を発する場合もあれば、ロード・ノイズしか聞こえてこないこともある。しかしてその実体は……藤村大造だ! ではなくて、アウディRS7スポーツバックだ!

アウディはガソリン・エンジン車時代の末期にふさわしく、というべきか、来るべき世界のグランド・ツーリング・カーをつくりあげたのである。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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