現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第3回】マラネッロの改革

ここから本文です

フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第3回】マラネッロの改革

掲載 4
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第3回】マラネッロの改革

立ちはだかる難問

text:Shinichi Ekko(越湖信一)

モンテゼモーロ、フェラーリを去る

photo: Ferrari S.p.A.、Pininfarina、Kazuhide Ueno(上野和秀)エンツォ亡きあとCEOに任命されたフザーロの懸命な努力も、残念なことにカタチにならなかった。F1においてはプロストをめぐる内紛や、マシン開発の遅れなどから混乱が続いていた。ロードカー部門においても、利益確立体質への回帰を遂げることができていなかった。とてつもない難問が彼の目の前に立ちふさがっていた。

フェラーリにおいて重要な課題とは、複雑な組織と人間関係が入り乱れる巨大組織であるフィアットといかに折り合いをつけるかということだ。アニエッリ家の庇護の元に送り込まれたモンテゼーモロに対する期待は大きかった。

しかし、モンテゼーモロにとってフィアット内部に敵が多かったのも事実。フィアットのトップであった「策士」チェーザレ・ロミティとの軋轢に、彼はその後も悩まされることになる。

ロードカー部門の改革において何より重要なのは、魅力的なモデルの開発と製品クオリティの向上であった。場当たり的な商品企画の弊害で、V12搭載のフラッグシップであるテスタロッサ、12気筒2+2の412、そしてモンディアル、どれもが旧態依然としたモデルとなっていた。そして量販モデルであるV8ミッドシップの348系も新たに採用したモノコックモディの導入が吉と出ず、マーケットにおける評価は微妙なところであった。

エンツォ・フェラーリの密約

モンテゼーモロがまず取り組んだのが、ピニンファリーナとの関係性の整理だ。少し長くなるが、フェラーリのスタイリング開発や、ボディ製造に関するそれまでの状況を説明しておこう。

当時のフェラーリは自前のデザインスタジオを持たず、トリノにあるピニンファリーナのデザインセンターがその役割を果たしていた。エンツォ・フェラーリとピニンファリーナのトップであったセルジオ・ピニンファリーナの「密約」によって、フェラーリのスタイリング開発はピニンファリーナが独占した。一方、ピニンファリーナもフェラーリの競合メーカーとはビジネスを行わないという協定であった。

このコラボレーションは当初より、よい結果を生み出すことができた。ピニンファリーナのエレガントなスタイリングは「Made in Italy」の象徴として主力マーケットである北米で大いにウケたし、フェラーリの重要なスタイリングDNAとなった。もちろん、デザインスタジオを持たずに済ますことができるということは、少量生産メーカーとして効率的であったことはいうまでもない。

一方、ピニンファリーナにとっても営業することなしに、自動的にフェラーリの開発案件が全て流れてくるというのは魅力だ。さらに大きいのはフェラーリをデザインすることのできる唯一のデザインスタジオという優位性を獲得したということだ。ピニンファリーナはこの素晴らしい宣伝ツールのおかげで、世界中の自動車メーカーからスタイリング開発の仕事を多数受注することができたのだ。

1950年代半ばまで、フェラーリはエンジンや主要パーツを組みつけたランニングシャシーを製作するだけだった。そのシャシーをトリノのピニンファリーナへ送り、ボディやインテリアなどを組付け1台のクルマとして完成させた。しかし次第にシャシーとボディは一体として開発を進めなければならなくなり、製造工程もより複雑なものに変化していった。

ピニンファリーナの変化

ピニンファリーナからは単にスタイリングだけではなく、エンジニアリング的要件や、ひいてはニューモデルに関わるコンセプトなどを提案するように変化してきた。たとえばF355のローンチではセルジオ・ピニンファリーナが自ら壇上にあがり「私達は第5の面をデザインしました」とぶち上げた。4面に加えて床面を「第5の面」と表現し、アンダーフロアの空力を制御し、十分なダウンフォースを確保した点をF355の「テクニカルポイント」としたのだ。

そしてある時はピニンファリーナがフェラーリにニューモデル全体の提案を行い、それがモーターショーでコンセプトモデルとして発表されるような時代ともなってきた。ピニンファリーナ創立50周年を記念してフェラーリへ商品化を提案したのが4ドアモデル、ピニンであった。コンセプトモデルだけで終わってしまったが、企画自体がピニンファリーナからフェラーリへの提案であった。

高まる両者の軋轢

しかし時を経るに従って、このコラボレーションにも不協和音が生ずるようになってきた。フェラーリにもしっかりとした開発部門が整備されてきたし、かつてはコンペティション・モデルのボディだけを作っていたスカリエッティはフェラーリ傘下となり、348系ではロボットによる自動溶接マシンまでが導入されるようになった。一方、ピニンファリーナはスタイリング開発をもちろん独占したいし、ボディ製造の受注も減らしたくない。そんな中で両者の軋轢は高まっていった。

注:当時、8気筒系のボディ製造はフェラーリ自ら(傘下のスカリエッティ)行っていた。テスタロッサなどの12気筒系はピニンファリーナにてボディ製造がおこなわれていたが、それも少しずつフィアット系のボディ製造部門へと移行しつつあった。

モンテゼーモロの決断

それならピニンファリーナとの縁を切って全て内製化すればいいではないか? しかしそれは簡単ではなかった。優秀なデザイナーがピニンファリーナに集結していたのも事実であるし、セルジオ・ピニンファリーナはフェラーリの株主であり取締役でもあった。そう、エンツォの時代から続く様々なしがらみがそこにあったのだ。

モンテゼーモロはこの関係にメスを入れることを決意した。商品企画をヘッドクオーターにおける最重要事項として、自らの手中に置いた。幸いフィアットのマネージメントを行ってきた中で、イタルデザイン率いるジョルジェット・ジウジアーロと彼は深い関係にあったし、彼の才能も高く買っていた。だからピニンファリーナ一本でなく、積極的に外部の才能へと声を掛けてコンペを行った。

製造コストの点でも、社内組織であるスカリエッティでボディを作った方が有利なことは目に見えている。フェラーリのエンジニアのトップであるフェリーザを従え、モンテゼーモロは改革に乗り出していった。

続きは2024年5月4日(土)公開予定の「【第4回】ピニンファリーナのコントロール」にて。

こんな記事も読まれています

フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」
AUTOCAR JAPAN
どれも「同じ」に見えるマクラーレン 新デザインで個性強化へ 次世代スーパーカーの姿は
どれも「同じ」に見えるマクラーレン 新デザインで個性強化へ 次世代スーパーカーの姿は
AUTOCAR JAPAN
世界中で物議を醸した自動車デザイン 20選 今見ると「カッコいい」?
世界中で物議を醸した自動車デザイン 20選 今見ると「カッコいい」?
AUTOCAR JAPAN
スカイラインGT-Rで成功した男(1) カーマニアと日産との出会い いしずえ築いたR32型
スカイラインGT-Rで成功した男(1) カーマニアと日産との出会い いしずえ築いたR32型
AUTOCAR JAPAN
ジープ・アヴェンジャー 詳細データテスト 低重心ゆえの良好な操縦性 日常的な乗り心地には注文あり
ジープ・アヴェンジャー 詳細データテスト 低重心ゆえの良好な操縦性 日常的な乗り心地には注文あり
AUTOCAR JAPAN
世界に1台 超高級車ブランド「オーダーメイド」に注力 ロールス・ロイス本社工場拡張へ
世界に1台 超高級車ブランド「オーダーメイド」に注力 ロールス・ロイス本社工場拡張へ
AUTOCAR JAPAN
1900馬力のピニンファリーナ「バッティスタ」と10台限定の「B95」が日本上陸! イタリア大使館でお披露目された超弩級ハイパーカーとは
1900馬力のピニンファリーナ「バッティスタ」と10台限定の「B95」が日本上陸! イタリア大使館でお披露目された超弩級ハイパーカーとは
Auto Messe Web
【ベンテイガに次ぐ稼ぎ頭】 ベントレー新型コンチネンタルGTを予告 第四世代はハイブリッドへ
【ベンテイガに次ぐ稼ぎ頭】 ベントレー新型コンチネンタルGTを予告 第四世代はハイブリッドへ
AUTOCAR JAPAN
カッコカワイイ「高級オープンカー」公開! 英伊合作の新型バルケッタ 50台限定生産
カッコカワイイ「高級オープンカー」公開! 英伊合作の新型バルケッタ 50台限定生産
AUTOCAR JAPAN
「カウンタック」はいかにフェラーリに対抗すべく進化したのか? 排気量アップした「LP5000 QV」はいまや7600万円と価格高騰中です
「カウンタック」はいかにフェラーリに対抗すべく進化したのか? 排気量アップした「LP5000 QV」はいまや7600万円と価格高騰中です
Auto Messe Web
MスペックのMはミドルハースト? スカイラインGT-Rで成功した男(2) レザーシートはロールス・ロイス製
MスペックのMはミドルハースト? スカイラインGT-Rで成功した男(2) レザーシートはロールス・ロイス製
AUTOCAR JAPAN
「主人公」のような高揚感 フォード・マスタング 289  中毒性あるV8の加速! 誕生60年をルート66で祝福(1)
「主人公」のような高揚感 フォード・マスタング 289  中毒性あるV8の加速! 誕生60年をルート66で祝福(1)
AUTOCAR JAPAN
フェラーリSF90 XX スパイダーへ試乗 胸が打たれるほど「公道」で素敵 HVの総合1030馬力!
フェラーリSF90 XX スパイダーへ試乗 胸が打たれるほど「公道」で素敵 HVの総合1030馬力!
AUTOCAR JAPAN
【本田宗一郎DNAは息づいている】 型破りで破天荒なホンダの目標 EV化の裏には現実的な考えが
【本田宗一郎DNAは息づいている】 型破りで破天荒なホンダの目標 EV化の裏には現実的な考えが
AUTOCAR JAPAN
英アストン マーティン 新型 "スーパー4WD" 導入検討中 高級V8オフローダー登場か
英アストン マーティン 新型 "スーパー4WD" 導入検討中 高級V8オフローダー登場か
AUTOCAR JAPAN
最高峰の「エンターテイナー」 アストン マーティン・ヴァンテージへ試乗 大アップデートで665psへ
最高峰の「エンターテイナー」 アストン マーティン・ヴァンテージへ試乗 大アップデートで665psへ
AUTOCAR JAPAN
249km/hに耐えるソフトトップ メルセデス・ベンツCLE 450 カブリオレへ試乗 美しい海岸線を味わいたい
249km/hに耐えるソフトトップ メルセデス・ベンツCLE 450 カブリオレへ試乗 美しい海岸線を味わいたい
AUTOCAR JAPAN
悪路のスーパーヒーロー ジープ・ラングラーへ試乗 ロックレールで側面衝突に対応 12.3型モニター獲得
悪路のスーパーヒーロー ジープ・ラングラーへ試乗 ロックレールで側面衝突に対応 12.3型モニター獲得
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

4件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1555.01610.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1198.03000.0万円

中古車を検索
F355の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1555.01610.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1198.03000.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村