ポルシェのパフォーマンスを堪能できるブランド体験施設
ポルシェは多くの自動車愛好家にとって憧れの存在です。とはいえ、憧れの源は人それぞれ。レースでの輝かしい戦績や連綿と続くアイコン「911」などヒストリー系に胸を打たれるファンもいれば、最新モデルの群を抜く性能や多彩なラインナップが好きという人もいることでしょう。
【画像】「えっ!…」これがポルシェの魅力を気軽に体験できる施設「PEC東京」の全貌です(31枚)
いずれにせよ、長年にわたって揺るぎない、ポルシェの性能と品質を追求する姿勢が多くの人々を魅了しているのは間違いありません。
一方、憧れを抱くオーナー予備軍はもちろんのこと、すでにオーナーとなっている人ですら、ポルシェの真の性能を体感する機会はそう多くはありません。
しかし、ポルシェ所有の有無を問わず、そのパフォーマンスを堪能できるブランド体験施設があるのをご存知でしょうか? それが、2021年10月、千葉県木更津市にオープンした「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)」です。
建設中のものも含めると、世界9か所にあるポルシェ・エクスペリエンスセンターのひとつで、PEC東京は43ヘクタールという広大な敷地に、オンロードとオフロードコースを備えています。
今回はそんなPEC東京の魅力を、“997”型「911」オーナーである筆者(村田尚之)が実際に体験してきました。果たしてどんなエクスペリエンス=体験を味わうことができたのでしょうか?
PEC東京は、東京都心からクルマで1時間ほどの距離にありますが、周辺は森に囲まれた自然豊かな環境です。実はこれもPEC東京の特徴につながっている要素のひとつで、起伏に富んだ地形を生かしたアップダウンのあるコースレイアウトとなっています。
今回、筆者が体験したのは、コース見学を兼ねた「カイエン」でのオフロードプログラムと、「911」でのドライビングエクスペリンスです。
PEC東京は全長約2.1km、起伏に富んだコース設計の“ハンドリングトラック”を筆頭に、車両のコントロール方法をトレーニングするのに適した“ローフリクションハンドリングトラック”、最大約40度の傾斜を持つ“オフロードエリア”など、計6つのドライビングモジュールなどを有しています。
これらのモジュールを使用するドライビング体験プログラムは大きく分けて4種類。「ドライビングエクスペリエンス」、「デモンストレーションラップ」、「アクセラレートプログラム」、「ポルシェ・オーナーエクスペリエンス」が用意されています。
●まずは「カイエンS」でオフロードを試す
まずコースインしたのは“オフロードエリア”。比較的コンパクトな設計ですが、起伏のある地形を活かしたタフなコースとなっています。
今回の試乗車である「カイエンS」はオプションのオフロードパッケージがついた仕様で、アンダーガードやコンパスディスプレイ(オフロード用計器表示)などを備えていました。
しかしながら、急斜面や大きなコブを目の当たりにすると、いかに最新の電子デバイスを備えるカイエンとはいえ、思わず腰が引けてしまいます。
まずはインストラクターの方がお手本を見せてくれますが、驚いたのは想像以上の走破性。大きなコブや急斜面の上り下りもじわりじわりと進んでいく様子は、まさに圧巻。とはいえ、そんな余裕は助手席に座っているときまでで、運転席に移ると斜面は壁に見えますし、地面の凹凸もひと際大きく感じます。
ドライブモードスイッチで「オフロード」を選択し、路面状況などの設定をおこなってからコースへと進んでいきますが、結論からいうとオフロード走行で不安を感じることは一切ありませんでした。
恐怖心からブレーキを踏んでしまいそうな急斜面での速度調整、一時停止からの再スタートすら難なくこなす電子デバイスの優秀さはもちろんのこと、インストラクターの方の分かりやすい説明が「怖さ」を「楽しさ」に変換してくれたようです。
公道では体験できない「911」本来の性能に触れる
最新のポルシェに触れる緊張もほぐれたところで、お待ちかねの「911」での「ドライビングエクスペリエンス」へと移ります。
「ドライビングエクスペリエンス」はインストラクターの方によるアドバイスを受けながら、自らステアリングを握るというプログラム。車両は「911」を始め、「718ケイマン」や「カイエン」、「タイカン」など、スポーツカーからSUV、サルーンまで用意されています。
まずは舗装された広大なスペースである“ダイナミックエリア”で、全開加速とフルブレーキングを体験します。
ここでの相棒となったのは最もベーシックな「911カレラ」。とはいえ、最高出力385ps、0-100km/h加速4.2秒をうたうモデルゆえ、そのパフォーマンスは刺激的のひと言です。そもそも街中では、アクセルやブレーキをベタ踏みする機会などほぼありませんから、最初の加減速だけでも心躍ります。
しかし、PEC東京の真価を味わえるのはここから。続いて、散水された低摩擦コンクリートの円周コース“ドリフトサークル”や、磨き上げたコンクリート路面のショートコース“ローフリクションハンドリングトラック”で車両のコントロールや挙動を学びながら、「911」の実力を体験します。
これらのコースでは、アクセルやステアリングの操作、荷重の変化により、クルマがどのように動くのかを低速域で体験できます。また、コースのライン取りや、ステアリングの切り方、切るタイミングのちょっとした違いで、「コーナーをスムーズに通過できる/できない」を実感できたのは、目から鱗でもありました。
そんな「ドライビングエクスペリエンス」の総仕上げは、全長2.1kmにも及ぶ“ハンドリングトラック”への挑戦。このコースの見どころはなんといっても、ドイツ・ニュルブルクリンクの“カルーセル”や、アメリカ・ラグナセカの“コークスクリュー”といった名物コーナーを再現した設計でしょう。
ただし、“ハンドリングトラック”は「飛ばしてタイムを競う」施設ではありません。あくまで正しい運転操作やライン取りを学び、ドライビングの楽しさを体験できる設計となっているのです。
そして注目すべきは、サーキットと呼んでも過言ではないコース長でありながら、コース幅がタイトなこと。これによって速度を抑えられ、コーナーのライン取りの難易度も上がるのです。
筆者も「911カレラ」のステアリングを握ってコースを進みますが、想像以上の難易度に驚かされました。とはいえ、難しいと感じるのは自らの運転操作の何かに間違いがあるからだとすぐに気づかされます。つまり、「ブレーキが遅かった」とか「ライン取りを間違えた」となると、次の加速動作すらままならならないのです。
一方、ベストなブレーキング、ライン取り、ステアリング操作、そしてアクセル操作ができたならば、実に気持ちよくコーナーをクリアできる面白さを味わえます。実際、2周目に入る頃には、次のコーナーをいかにキレイに、スムーズに抜けられるか、まさに頭と体を使った挑戦に挑んでいたのでした。
そして、ドライビングのリズムやテンポをつかめると、なんと心地よいコース設計なのだろうと感心させられます。自然を生かした美しくダイナミックな景色にもすっかり魅了された「ドライビングエクスペリエンス」となったのでした。
スキーやスノーボードでは、アルペンやフリースタイルといったタイムやワザを争う競技がある一方、デモスキーやテクニカルと呼ばれるすべりの正確さや美しさを追求する競技も存在します。
PEC東京でのポルシェ体験は、まさに後者に通じる面白さを味わえます。クルマやドライビングに関する学びや気づきの楽しさが凝縮されており、公道では体験できないポルシェ本来のパフォーマンスに触れることができるのです。
●ランチやディナーだけでも楽しめるPEC東京
ここまで読んでも、「ポルシェの施設だけに敷居が高そう……」と考える人は少なくないでしょう。しかし、2023年には2万人ほどがPEC東京を訪れ、約5000人がドライビング体験を楽しんだと聞けば、訪問への不安も解消されるのではないでしょうか?
また、PEC東京にはコースに併設された建物に「The 956 Café」や「Restaurant 906」といった飲食スペースがあり、お茶や食事を目的に訪れる地元の方も多いとのこと。木更津産の食材を使った料理も味わえますから、家族や友人とランチやディナーに訪れるといった使い方もできそうです。
* * *
今回、各種プログラムを体験してみて、PEC東京は単なるドライビング体験施設ではないことに気づかされました。
例えば、手入れの行き届いたコースや施設を見れば、自然とクルマとの共生を重視していることが分かりますし、レストランの料理や素材ひとつを見ても、地域や社会との関わりを大切にしていることが理解できます。
つまりPEC東京は、ポルシェというブランドのフィロソフィーを表現し、広く開放することで、多くの人がその魅力に触れることのできる場所なのです。
そんなコンセプトを知れば知るほど、訪問へのハードルはグッと下がるはず。何よりPEC東京は、来場だけなら予約不要な上にメンバー登録などは不要。さらに、オフィシャルグッズショップやドライビングシミュレーター(要予約)など、今回体験できなかった施設も充実しています。
ポルシェ愛好家やクルマ好きなら、まずは気軽に訪れて“ポルシェ哲学”に触れてみてはいかがでしょう?
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