路線バス離れの原因
路線バスドライバーが不足して久しい。モータリゼーションが進み、マイカー化が進むなか、路線バス離れも歯止めがかからない。
【画像】えっ…! これがバスドライバーの「年収」です(計12枚)
高齢者が増える一方で少子化が進み、路線バスは通学に期待できない。新型コロナによって在宅勤務が一般化した業界もあり、定期券収入の大幅減はバス業界にとって痛手だ。
特にDX関連業界では、会社に出勤すること自体を“出張”と見なして、自宅で仕事をすることが珍しくなくなっている。つまり、何らかの事情でオフィスに出勤した場合、往復分の交通費のみを支給する企業が多くなっているのだ。
在宅勤務を推進することで、企業はオフィスの賃料や維持費、光熱費を削減できる。もちろん、労働者の通勤費も削減でき、朝の通勤、夕方の帰社は過去のものとなりつつある。
路線バス業界における成果
こうしたなか、国土交通省の「2022年版交通政策白書」によると、2020年度には99.6%もの乗り合いバス事業者が赤字になっている。こうした多くの事業者の経営難を前に、有識者からは、
「とにかく、心身ともに大きな拘束を受けているバスドライバーの給料を上げるべきだ」
という声がよく聞かれる。筆者(西山敏樹、都市工学者)も当媒体や多くのテレビ番組、新聞出演で、交通税などの財源に触れて、バスドライバーの給料を上げるべきだといい続けてきた。
多くの有識者は、財源や既存予算の代替案について言及することなく、バスドライバーの給料を引き上げるべきだと主張しており、多くの生活者がこの点だけに注目して支持的なコメントを出していることも気になる。
実際、広島バス(広島市)のように基本給を引き上げた会社もあれば、富山地方鉄道(富山市)のように4月末までに採用するバスドライバーの支度金を30万円から100万円に引き上げ始めた会社もある。
また、千葉県市原市のように、同地域の新規採用バスドライバーに10万円を支給する自治体も出てきた。市原市はドライバー30人分の予算を組み、3年間働き続ければさらに20万円を支給すると発表している。
バスドライバー確保の新たな展望
有識者たちは「とにかく給料を上げるべきだ」といい続けてきた結果、それが前述のような社会的変化をもたらしたことは確かであり、大きな成果だ。功罪の「功」である。
しかし、多くのバス事業者や地方自治体が財源確保に苦慮している現実は変わらない。バスドライバー不足問題で社会に出てくる有識者のなかで、
・零細路線における3ナンバーおよび5ナンバー車両の有効活用策
・SDGs時代を見据え、自動性が高く操作性に優れた電動バスを導入することで、ユニバーサルデザインとエコデザインを同時に実現するとともに、ベテランドライバーの雇用を大幅に拡大し、新たなパートタイムドライバーを確保する策
など、車両の工夫によってドライバーを確保するという策には誰も触れていない。
また、バリアフリー運賃を援用し、交通税でバスドライバーを確保する策を提案する有識者もまずいない。さらに、
・移動の権利
・基本的人権の平等
など、公平な移動を確保することを社会の常識とする策も、法律の専門家以外には見当たらない。都市交通を考える上で基本中の基本である人口動態に基づいた議論もほとんどない。2024年問題は、
・経済
・法律
・人口論
・車両技術
・地域計画
を横串しにして、科学横断型に検討されなければならない。単一の専門分野に基づいた議論では、
「木を見て森を見ず」
で終わってしまうだろう。功罪の「罪」である。
財源確保の多彩な提案
財源確保、予算の付け替え、あるいはその代替案など、いろいろなアイデアがある。これまでも当媒体で書いてきたように、
・営業所を貸し出す策
・貨客混載
・買い物バス
など、資金を確保するためのアイデアはたくさんある。つまり、2024年問題を考える際には、「木を見て森も見る」が肝要なのである。
もちろん、バスドライバーの給料引き上げの必要性は十分承知している。問題は、そのための財源確保の考え方である。この点に言及しない限り、現実的な解決策は出てこない。
交通はシステムである以上、システム思考の基本である「木を見て森も見る」が必要であり、物事をシステムとして捉えることが重要である。
2024年問題を解決するためには、単一の視点ではなく、幅広い分野を俯瞰(ふかん)し、「何をすべきか」という多角的なアプローチが求められるのだ。
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みんなのコメント
この先、誰がわざわざ大型2種まで取って謎の無過失責任を請け負うって言うの?
残業・休日出勤無しで最低年収750万円。
このラインがクリア出来なければ乗務員は集まらないし離職の一途。
まあそれが無理なら、今60前後の人たちがシルバーパスを貰う頃にはいくら待ってもバスは来ないと思って置いた方がよいすね。
会社側の理屈でしか考えられないから、肝心の労働者側が希望することを見落としている。
正に「木を見て森を見ず」どころか「木を見ていない」なのです。