小川の流れるアングルシー・サーキット
審査2日目の午前9時。グレートブリテン島中西部に位置する、アングルシー・サーキットのピットレーンを照らすシグナルが、ブルーに変わる。予報通り、朝から雨。横なぐりの。コントロールタワーから見下ろすと、コースを横切るように小川が流れている。
【画像】英国ベスト・ドライバーズカー(BBDC)選手権 2023 ノミネート車両11台と審査の様子 全70枚
このサーキットには、緩やかに右へ弧を描く高速コーナーの先に、ロケットと呼ばれるヘアピンカーブがある。ブレーキング直前、高性能なモデルでは220km/hを超える。
こんなトリッキーなコンディションを可能な限り平穏にこなすなら、FFホットハッチのホンダ・シビック・タイプRが良いかもしれない。あるいは、四輪駆動のスーパーサルーン、アウディRS7 スポーツバック・パフォーマンスも好適だろう。
そんなことを考える筆者を横目に、のっけからイリヤ・バプラートが自然吸気のV10エンジンを容赦なく回す。8500rpmのレブリミットへ当てながら、ピットレーンを出ていく様子に、筆者も気持ちが奮い立たされる。
彼はBBDC選手権の審査員として初めての参加だが、まったく萎縮する様子はない。610psを発揮するランボルギーニ・ウラカン・ステラートにも、臆さない。むしろ、一般道で感じ取った好印象を、更に探ろうとしている。
驚くほど、ドライバーの自信を喚起するスーパーカーだ。ランチタイムまでに、全員の審査員がウラカン・ステラートのステアリングホイールを握った。サンドイッチを口にしながら、5名の誰もが称賛の言葉を漏らす。
安心してシャシーの能力を引き出せる
「笑いが止まらないほど懐が深く自在」と、ジェームス・ディスデイルが口火を切る。悪路にも対応するブリヂストン・タイヤは、アンダーステアを見事に抑制。黒魔術で生成されたコンパウンドなのでは?と冗談を交える。
高速コーナーでも僅かなオーバーステアを許容する、シャシーの手懐けやすさにも触れる。ヘアピンから2速で立ち上がる、ケータハム・セブンのようだと話す。
ウラカン・ステラートは、サーキットを前提にしていない。だが、ランボルギーニが緻密にチューニングを加えた結果が見事に機能。むしろ、得意分野になっている。
ポルシェ911 ダカールとの違いも、明らかになった。2台とも近い時期に発売され、同じような仕立てにあり、比較されがちな関係にある。たとえポルシェでも、ウラカン・ステラート級の一体感や楽しさを獲得することは、簡単ではない。
911 ダカールの強みは、ドライビングポジションと直感的なステアリング。それは一般道だけでなく、サーキットでも活きる。動力性能では僅かに劣っても、より自然な操縦性でドリフトに興じれる。
「安心してシャシーの能力を引き出せます。四輪駆動システムは、想像以上の仕上がり。前進しながら、思い切りテールスライドで振り回せます」。とアンドリュー・フランケルが微笑む。
ウラカン・ステラートで深いドリフトアングルへ持ち込むと、ドライブトレインの挙動が乱れる場面があった。派手にドリフトを続けるべきか、進行方向へなだめて加速するべきか、判断を迷うように。
ほぼ完璧なバランスと狙い通りのスタンス
911 ダカールは、より柔軟。ドライバーの意志に任されている。その正確な反応は、ポルシェという血統書に相応しい。それでも、秀抜のウラカン・ステラートを上回るほどの喜びかと聞かれると、即答は難しいだろう。
ドライバーズカーとしての評価軸は、喜びだけではない。思い通りに操れる充足感も、大切な指標の1つ。BMW M2 クーペがコーナーで体験させる、ほぼ完璧なバランスと狙い通りのスタンスは、間違いなく満ち足りた気持ちにしてくれる。
現在のBMW Mモデルで最も小柄ではあるが、最高出力は460psもある。ジュニアという表現が相応しいとは思えないものの、もう1台のBMW、M3 CSより扱いやすく、攻め込みやすい。
対するM3 CSは、大きく硬く、望まない瞬間でオーバーステアへ振られることもしばしば。濡れた路面では、アンダーステアへ転じることも。同時に、M2 クーペより熟成された操縦性でリカバリーしやすい。
サスペンションは見事。ボディを軽く感じさせる。
2台のBMWの評価は、審査員で別れた。ディスデイルはM3 CS推し。「サーキットでは、正確に速さを追求することもできますし、ドリフトマシンのように奔放に振り回すこともできますね」。M2は、締まりが弱いと印象を比較する。
M2 クーペ推しのフランケルは、「Mモデルとしての正解。突出した特長はないかもしれませんが、指摘するような弱点もありません」。と振り返る。M3 CSほどのドラマチックさはないとしても、充足感は高いと反論する。
個性としての違い 審査員の好みも異なる
プライヤーは、M3 CSを高く評価する。「M2よりベター。ドライでは、先代のM4 GTS並みに優れていると想像できます。ただし、全員がそう感じるとは思いませんが」
「あらゆる場面でのパフォーマンスを比較すれば、恐らくM2の方が完成度は高いと思いますよ。期待値よりグランドツアラー寄りかもしれませんが、より優れるでしょう」。と、控えめ(?)にわたし、リチャード・レーンも意見した。
バプラートも印象は異なる。「自分は、M3 CSの方が遥かに整っているように感じました」。M2 クーペの限界領域での特性は、さほど漸進的ではなかったと話す。M3 CSは、フロントアクスルを完璧に活用できている、とも付け加える。
時間をかけて意見を交わしても、平行線だろう。個性としての違いはあり、審査員の好みも異なる。2台のBMWが、魅了する走りを披露したことは間違いない。
BMWらしく、アクセルペダルの加減でコーナリングラインを調整でき、高速でアングルシー・サーキットを周回できたことは事実だ。M3 CSの方が、動的能力では洗練されている。躍動的な特性も宿す。
M2 クーペは、動力性能や正確性でM3 CSには届いていない。しかし懐が深く、ハードにプッシュせずとも、BMWらしい操縦性を楽しめる。加えて6速MTでもあり、しっかり身体を支えるバケットシートへ身を委ね、両手両足で操る楽しさへ浸れる。
どちらかがベスト3へ勝ち残る可能性は、充分にある。特に、ゴールドのホイールを履いたM3 CSは。
この続きは、BBDC 2023(5)にて。
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みんなのコメント
綺麗どころの中に1人だけブスいてるみたいやわ
スポーツカーはビジュアルが大切