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ランエボ生誕30周年から考える「歴代で最もエキサイティングだったランエボ、そして日本のクルマ界にランエボが遺したもの」

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ランエボ生誕30周年から考える「歴代で最もエキサイティングだったランエボ、そして日本のクルマ界にランエボが遺したもの」

 1992年9月に初代ランサーエボリューションが生誕して今年9月でちょうど30年を迎えた。以後、第一世代でエボI~III、第二世代でエボIV~VIマキネンエディション、第三世代エボVII~IXMRときて、最終の第四世代はエボXのファイナルエディションで締めくくられている。

 そこで、ランエボの開発に深く携わってきた中谷明彦氏に特にエキサイティングだった歴代エボの1台を選んでもらい、ランエボ全体が日本の自動車史に遺したものについて語ってもらった。

ランエボ生誕30周年から考える「歴代で最もエキサイティングだったランエボ、そして日本のクルマ界にランエボが遺したもの」

本文/中谷明彦、写真/三菱自動車、ベストカー編集部

■きっかけはN1耐久レースへのGTOでの参戦

筆者の中谷氏はN1耐久レースに280sの3Lツインターボを積んだGTOで参戦。しかしながら、重い車重などから苦戦し、ライバルのR32スカイラインGT-Rの後塵を拝することが多かったという

 1992年にランサーエボリューション(ランエボ)が登場した時、まさか自分がこれほど多くエボにかかわることになるとは思いもよらなかった。その頃は全日本F3000やグループCのレースからF1世界選手権へと飛翔するつもりでいたからだ。

 一方、エボはWRC(世界ラリー選手権)を制覇するため、1987年に登場したギャランVR-4から引き継がれた4輪駆動技術を活かし、ラリーシーンやオフロードを得意とするクルマとして企画されていた。

 しかし、スーパーライセンス発給問題やバブル崩壊などの影響で僕のF1への夢は閉ざされ、再び国内のレースシーンでの活動を主軸として行くなかで、グループA時代にお世話になった三菱自動車から声をかけられ、当時のN1耐久レースに三菱GTOで参戦する機会をいただいた。

■エボのオンロード性能向上のために中谷氏に白羽の矢が

第二世代ランエボの最初のモデル、ランエボIV。この頃から三菱開発陣のアドバイザーとして筆者は参加することになる

 R32型日産スカイラインGT-R打倒を旗印としてチャレンジしたが、3Lの排気量を持つGTOは重い車重設定がなされており、2位表彰台に立つのがやっとだった。そんな折り、WRCのステージは高速化され、舗装路のSS(スペシャルステージ)も増えていた。三菱はエボのオンロード性能を高めたいと。当時GTOを速く走らせていた僕に白羽の矢を立て、開発のアドバイザーとして加わることになる。

 ちょうど第二世代となるCN9型エボIVが導入された時期だ。WRCではトミー・マキネンが速さを発揮してタイトルを獲得したが、舗装路のサーキットでのパフォーマンスは決して高くはなかった。

 そこで、それまでのレースでのノウハウを注ぎ込むべく多くの提案をした。軽量化を果たすために薄型のボディパネルを採用すること、同じく薄型ガラスを採用し、エンジンフードやフェンダーなどできるかぎりアルミ製を採用する。

エボVから投入されたブレンボのレーシングキャリパー。ストッピングパワーが大幅に増強されることになった

 ブレーキはレーシングキャリパーのブレンボを装着し、フロントストラットは倒立式としてコーナリング時の剛性を高めた。さらにアルミ製のサスペンションアーム、シャシー剛性を高める局所剛性の向上、またタイヤサイズをGT-Rと同じ245mmサイズとすることを求めた。

 そこは235mmまでしかサイズアップできなかったが、それでも前後のトレッドを大幅に拡幅し、5ナンバー枠を超える車幅として235mmを納めた。この点は道の狭い林道を走るラリーチームの多くから反対されたが、三菱は僕の意見を取り入れてくれたのだ。

■エボVで突然発生的に誕生した「ゼロ・カウンター」走法!

エボXファイナルエディションでサーキットを走行する筆者。4輪ドリフトであるゼロ・カウンター走法はエボVの時点で偶発的に完成したものだったという

 その結果、エボVは圧倒的なパフォーマンスアップを果たし、筑波サーキットでのラップタイムをエボIVの1分6秒台から1分4秒台へと一気に向上させることに成功したのだ。

 このエボVが僕にとって最もエキサイティングなエボとなった。

筆者の中谷氏が歴代モデルで最もエキサイティングなエボとして選んだのが歴代初の3ナンバーボディが与えられたエボV(写真はRS)。1998年に登場し、WRCグループAに投入され、シリーズを席巻した

 初めて筑波サーキットを走らせた時、最初の1周目にスーパークロスの5速ミッションは400mしかないバックストレートで5速に入った。通常は3速で入る100Rの最終コーナーを4速で進入すると、リアがスライドし始めたのだが、グリップが高く安定していた。

 すかさずアクセル全開を加えると4輪がパワースライドしながら一定のヨーレートを保ちつつ、カウンターを当てずに最高効率の4輪ドリフト走行(いわゆる「ゼロ・カウンター」走法)が創出されたのだ。

 後に土屋圭市氏がこのゼロ・カウンターを見て、「中谷は何千周も走り込んだに違いない」と語っていたが、実は初テストの最初の1周目に突然発生的に生まれた走法だったのだ。

■1998年のWRCをエボVで完全制覇!

筆者はこのエボV(写真はGSR)でグループN仕様にし、当時のスーパー耐久クラス2カテゴリーで年間チャンピオンに輝いている

 このエボVをノーマルに最も近いグループNレース仕様に仕立て、スーパー耐久クラス2カテゴリーにエントリーし、年間チャンピオンを獲得。エボではその後スーパー耐久で50勝した。

 また、WRCでもエボVは圧倒的強さを示し、1998年にマニュファクチャラーズもドライバーズもタイトルを獲得。グループNクラスでも無敵の成績を残したのはアドバイスした身として嬉しかった。

 その後もエボは年々進化し、最終的にはエボXファイナルで完結した。実はエボV開発時にはより多くのアイテムをオーダーしていたが、開発費の制約から年次進化で徐々に投入していくしかなかった。

 ACD(アクティブセンターデフ)やAYC(アクティブヨーコントロール)をレースに投入し、制御や耐久性の進化を試みるよう、僕は強く進言。「S耐制御」という実践的なソフトプログラムを開発した。残念ながら、それはエボにフィードバックされる直前に開発が凍結され、エボXファイナルがラストモデルになってしまった。

2007年に登場したランエボXの最終モデルとなるファイナルエディション(2015年発売)と筆者(写真左端)

 エボXのスタイリングは素晴らしかった。初のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)にローンチコントロールシステムやサーキットモードも取り入れた。時代が少し早すぎたかもしれないが、現代ではスーパースポーツの常識装備となっていることを思うと、三菱が開発を止めてしまったのが本当に残念でならない。

 もし、今エボが復活できるなら、S耐制御をはじめ未投入のメニューがまだ多く残されている。それが実現したら史上最高にエキサイティングなエボを復活させられるのだが……。

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みんなのコメント

29件
  • エボ5」の衝撃は…記憶に残りますね
    ( ゚д゚)

    ホント…どっからも攻められなくて
    エボ4」の時は…何とか?なったんよ
    完全に☆クラス違い」でしたね

    2リッター最強」でしたからね
    *\(^o^)/*
    その上の→32R
    テンロクの→シビックRと

    メーカーが本気を出すと…
    凄いクルマ」が出てくるんだなぁ☆と
    楽しい時代でしたね
  • IIIまでの第一世代じゃないかな
    知る人ぞ知るという感じでマニアックだったし
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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