昔は熱でベアリングが壊れないようアフターアイドリングが必要だった
ターボエンジンが増えてきました。ヨーロッパでトレンドになっていたダウンサイジングターボが、日本でも数多く登場してきましたね。そしてディーゼルエンジンでは、パワーだけでなく、排気ガス対策の面でも、ターボが不可欠です。
ポルシェターボというのはターボを知らしめた有名なクルマですが、今ポルシェのラインアップのなかでターボが付いていないのは、ごく一部になっています。近い将来、ターボはパワステやエアコンのように、世界中の自動車用エンジンに標準装備になっていくのかもしれません。
ターボタイマーというのは知っていますか? エンジンキーでオフにしても、エンジンが一定時間止まらないようにする装置です。ターボが熱くなっているので、エンジンを回してオイルを供給してやろうというのが目的で、こういうのをアフターアイドリングといいます。
アフターアイドリングはもちろん自分でやることもできますが、それを自動化してくれるのがターボタイマーなのです。ドライバーはキーをロックしてクルマを離れても、一定時間後に自動的にエンジンを停止してくれるのです。
ターボは走行後すぐにエンジンを止めないでアフターアイドリングが必要だ、というのは、機械的に保護するためです。ひと昔前まで、よくそう言われていました。
しかし最近は聞かなくなりました。もっともハードな働きをするターボエンジンを積むレーシングマシンでさえも、ピットに入って来たらすぐにエンジンを止めます。耐久性が重視される最近のレーシングエンジンでは、とにかく壊れない、壊さないような設計や制御が施されています。そこにアフターアイドリングという言葉はないんです。
ターボは排気ガスが当たるので、熱くなります。昔はその熱害でターボが壊れてしまうので、アフターアイドリングしましょう、というのが常識化していました。
エンジンの排気温度は最高で1000度くらいで、タービンに使われているインコネルという素材は耐熱温度が1300度以上あります。だから放っておいてもタービンが融ける、というようなことはありません。問題になるのはベアリングなんですね。
ベアリングの進化と水冷化でアフターアイドルが必要なくなった
ベアリング部分のオイルはエンジンオイルなので、エンジンが回っているときは循環しています。しかしエンジンを止めると循環しなくなるので温度上昇して、蒸発したり、固形化したり、はたまたメタル部分が焼きついてしまったりします。
ターボのベアリングはフローティングベアリングという特殊な構造で、オイルに浮いた状態になっていて、ターボの超高回転に耐えることができます。その浮いているわずかな高さで、ターボが回転する時の細かな振動を吸収することもできます。
ターボチャージャーの形を見たことのある人も少なくないと思います。両方にタービンがあって、その間にシャフトがあります。このシャフトがオイルの上で浮いて、ベアリングのような働きをします。
ターボの回転数は20万rpmを超えます。そんな高回転を支えるベアリングは、メカニカルなものでは難しかったので、オイルベアリングが採用されてきたわけです。それだけにオイルを適正に管理しないと、ターボが壊れてしまうんです。
ただ最近はターボラグを減らすために、一般的なボールベアリングが使われるようになっています。ターボの超高回転に耐えるように、ボールは軽量で硬いセラミックが使われています。さらにターボユニットは水冷化されているので、しっかり温度を下げていくことができます。
そもそも現在の高性能モデルの多くがターボになっていますが、その多くにアイドリングストップ機構が組み込まれています。容赦なくスパッとエンジンは止められるんです。
エンジンを停止しても、ターボユニットの冷却を考えてクーリングファンが止まらない制御をするクルマもあります。クルマから降りてロックしても、まだまだブーンという音が止まらなくて、慣れないとちょっと心配になったりします。
問題なのはターボやオイルの温度そのものというより、エンジンルーム内の温度を上昇させないために、空気の流れを維持することです。
そういったことを考慮してダウンサイジングターボエンジンを考えると、ターボユニットは前にあったほうがいいんですね。前方排気というシステムになります。さあ、どこのメーカーが前方排気で、トレンドが見えていない後方排気のメーカーはどこでしょうか?
とはいえエンジンの吸排気系を前後逆転させることは、それほど大変ではありません。しかしクルマのプラットフォームで見ると、エンジンの搭載位置や構成が大幅に変わるので、対応がかなり難しくなります。
ターボエンジンはメカニズムの進化もあって、すぐにエンジンを切っても大丈夫です。気にするのであればエンジンオイルのコンディションのほうでしょう。現在の、というより、かなり前からアフターアイドリングは不要だったんですけどね。
(文:岡村神弥)
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