クラシック・モデルの整備やレストアなどを手掛ける「ヤナセ クラシックカー センター」で披露されたメルセデス・ベンツ「190SL」に迫る! 約3年にわたる徹底したレストアによって、完成したクラシック・メルセデスはいかに?
レストアの苦労
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オーナーとの打ち合わせと準備に1年、パーツが届いて実際に作業をはじめてから、およそ2年かかった。さぞや楽しかったのでは?
と、深田さんに水を向けると、「う~ん。どうでしょうか」と、小声で意外な答えが返ってきた。「やはり、作業していると、オリジナルにこだわってしまうじゃないですか」
【前編はこちら】
ちょうどそのとき、リアのトランクの内部を撮影していたので、深田さんはフロアの赤いカーペットを見ながらこう続けた。
「このシートも本国に頼んだのですが、全部1枚もので、本来はフロアにその1枚ものを貼り付けるんですが、燃料タンクのサービス・ホールがここにあるんですよ。せっかくサービス・ホールがあるのに、おかしいじゃないですか。だから、わざわざカットしてつくり直して。勝手にこだわって、こだわっていると、だんだん難しくなってきて……」
燃料タンクなんて滅多に作業することはないから、シートを貼っても問題ない。もしも、作業することになったら、はがせばよい。でも、貼り付けないほうが整備は当然しやすいはずだ。ドイツと日本のモノづくりの、ともいえるし、設計者とレストア担当者という立場による考え方のちがいともいえるだろう。
いずれにしても、そのちがいに直面した深田さんとしては、納得のいかないものはつくりたくない。さりとて、オリジナルは尊重したい。できあがったモノを拝見すると、まるでオリジナルみたいで、しかもオリジナルより、いざというときの整備がしやすいのだから、この深田方式は、ドイツはともかく、アメリカでは受け入れられるのではあるまいか。
人気を博した190SL
修復が完了したこの190SLに対して、さる12月9日、テュフ ラインランド ジャパンから「レストア車両適合証明書」が発行されたことが発表された。これは、テュフの「クラシックカー ガレージ認証」を受けた工場でレストアされた車両を対象に、レストア作業のレポートを審査し、基準に適合したことを証明するものだ。国産車ではマツダがNAロードスターレストアサービスですでに何台ももらってオーナーに渡しているけれど、輸入車としてはこの190SLが初めての個体になった。
190SLは1954年秋に発表され、1963年まで生産されたエレガントなスポーツカーで、当時の世界最速の1台であるスーパー・スポーツ、300SL“ガルウィング”のオープンといった趣きのデザインをまとっていた。2400mmのホイールベースは同一で、サイズも似ていた。ただし、中身はまったく別物で、300SLがレーシングカーさながらのチューブラー・スペース・フレームだったのに対して、190SLはセダンの180、愛称「ポントン」のフレーム/フロア・ユニットを250mm縮めたものだった。300SLはスゴすぎることもあり、数の上では、より多くのひとに愛された。
新設計のエンジンはメルセデスの4気筒初のSOHCで、排気量1897cc、44mm径のダブルチョーク・ソレックスのキャブレターを2基備えて、最高出力105ps/7500rpm、最大トルク14.5kgm/3200rpmを発揮した。1160kgの車重は、前後フードとドアにアルミを採用した軽量化の賜物だ。0―100km/h加速は14.5秒、最高速171km/hを主張し、当時としては高い性能をもっていた。
1956年から3998ドルでアメリカ市場でも販売されている。初代シボレー・コルベットが1953年の発売されたときの価格の3490ドルよりは高かったけれど、1957年に登場した300SLロードスターの半値以下で、エレガントでスポーティな2シーターのGTカーが手に入るということで人気を博し、8年間で2万5881台がつくられた。
ヤナセの真摯な取り組み
片岡部長によれば、その190SLもいまや数千万円の価格にまで上昇している。レストア費用は数千万円。それでも、「今回は、私たちにとって初めてのフルレストアだったので、多くのことが勉強になりました。例えば、見えないところで不適切な部品が見つかったり、試運転で想定外の不具合が発生したり、思い通り進まないこともありました」。
マツダのNAロードスターレストアサービスだって、マツダ自身がやっているのに、エンジンを含めたフルレストアで500万円以上かかる。クラシックカーのレストアというのは根気のいる職人仕事で、事業としてやっていくだけの利益をあげるのはシビアなのだろう。
この個体のエンジンだって、オイル漏れがあったため、全部バラして、悪いところは交換し、組みあげている。燃料ポンプは、オリジナルのメカニカルから電磁式に交換している。
「その作業が保安基準に適合しているか、その都度、陸運局へ確認に行っています。オリジナルにどこまでこだわるか、実際に乗って楽しむのにどこまでやればいいか、この要素をいかにバランスさせるか、が課題です」
と、作業の苦労を語るのは、エンジンほか機械部品を担当したメカニックの大平英一さんだ。
ヤナセ(のグループ会社)のような創業100年以上の名門企業が、テュフの認証を取得して、クラシックカーのレストアに取り組んでいるのも、「クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている。」という自社のコーポレートスローガンに忠実でありたいからにちがいない。
ヤナセ クラシックカー センターにとって、今回のようなフルレストアはこの190SLが第1号になる。コロナ禍になってから急に問い合わせ件数が増えているそうで、片岡部長は次のように語った。
「いままで海外旅行をされていた方たちが、海外に行けなくなって、このようなクラシックカーが興味対象となり、なんとか国内で楽しもうということで、ブームになっていると聞きます」
板金・塗装、エンジンやトランスミッションの修理部門も見学させてもらった。
板金工場はアルミ・ボディにも対応しており、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンなどのスーパーカーも入庫されていた。
建物の表に駐めてあるクルマのなかに、1993年の190Eも1台あった。紺色で、走行距離は6万8000km。価格は、きれいに直して400万円だそうで、「ちょっと、古い、クルマ」が安心して乗って楽しめるのなら、魅力的だ。
ヤナセ クラシックカー センターの可能性は無限だ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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