人に愛される車づくりとは
ホンダは古くから「マンマキシマム・メカミニマム思想」を社是のようにして、人に愛されるくるまを作り続けてきました。
【画像】「えっ…!」これがバブル期に誕生したスタイリッシュセダン ホンダ「ビガー」です(10枚)
”人間の空間は広く、機械は小さく”
ホンダのクルマは比較的コンパクトでありながら、居住空間がことさら広く感じるのは、この思想が貫かれていたからでしょう。
そのため、駆動方式はFF(フロントエンジン+フロントドライブ)にこだわり続けてきました。クルマの中で最大の重量物であるエンジンを前方の隅に配置することは、室内空間を確保するのに都合がいいからです。
エンジンが発する出力を後輪に導くには、プロペラシャフトを通すためにフロアトンネルを持ち上げる必要がありますが、FF駆動であれば床の盛り上がりは、マフラーや配線系を通すだけですから最小限に抑えられます。それにより、後席の足元に余裕が生まれるのです。
NSXやS2000のようなスポーツカーは例外ですが、コンパクトモデルから高級セダンまで、FF駆動方式が基本とされてきたのはそれが理由です。現代の4WDモデルもFF駆動方式の派生系になります。
ただし、FF駆動にはデメリットもあります。高級な走り味を生み出しづらいのです。
けして軽くないエンジンを前方の隅に追いやった結果、前後重量配分が悪化します。操縦性の悪化を招きます。
エンジンを横置きにするということは、エンジンの長さを制限することにもなります。直列6気筒やV型8気筒のような高級車に相応しいエンジンを積むのに、横置きではスペースが不足します。ボディの横幅を越えるわけにはいかないからです。
結果的に、直列エンジンであれば、4気筒以下の幅の狭いエンジに限られます。V型6気筒エンジンがまだポピュラーではない時代でした。コントパクトモデルならば割り切れるとはいえ、上質なドライビングフィールが期待される高級車にとっては、やや致命的なシステムでもあるのです。
そのストレスから解放するために、ホンダは特殊なシステムを開発しました。ホンダ最大の高級セダン「ビガー」のために、直列5気筒エンジンを開発したのです。そしてその直列5気筒エンジンを縦に積んだのです。
となればFR駆動とするのが常識ですが、ビガーはFFのままです。
常識を覆したホンダの技術陣
ホンダ技術陣は知恵を絞ります。直列5気筒エンジンを縦積みにするのではあれば、動力をそのままプロペラシャフトで後輪に導くのが自然ですが、マンマキシマム・メカミニマム思想を貫くためには、FF駆動方式にこだわりたい。
ただそれでは、フロントタイヤを前輪に導くドライブシャフトがエンジンと干渉してしまう。奇策に挑みました。エンジンのフロアパンに穴を開けてドライブシャフトを貫通させたのです。それであれば、エンジンを低く搭載したままFF駆動が成立するというわけです。
いやはや、驚くほど突飛なアイデアであり、感心するほど高度な技術力がなければ成立させることはできなかったでしょう。1992年のことです。
それでも残念ながら、ビガーは商業的には成功しませんでした。ライバルであるトヨタ・マークII三兄弟や日産スカイライン/ローレルなどの牙城を崩せなかったのです。それをマンマキシマム・メカミニマム思想へのこだわりが邪魔をしたとするのは酷ですが、もっとシンブルにFR駆動にしていれば、あるいは成功していたかもしれません。
現在ホンダは高級車をラインナップしていないのは、ビガーの不成功が亡霊のように立ちふさがっているように思えてなりません。
ともあれ、直列5気筒エンジンを縦積みしてシャフトを貫通させたことで、ホンダの熱い開発魂と技術力を誇示することには成功したと思います。
直列5気筒ビガーの誕生は1992年です。バブル経済があったから誕生した、まさに泡のように消えた幻の高級車とも言えそうですね。
ホンダの意地と技術を証明するモデルとして歴史に刻まれています。
◾️ホンダ「VIGOR 25S」
<エンジン>形式:G25A種類:水冷直列5気筒縦置使用燃料:無鉛プレミアムガソリン総排気量(cc):2451圧縮比:8.3最高出力(ps/rpm):190/6500最大トルク(kgm/rpm):24.2/3800燃料供給装置:電子燃料噴射式(ホンダPGM-FI)燃料タンク容量(リットル):65<寸法・定員>全長(mm):4830全幅(mm):1775全高(mm):1375ホイールベース(mm):2805乗車定員(名):5
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みんなのコメント
1992年は2.5Lが出た年です。
ビガーはそこそこでしたが、姉妹車のアコードインスパイアは、かなり売れたと思います。
本文の説明よりも、インスパイアの影に隠れた感があったからな。アコードに対するトルネオみたいな印象だったけど。