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優勝逃したギヤボックストラブル、ブレーキと燃料消費の関係/MotoGPの御意見番に聞くポルトガルGP

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優勝逃したギヤボックストラブル、ブレーキと燃料消費の関係/MotoGPの御意見番に聞くポルトガルGP

 3月22~24日、2024年MotoGP第2戦ポルトガルGPが行われました。スプリントではマーベリック・ビニャーレス、決勝ではホルヘ・マルティンが優勝してペドロ・アコスタが初表彰台を獲得しました。

 決勝でもビニャーレスが優勝する勢いがありましたがギヤボックストラブルで離脱、ほかにフランセスコ・バニャイアとマルク・マルケスの接触転倒などのドラマもありレースから技術面まで多くの話題がありました。

新人離れしたアコスタ、3位表彰台のパフォーマンスと隠れた「野心」/第2戦ポルトガルGP決勝

 そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第27回目となります。

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

--昨年はこのポルトガルGPが開幕戦でしたが、バニャイア選手がスプリント・決勝レースともに制してチャンピオンとして順調な滑り出しだった一方で、今回同様にマルク・マルケス選手がらみのアクシデントがありましたね、憶えていますか?

 本格復帰の昨年はスプリントで3位入賞したので、その勢いで決勝レースも序盤からアグレッシブに攻めた結果、マルティン選手と絡んでクラッシュしていたね。今回はマシンも違うし、レース終盤でのアクシデントだから状況が違うんだけど、スプリント2位と好調だったのもあって、なんだか“デジャヴ”って感じがしたよ。

--今回はいわゆる“レーシングインシデント”ということで、双方にペナルティなしという裁定だったようですが……

 たぶん、どちらも納得していないと思うけどね(笑)

 どちらも相手の動きが予測できていなかったので、結果的に走行ラインが交錯してしまったという、まさに“インシデント”だけど、バニャイア選手としては「抜かれたら抜き返す」というライダーの本能が発動してしまったんだね。あそこで少し冷静になればアクシデントは避けられたかもしれないけれど、マルケス選手が指摘していたように彼のタイヤが尽きかけていたので、次に抜き返すチャンスはないと判断したかもしれない。

 ラインが交錯した理由として、バニャイア選手が言っていたデスモセディチGP23とGP24のコーナリング特性の違いもあるのかもしれないね。タイトなターンで素早い加速が武器のGP23に対してコーナリングスピードが武器のGP24みたいな……

 いずれにせよ遺恨を残さないようにして欲しいものだね、場外乱闘は見苦しいし。

--結果的にKTM(GASGAS)が3、4、5位という好結果になった訳ですが、開幕戦でもブラッド・ビンダー選手が2-2と大活躍で、今回はルーキーのアコスタ選手が2戦目にして早くも表彰台獲得と今シーズンのKTMは勢いがありますね。

 昨シーズンの滑り出しと比較すると格段に進歩している感じがあるね。開発が順調に実を結んでいるというところかな。エンジンのパワーに関してはドゥカティと遜色ないレベルに来ているようだし、空力面でも細かいところまで攻めているみたいだし。

 中には実際に効果があるのか、ライバルに対する心理的効果を狙ったものなのか良く分からないアイテムもあるけどね。しかし若者は元気が良くて見ていて楽しいね、ファクトリーのオジさんふたりにもいい刺激になるんじゃないかな。

--そういえば、ジャック・ミラー選手が金曜日に20メートル以上の大きなジャンプをしていましたが、あのようなケースで空力パーツが悪さをする心配は無いんですか?

 四輪の場合、特にグランドエフェクトを利用している場合はかなり危険だね。最悪マシンが浮き上がった拍子に後ろに反転してクラッシュした例もあるよ。二輪の場合のグランドエフェクト効果は直立状態では無視できるから、心配ないみたいだね。

 事実、空中でバランスが崩れる感じも無く美しいフォームでジャンプしていたし。あれはミラー選手のファンサービスということじゃないかな(笑)

--つまり速く走るためにはジャンプする意味はないという事ですか?

 ジャンプしている間は駆動力がゼロだし、着地した際のマシンの挙動が収まらないと次のアクションが出来ないから、結果的には少しスロットルを戻して路面をトレースした方が速いという事だね。もっともマン島のバラフブリッジみたいに、全員ジャンプせざるを得ないポイントもあるけど、スロットル全開でジャンプするとオーバーレブのリスクも高まるし着地の際に駆動系に負荷が掛かるから、エンジニアにとっては嬉しくないよね。

--駆動系といえば、アプリリアのビニャーレス選手が2位表彰台目前と言うか、スプリントに続いて優勝を狙っていたと思うんですが、ギヤボックスのトラブルでリタイアしましたね。

 直線で6速に入れるところで何らかのトラブルが発生して、シフトアップもシフトダウンも出来ない状態になったように見えたね。おそらくスロットルを戻して、本能的にクラッチを切ってブレーキで止まろうとしていたと思うけれど、速度が下がって来たところでリヤタイヤが突然ロックして転倒ということは、エンジンのトラブルではなくギアボックスの問題なんだろうね。

--MotoGPマシンはどのメーカーもシームレスギヤボックスだと思いますが、市販車のDCTとは構造が違うんですか?

 市販車のDCTは通常のドッグ式ギヤボックスにクラッチを2個組み合わせてシームレスな変速を実現しているんだけど、クラッチの電子制御が不可欠なのでMotoGPでは使用不可なんだ。

 MotoGPマシンのギヤボックスは、基本的にはホンダがF1用に開発した構造と似たり寄ったりだと思うけれど、構造がかなり複雑で部品点数も多くて繊細な仕組みなんだ。ドッグ式との決定的な違いは、シャフトに仕込まれた爪とギアの内径で構成されるラチェットによって動力が伝達されるんだよ。

--ラチェットってあのバイク整備に使うレンチみたいなものですか?

 そうそう、ラチェットのサイズ的にもあんな感じだよ。初めて見た時はこんなので大丈夫なのと思ったもの(笑) もちろん、駆動系のトラブルは重大事故につながるから、入念な耐久テストを経て実践投入されるので、今回のような事例はごく稀だと思うし原因がラチェットと特定されたわけでも無い。ただし部品点数が多い事で故障のリスクは増えるし、小さな部品が破損してギヤにかみこんでしまうと今回のようなロックも起きうる。

 ひとつ言えるのはビニャーレス選手がスプリントで運を使い果たしたってことだけど、怪我が無くて良かったよ。

--という事で色々な出来事がありましたが、終わってみれば決勝レースはマルティン選手が独走優勝でエネア・バスティアニーニ選手が2位と、ドゥカティの牙城はゆるぎなしという感じでしたね。バニャイア選手もスプリントでのオーバーランさえなければその後の流れも変わったように思います。ところで燃料の量がブレーキングに及ぼす影響って大きいんですか?

 レースで使用できる燃料は22Lで、質量およそ16~17kg程度。比較的高い位置にあるため、レース序盤ではブレーキング時の慣性モーメントがかなり大きい。ところがレース終盤では燃料が減るので慣性モーメントは小さくなる。一方で、スプリントは燃料が12Lなので、そもそも最初から慣性モーメントは小さい。

 ドゥカティのスプリント用燃料タンクがどういう構造かは知らないけれど、スプリント専用タンクという事だから、最初から燃料の搭載位置は低いと考えるのが妥当。つまりスプリントの方が燃料の影響を受けにくいと考えるのが常識的じゃないかな。そもそもMotoGPマシンは質量の集中化という狙いで、燃料タンクはシート下にもかなりの容量を持たせていて、燃料の移動やレース中の減少の影響を受けにくくしているんだ。

 もし、意図的に燃料タンクを本来の位置だけにして容量を減らしているとすれば、バニャイア選手の説明も辻褄が合うんだけれどね。何れにせよ、レース用のタンクであれば、スプリントでもレース中盤から終盤の挙動になるのでライダーも理解しやすいはずで、スプリント専用のタンクを使う事がどういうメリットを狙いとしているかは謎だね。

 単なる軽量化にとどまらず、車両全体の質量分布とそれが運動性に与える影響なども考えてやってるとは思うけれど、ライダーにあまり余計なことを考えさせない事も大事かなと思うね。最近のライダーはマップを選んだり、コーナー毎に車高調整したりで、ただでさえ大変らしいから(笑)

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みんなのコメント

4件
  • xxx********
    いったい誰なんだ"御意見番"って?
    自分で御意見番なんて言ってるやつろくなもんじゃ無いだろ。
    本物の御意見番ならドルナに言え。
  • win********
    市販車のDCTは通常のドッグ式ギヤボックスにクラッチを2個組み合わせてシームレスな変速を実現している
    これってオートシフトなだけで
    そもそもDCTはミッションの構造が違うはず。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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