重役気分を味わえる上質なインテリア
今回ご登場いただいたヴァンデンプラ・プリンセス 4リッターRは、1966年式。ロバート・ヒューズ・オートモビルズ社が新しい買い手を探しており、走行距離は10万6200kmほど。
【画像】最高峰のサルーン ヴァンデンプラ 4リッターR ジャガーSタイプ 3.4 同時期の英国車も 全101枚
状態は見事で、2021年のヴァンデンプラ・オーナーズクラブ・コンクールでは、クラス優勝を掴んている。上半分がブラック、下半分がカールトン・グレイに塗られたボディが眩しく輝く。
オースチン・ウェストミンスターやウーズレー 6/110と基礎を共有することを示すように、ボディの幅は狭い。ベントレーを意識したようなフロントマスクが、堂々とした佇まいを演出している。ヘッドライトと補助灯、ウインカーの配置も整っている。
後ろへ回ると、同時期のメルセデス・ベンツにも似た、水平に長いテールライトが風格を漂わせる。柔らかいカーブを描くホイールアーチや、控えめなテールフィンなどは、ロールス・ロイスにも通じる処理といえる。
ドアを開くと、心地良い香りで出迎えられる。中央にアームレストが備わる、レザー張りのフロントシートは美しく、ウッドベニアの艶も深い。スイッチ類も上品に並び、居心地に優れる。
ダッシュボードのデザインは、初期のロールス・ロイス・シルバーシャドーへ通じる。巨大なステアリングホイールが膝の上に伸びる。冷間時の始動用チョークは手動式だ。
リアシート側の空間は、前後長でゆとりがある。折りたたまれたピクニックテーブルを展開すれば、重役気分を味わえる。リムジンと呼べるほど、広々とはしていないが。
安定した高速クルージングこそ得意分野
究極の滑らかさを実現するべく、ボルグワーナー社製の3速オートマティックにはD2という1速を使わないモードが備わる。トルクコンバーターでいなし、シフトアップの回数を減らすことが可能だ。
確かに、低速域では滑らかに走る。アクセルペダルを深めに倒すと、若干ギクシャク感が出るから、穏やかに運転したいところ。コラムシフトは正確に動き扱いやすい。
洗練されたエンジン音が低く響くが、アクセルペダルへの反応は重苦しい。0-97km/h加速を12.7秒でこなすとを、実感させない。恐らく燃費は、ジャガーSタイプ 3.4のオートマティック版と同等だろう。
高速道路に出れば、130km/h前後の速度域で流暢に走れる。安定した高速クルージングこそ、プリンセス 4リッターRの得意とする分野。フロントがディスク、リアがドラムのブレーキはしっかり効き、減速時のバランスも悪くない。
コーナーではアンダーステアが抑えられ、扱いにくいことはないものの、操縦性で優れるわけではない。パワーステアリングを装備し、ロックトゥロックは2.6回転とクイックながら、精度は今ひとつ。能力は高そうだが、おおらかだ。
ステアリングホイールには、フロントタイヤがどんな状態なのか、殆ど感触が伝わってこない。意欲的なスピードで運転する自信は得にくい。少なくとも駐車時は軽く手を回せるけれど。
高評価のエグゼクティブ・エクスプレス
ゆったりと、銀行の支店長が乗るようなプリンセス 4リッターRに対し、ジャガーSタイプ 3.4は若々しい雰囲気を放つ。エグゼクティブ・エクスプレスと表現できる。
上品さという点では及ばないかもしれない。それでも、1960年代にはこのクラスで最高のモデルとして高い評価を集めていた。
全長は4750mmで、プリンセス 4リッターRと大きくは違わないが、車重は35kgほど重い。全幅は僅かに狭く、全高は低く、ホイールベースは約75mm短い。燃料タンクが左右に長く、外観から想像する以上に荷室は広い。
ドアを開くと、適度にタイトながら窮屈ではないインテリアが広がる。一見すると高級感でヴァンデンプラに並ぶものの、観察するとそうでもないことがわかる。シートの表面だけがレザー張りで、それ以外はアンブラと呼ばれる合皮で仕立てられている。
シートは高さ調整できない。リアシートには、折りたためるピクニックテーブルがない。
ダッシュボードの下には荷物棚があり、フロントシートの間にはアームレストも付く。メーター類とトグルスイッチが中央に並び、大きなレブカウンターも備わる。オーナーが自ら運転することが想定されている。対象的な雰囲気だ。
DOHC直列6気筒のXK型エンジンは、ドライなサウンドを放ちながら高回転域まで軽く回る。直接乗り比べると、プリンセス 4リッターRは防音性に優れ、車内は遥かに静かだと気がつく。
意欲的に運転したい気にさせるシャシー
Sタイプ 3.4は、4速MTにパワーアシストなしのステアリングで、市街地では少々扱いにくい。それでも、路面の不整をリムジンのように見事に吸収し、ロードノイズの処理や駆動系の滑らかさでは有利。フォーマルではないが、ラグジュアリーだ。
現代のモデルへ乗り慣れていると、コーナーでのボディロールが大きく始めは少し不安になる。とはいえ、煮詰められたサスペンションで、徐々にアンダーステアへ転じていくシャシーバランスは良好。意欲的に運転しようという気にさせる。
エンジンの回転数を高め、シフトレバーをこまめに動かしたくなる。ジャガーに乗るなら、オートマティックはつまらない。オプションだったパワーステアリングが装備されていれば、一層好ましいスポーツサルーンになるだろう。
駐車時の、Sタイプ 3.4のステアリングホイールの重さは労働に近い。スピードが乗ってくると、楽しいインターフェイスへ一変する。
取引価格に差が生まれたかつてのライバル
プリンセス 4リッターRは、ドライバーの充足感を意識したサルーンではなかった。専らリアシートに座る人のための輸送手段として、開発されたことは間違いない。
とはいえ、当時の世界も急速に変化していた。求められる基準が上昇するなかで、速く洗練され、運転が楽しく、優れたコストパフォーマンスを備える上級サルーンをジャガーは開発できていた。
クラシックカーとなった今では、取引価格に差が生まれている。プリンセス 4リッターRなら、世界で最もオリジナル状態に近いと考えられる、理想的な状態でも2万ポンド(約320万円)程度でガレージに収められる。
Sタイプ 3.4なら、同等の状態で3万5000ポンド(約560万円)へ上昇する。完成度としてはジャガーの方が勝るものの、クラシックカー・マニアとしてヴァンデンプラへ惹かれたとしても、理解はできる。
豪華に仕立てられた内装に、ロールス・ロイス製のエンジン、残存数の少なさを考えれば、価値のある選択だと思う。当時のBMCの体制や楽観主義といった、歴史的な背景もクルマとしての訴求力を強めている。
深い愛情を注いでくれるオーナーが見つかることを祈りたい。
協力:ロバート・ヒューズ・オートモビルズ社
ヴァンデンプラ・プリンセス 4リッターR ジャガーSタイプ 3.4 2台のスペック
ジャガーSタイプ 3.4(1963~1968年/英国仕様)
英国価格:1885ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約560万円)以下(現在)
販売台数:9928台
全長:4750mm
全幅:1683mm
全高:1416mm
最高速度:180km/h
0-97km/h加速:11.0秒
燃費:5.3-7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1654kg
パワートレイン:直列6気筒3442cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:213ps/5500rpm
最大トルク:29.8kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速マニュアル
ヴァンデンプラ・プリンセス 4リッターR(1964~1968年/英国仕様)
英国価格:1994ポンド(新車時)/2万ポンド(約320万円)以下(現在)
販売台数:6555台
全長:4775mm
全幅:1740mm
全高:1499mm
最高速度:180km/h
0-97km/h加速:12.7秒
燃費:4.6-6.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:1619kg
パワートレイン:直列6気筒3909cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:177ps/4800rpm
最大トルク:30.0kg-m/3000rpm
ギアボックス:3速オートマティック
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