日産ヘリテージコレクションの名車たちを紹介する連載第2回目は、日産の伝統的な高級車「セドリック」の異端児。7代目モデルで新提案されたスポーティモデル「グランツーリスモ」だ。詳細を見ていこう。
文/大音安弘、写真/池之平昌信、日産
Y31セドリック/グロリアこそ日産FR車で最もファンなクルマだった!? 「グランツーリスモ」が残した偉大なる功績とは?
■4ドアHTとセダンの2種類のボディを設定したY31セド/グロ
1987年6月に登場した7代目セドリックと8代目グロリア。写真の4ドアハードトップ以外に4ドアセダンなども設定
1987年6月17日に、セドリックとグロリアがフルモデルチェンジを発表。保守的だった先代型の販売不調を脱するべく、「高い品格を備えながら、“人の心に素直な”そして、“若々しく躍動感あふれる上質な”クルマ」が目指されたという。
ボディタイプは、先代同様に2種類を用意。4ドアハードトップは、スポーティさを重視し、走りのよさを感じるスタイルに。4ドアセダンは、落ち着きのあるフォルムを重視していた。
主なグレード構成は、ボンマス(ボンネットマスコット)付きの標準顔となる「ブロアム及びクラシック」系と新提案のスポーティグレード「グランツーリスモ」に分かれた。ステーションワゴンは、先代となるY30型が継続し、なんと1999年まで生産販売が継続されていた。地味なワゴンではあるが、その味わいが受け、近年はカスタムベースとしても人気だ。
そして、主にタクシー用となる営業車仕様は、セダンのみを用意。驚くべきことに営業車仕様は、幾度の改良を行ったとはいえ、Y31型ベースのまま、2014年まで受注。
最終型でも8~9年落ちとなるが、現在もセドリックタクシーが現役で活躍しているの理由となっている。ちなみに、グロリア営業車は1999年にセドリック営業車に統合されている。
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■スポーティな「グランツーリスモ」
日産の座間に収納されているY31型セドリックグランツーリスモSV
さて、今回の主役「グランツーリスモ」に話を戻そう。大きくデザインが異なる印象もあるが、外観上は専用デザインの前後バンパーとアルミホイールに変更。ドアミラーがボディ同色となり、マスコットレスのボンネットとなる程度。
復活が発表された映画『あぶない刑事』シリーズで活躍するY31型セドリックグランツーリスモには、ボンマスが装着されるが、あれはイレギュラーな仕様なのだ。
当時の4ドアハードップは、開放感あふれるピラーレス構造で、これはセドリック/グロリアすべてのハードトップ仕様で共通のもの。セダンよりも背が低く、スタイリッシュさも意識されていた。
こちらはブロアム系のセドリック4ドアセダン。ちなみに1988年6月、4ドアセダンにもV20ツインカムターボグランツーリスモSVが追加された
意外にもグランツーリスモには、セダンも存在した。1988年にターボエンジン搭載のグランツーリスモSVの1種類だけを追加していた。どんな需要があったかは不明だが、恐ろしくレアであることには違いない。
内装は基本的にデザインや装備は共通。差別化として、グレー基調の内装色をメインとし、スポーティな3本スポークステアリングを装着されていたのが特徴。メカニズムではスポーティサスペンションとしたのは、走りの日産らしいこだわりだ。
■エンジンはV6の2LターボとNAを設定
搭載されるV6、2LDOHCターボのVG20DETエンジンは最高出力210ps/6800rpm、最大トルク27.0kgm/3600rpmを発揮した
エンジンは、ブロアム系の3Lは採用せず、2Lエンジンのみを設定。日産初のセラミックターボを搭載したV6のVG20DETと、ワンカムの自然吸気仕様のVG20Eの2種類を設定。
基本はATだが、VG20E搭載車の1グレードのみ5速MTも選べた。グレード構成は、「グランツーリスモSV」と「グランツーリスモ」を用意。後に、特別仕様車の設定やグレードの追加も行っている。
座間に展示されている1991年式セドリックグランツーリスモSV。イエローイッシュシルバーメタリックのボディカラーが渋い
展示車は1991年式の4ドアハードトップ仕様の「グランツーリスモSV」だ。1989年に改良を受けた後期型であるとともに、モデル生産終了年の最終型でもある。ボディカラーは、珍しいシルバー系の「イエローイッシュシルバーメタリック」なので、見る角度によってゴールド系にも感じる色味だ。
後期型では、搭載されるVG20DETエンジンは、ターボチャージャーの軸受けがボールベアリングに変更され、インタークーラーも搭載。さらにガソリンがハイオク対応となるなどの進化から、性能を大幅に向上。
最高出力210ps/6800rpm、最大トルク27.0kgm/3600rpmとなった。ATも、従来の4速から新開発となる乗用車向け世界初の5速ATに。この頃には豪華装備の特別仕様車だった「グランツーリスモスーパーSV」が、カタログとして復活しているが、豪華な上級グレードであることには変わりはない。
■徳さんも元さんも高評価を与えたグランツーリスモ
当時のベストカー執筆陣の徳大寺有恒氏や黒沢元治氏もY31セドリック/グロリアには高い評価を与えていた
デビュー当時のベストカーの記事を振り返ると、徳大寺有恒氏はこのグランツーリスモを「ローレルやスカイライン、ことによるとフェアレディZを含めた日産のFR車のなかで最もファンなハンドリングを持つ」と表現している。
そのページには、ド派手にテールスライドを決めるグランツーリスモの姿もあり、ドライバーを高揚させるスポーツGTに仕上げられていたことをうかがわせる。黒沢元治氏も、セドリック/グロリアのキャラクターが大きく変わったことに触れ、特に注目していたのが、VG20DET搭載の「グランツーリスモ」。
そのハンドリングを「その名のとおり、GTカーに仕上がっている。ハンドリングは、スポーツサルーンといっても過言ではない」という高評価。センターピラーレス構造によるボディ剛性の物足りなさなど問題点も指摘するが、全体的には素晴らしいとしている。走りに煩い男たちを満足させたのだから、当時としては凄いGTサルーンだったことが伺える。
■宿敵クラウンとは違った高級車のイメージ像を作り上げたY31
Y31セドリックグランツツーリスモSVのインテリア。グレー基調の内装色をメインとし、スポーティな3本スポークステアリングを装着していた
オーナードライバー層に支持された新提案の「グランツーリスモ」は、その後のセドリック/グロリアには欠かせない存在となったのは言うまでもないだろう。その影響は、宿敵クラウンにも及んだ。
日産の黄金期と言われる1980年代後半から1990年代に活躍したセドリックグランツーリスモは、当時の日産の勢いを物語るだけでなく、セドリックの「親父グルマ」というイメージさえも崩した。
まさに開発陣の発想転換と努力を感じる1台だ。その大人たちを魅了した、ちょっと危険なアダルトな雰囲気は今も健在だ。
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みんなのコメント
・「ターボ(SGL-)F/ジャック・ニクラスVer.」
・「ターボS(NAもあり)」
というスポーティに振ったグレードがあり、前者は「ブロアム」にも無い先進装備が
盛り込まれ、後者はボトムグレード「GL」をベースに若年層訴求という位置づけ。
これらを統合して「もう1つの顔」になったのがグランツーリスモ。
「1つの車種に2つの顔」の嚆矢となり、その後90マークII系(グランデ/ツアラー)が
追随した。
ちなみにクラウンは14から「ロイヤルツーリング」というスポーティグレードがあったが、
ロイヤルサルーンの影に隠れがちで、17でやっと「アスリート」として確立した。