1975年から1996年まで生産されていたジャガーの2ドア・クーペ「XJ-S」は、現在、中古車市場で100万円台から取引されている。はたして、今、XJ-Sに乗るのはアリか!? 元オウナーの武田公実が考えた。
この夏、千葉・幕張メッセで開催された「オートモビルカウンシル2020」を訪ねたとき、ふと会場で見かけた1994年型のジャガー「XJ-S4.0クーペ」に掲げられたプライスボードを、筆者はまじまじと見入ってしまった。
トレードショーへの出品に向けて、ちゃんと磨き上げられていたその個体は、エクステリア/インテリアともに素晴らしいコンディション。エンジンルーム内こそ四半世紀分の使用感を見受けられたものの、ショップの担当者氏曰く機関部にもメンテナンスが施され、すべての機能が問題なく作動するという。
にもかかわらず、このXJ-Sには“168万円”という、驚くほどにリーズナブルな価格が設定されていたのだ。
21年間も生産されたロングセラーモデル
ジャガーXJ-Sについてまずは説明したい。歴史的名作になった「Eタイプ」の後継モデルとして、1975年9月に誕生したのがXJ-Sである。ただ、Eタイプが純然たるスポーツカーであったのに対し、新生XJ-Sはメルセデス・ベンツの「450SLC」やBMW「6シリーズ」などとおなじカテゴリーに属する高級な4座席グランドツアラーとして開発された。
ベースになったのは1968年誕生の初代「XJサルーン」。ホイールベースを2590mmに切り詰めたフロアユニットに、Eタイプとおなじくマルコム・セイヤーの原案による空力的クーペボディが組み合わされた。登場当初に搭載されたエンジンは、Eタイプ・シリーズ3やXJ12とおなじ、5343ccのV型12気筒エンジンだった。
その後1983年には、新設計の3.6リッターの直列6気筒24バルブユニットを積んだベーシックモデルが追加されるとともに、ドイツ・カルマン社との協業によって、タルガ式トップにリア側のみ折りたたみ可能なソフトトップを組み合わせたカブリオレも設定された。
デビュー当初こそ信頼性に慢性的な問題を抱え、スタイリングについても不評が囁かれたXJ-Sだったものの、ジャガー首脳陣と技術陣の努力で信頼性を回復すると次第に評価は高まり、その美しさまで認められてゆく。
さらに1988年にはカブリオレに代わってフルオープンのコンヴァーティブルが追加されると、北米マーケットを中心に遅咲きのヒットとなった。
1991年末には大規模なマイナーチェンジを実施し、独特な三角形のテールランプをコンベンショナルな横長のものへと変更。車名も、XJ-Sからハイフンを省いたXJSへ改称された。このマイナーチェンジのとき、6気筒版のAJ6ユニットは、既にXJ6(XJ40系)に搭載されていた4.0リッター版へと拡大。4速ATが組み合わせられた。
その後も、前後バンパーを樹脂製に変更するなどといったフェイスリフトを受けながら、1996年まで生産された。実に21年間の長きにわたって販売された超ロングセラーモデルになったのだ。
現状ではまだリーズナブル、でも気構えも必要か
歴史的評価のわりには、少々不当にも思えるほどにマーケット評価の低かったXJ-S/XJSであるものの、Eタイプに代表される2ドアだ。ジャガーの価格高騰に引っ張られるかたちで、ここ5~6年でジリジリと上昇傾向にあるようだ。
マーケットでもっとも人気のあるのは12気筒のコンヴァーティブルだ。しかも三角形(おむすび型)のテールランプを持つモデルならば、イギリスでは3万ポンド超え、日本国内でも500万円超えの個体がしばしば散見される。とはいえ、今回見かけたXJS4.0クーペのような100万円台の個体もあるから、依然としてリーズナブルな個体もあるのだ。
とはいえ、かつて1992年型XJS4.0クーペを生活のアシとして愛用していた筆者は、当時、ちょっとばかり“痛い目”も見た。ゆえに、“誰にでもおススメ”という無責任なことをいうつもりはない。
やはり気になるのは信頼性だろう。この要素については、6気筒モデルがV12モデルよりも幾ばくかながら信頼性は高いと思われる。おなじく筆者の元愛車である1988年型デイムラー「ダブルシックス」で悩まされたV型12気筒エンジン由来の熱問題についても、6気筒モデルでは一定の改善が認められる。
でも、こと日本国内における6気筒モデルは正規輸入された期間が短いため、現在のパーツ供給状況という点では、V12モデルに軍配が上がるようだ。
一方、今や日本国内で実用に供するには必須の装備となったエアコンディショナーについては、筆者のXJSクーペを含めてコンピューターなどにトラブルが発生する事例も少なくないようだ。とはいえ、すべてが万全に機能していれば、たとえ真夏であってもオーバーヒートを誘発するようなことはなく、充分に日常使いに耐えうる。
ジャガーXJ-S/XJSは、6気筒であっても12気筒であっても生粋のジャガー。もしも良い個体に出会えたならば、そしてメンテナンスを欠かさなければ、極上のジャガー体験を味わえることは元オウナーである筆者が太鼓判を押しても良い。
ただし、旧いクルマに乗るための心構えを頭の片隅に残しておくこと。そして、預金口座に一定の修理費用を残しておくことも、同時にお勧めせねばなるまい。
それでも、ジャガーXJ-Sのユーズドカー相場を常にネット検索するという筆者の習慣は、おそらくこの先も変わらないであろう。
文・武田公実
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みんなのコメント
これを、「安い!」って、本当に自動車記者か?
XJ−S、現役当時からその信頼性の低さと、極悪の燃費はあまりにも有名。
それでも、スタイリングはエレガントだし、新車時には、そこそこのステータスはあった。
それから25年。
この古さではまだ、クラシックカーとは言えず、当時を知る者からすれば、単なる25年落ちの、今さらやっと買えましたかねのボロボロ中古車。
低信頼と極悪燃費はそのままの、「タダでも要らないクルマ」。
もっとも、あと15年頑張って維持したら、コレクターのクラシックカーとして価値でてくるかもね。
知らんけど。