野心あふれるブランド:TVRの金字塔
開発で浮上した課題の2つ目が、販売されなくなったTVR T 400Rに代わる、仕様違いのモデル。そこで、T 550R「タイフーン」の名で、4.0Lのスピードシックス・ユニットにスーパーチャージャーを組み合わせた、1台のプロトタイプが作られた。
【画像】ナンバー付きGT1ル・マン・マシン T 400R ミレニアム前後のTVRたち 3代目グリフィス・プロトも 全126枚
トランスミッションは、6速シーケンシャル・マニュアル。AF04 BYZのナンバーで登録され、冷却能力は足りていなかったが、最高出力は600馬力へ迫ったようだ。
しかし、TVR自体の売却計画が進行し、開発は凍結。ニコライ・スモレンスキー氏による体制へ交代後に、2台のタイフーンが生産されているものの、エンジンは通常のタスカン S用が積まれた。トランスミッションも、従来の5速マニュアルだった。
スモレンスキーは、2013年までTVRを所有するが、まったく新しい量産モデルが提供されることはなかった。結果として、野心あふれるTVRの金字塔として、T 400RとT 440Rは重要な意味を持つことになった。
PN02 ZNGのナンバーを持つ今回のT 400Rは、GT1マシンのプロモーションに用いられた後、TVRを得意とするガレージ、レーシング・グリーン社が購入。2008年に、現オーナーのリチャード・ビリングス氏が入手している。
2014年に、彼はオリジナル状態へのリフレッシュを決意。TVRの第一人者として知られる、TVR101社へ運ばれた。モータースポーツで経験を積んだ、代表のスティーブン・ウッドロウ氏によって、愛情のこもった仕事が施されたことは明らかだ。
トップギアの試乗映像でインテリアを再現
開発図面の入手は難しく、作業ではインテリアの再現が大きな問題に。GT1レーサーのデモ車両として、バケットシートが固定され、内装は殆ど残っていなかった。サイドウインドウも、固定式のアクリル製へ交換されていた。
サイドガラスの再製造は、スペイン・バルセロナの業者を見つけ依頼。ドアの内張りは、現存するタイフーンのものをベースに、再現することが決まった。
だが、それ以外の内装を復刻した方法が面白い。「ユーチューブに掲載されていた、トップギアの試乗映像を繰り返し見て、当時の様子を想像したんですよ」。とウッドロウが微笑む。
エンジンは当初載っていた4.0Lではなく、販売されたT 440Rへ近づけるべく、リビルドされた4.4Lのスピードシックスへ置換。以前、TVRでエンジン部門にいたドム・トリケット氏によって、リビルドされている。
パワー特性は一般道へ向けて調整され、最高出力420ps/6000rpm、最大トルク53.1kg-m/6000rpmが引き出された。ちなみに、2002年のTVRは、446psと48.3kg-mを主張していた。
ボディは基本的に変更なし。2002年らしい、キャンディアップル・ルビー・パールへ再塗装されている。サスペンションは、ビルシュタイン社製のダンパーから、オーリンズ社製の車高調へ交換されたが、それ以外は基本的に維持された。
340km/h以上が疑問なほど親しみやすい
筆者がAUTOCARへ加わり、初めて乗ったTVRは、ピーター・ウィーラー氏時代のタスカンだった。ドアミラーの下に隠れたボタンを押して、ドアを開いた瞬間の印象は今でも忘れない。
インテリアのデザインは、息を呑むほど前衛的。レバー式のハンドブレーキと、3スポークのステアリングホイールが、不自然なほど普通に見える。ダッシュボードやセンターコンソールはレザーで包まれ、20年以上前の少量生産車として考えれば高品質だ。
メーターパネルには、デジタル・ディスプレイが組み込まれている。スクロールすることで、回転数やスピードなどの表示を切り替えられる。シートは小柄だが、クッションは肉厚。シフトアップ・ライトも備わる。
ダッシュボード上部にはオーディオデッキが収まり、センターコンソールの先にパワーウインドウのボタンがある。それ以外の殆どの車載機能は、チルトするステアリングホイールの奥へ並んでいる。アルミ製のペダルが、フロアヒンジで固定されている。
キーをひねると、あっけなく轟音が充満する。音圧に圧倒されそうだが、4.4L直列6気筒は扱いやすい。荒々しさはないといっていい。
クラッチペダルはかなり軽く、シフトレバーは機械的な手応えが気持ちいい。市街地の速度域でも、感心するほど運転しやすい。本当に340km/h以上出るのか、疑問に感じるほど親しみやすい。
異端児的TVRの有終の美を飾ったT 400R
1速のレシオはかなりロング。2速以降はしっかりクロスしている。動力性能の核心へ迫るには、充分な回転数まで引っ張る必要がある。粘り強く回り、中回転域からたくましく速度を上昇させていく。
ストロークの長いアクセルペダルを踏み込むと、豪快なストレート6サウンドが放たれる。大排気量ユニットならではの、ドライで生々しい響きが、カーボンファイバー製ボディに共鳴する。
このT 400Rは、ル・マン24時間レースを前提としたGT1マシンのコピー。通常のタスカンと比較して、あえてステアリングの反応は若干鈍く調整されている。ミュルザンヌ・ストレートを300km/h以上で疾走する場面なら、歓迎されるはず。
グレートブリテン島の傷んだ路面で海岸を目指すと、ボールジョイントのサスペンションは、時々痛烈な衝撃を届ける。車内には、痛々しいノイズが反響する。
タイヤはトーヨー・プロクセス。通常のドライバーなら戸惑うほどグリップ力が高い。見通しの良いストレートでは、甚大なトラクションを確かめられる。
ナンバープレートを付けたル・マン・レーサーといえる、市販されなかったT 400Rと、2台限りのT 440R。理解するほど、魅了される。ウィーラー時代の異端児的TVRとして、有終の美を飾ることになったが、これ以上の偉業は作りようがなかっただろう。
協力:TVR101社、スティーブン・ウッドロウ氏
TVR T 440R(2002~2003年/英国仕様)のスペック
英国価格:7万4995ポンド(新車時)/24万ポンド(約4608万円/現在)以下
生産数:4台(プロトタイプ含む)
全長:4404mm
全幅:1850mm
全高:1200mm
最高速度:346km/h
0-80km/h加速:3.8秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1050kg
パワートレイン:直列6気筒4397cc 自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:420ps/6000rpm
最大トルク:53.1kg-m/6000rpm
トランスミッション:5速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
だからTVRなんだ。
リチャード・ハモンド
ジェームズ・メイ