現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ブガッティはいかにして「世界最高の自動車ブランド」になったのか? 創業から半世紀で生産7800台の第1期を振り返る【ブガッティ・ヒストリー_01】

ここから本文です

ブガッティはいかにして「世界最高の自動車ブランド」になったのか? 創業から半世紀で生産7800台の第1期を振り返る【ブガッティ・ヒストリー_01】

掲載
ブガッティはいかにして「世界最高の自動車ブランド」になったのか? 創業から半世紀で生産7800台の第1期を振り返る【ブガッティ・ヒストリー_01】

自動車で「総合芸術」を目指した第1期ブガッティ

オペラは、時として「総合芸術」と称される。歌劇はもとより音楽と演劇を兼ね備えるのにくわえて、近代以降のオペラでは壮麗な舞台美術や趣を凝らしたコスチュームなど、構成要素のすべてに芸術的資質を追求するのが半ば常識となっている。自動車史上最大の鬼才、エットレ・ブガッティが生涯にわたって追い求めたのは、自動車という当時最先端のテクノロジーの結晶を表現媒体とした「総合芸術」だったのではあるまいか……?

新車未使用のフェラーリが600万円台のなぜ?「モンディアルt」はクーペでもカブリオレでも圧倒的な不人気車種でした

芸術家エットレの興した自動車ブランド

エットレの造った自動車の多くが、芸術作品、たとえば現代美術の彫刻作品としても鑑賞に堪えうる美しさと、「キャラコ(白木綿地)を引き裂くような」という名文句で形容される音楽的な排気音を奏でることは、幸運にしてブガッティに触れるチャンスを得たエンスージアストなら周知の事実であろう。自動車界における最高のブランドであるブガッティの、21世紀の現在にまで継承された世界観がいかにして形成されたのか……? まずはエットレ時代のブガッティを解説させていただこう。

* * *

ブガッティの開祖、エットレ・ブガッティは1881年9月25日に生を受けた瞬間から、アーティストたることを運命づけられていた。ミラノの著名な家具デザイナー兼造形作家、カルロ・ブガッティの長男として生まれた彼は、幼い頃から父とそのサロンを訪れるさまざまな分野のアーティストたちから、文化・芸術の英才教育を受けてゆく。またそのいっぽうで機械工学、とくに当時発明されて間もない自動車という乗り物に強く惹かれていた。

そして、10代から自動車メーカーの主任設計者に請われるほどの才能を発揮した彼は、いくつかのメーカーを渡り歩いたのち、1909年に自らの名を冠したブガッティ社を設立するに至る。

イタリア国籍はそのままフランス定住を決めたエットレは、ドイツとの国境に近いアルザス・モールスハイムにアトリエとも呼ばれる工房を設け、その敷地内に自身と家族のためのシャトーと、愛馬たちのための厩舎も建設。まるで貴族の荘園のようなコミュニティを作った彼は、昔ながらの徒弟制度にしたがって「ル・パトロン(親方)」と呼ばれた。

この時期、ブガッティが生み出した名作は枚挙に暇がない。自社ブランド初の作品「T13ブレシア」はライトスポーツカーの元祖となった。また1924年に登場した「T35」を端緒とし、「T37/T37A」や「T51GP」などのファミリーが輩出した一連の「グランプリ・ブガッティ」は、当時のGPレースやスポーツカーレースで大活躍したうえに、自動車に初めて機能美という概念をもたらしたとされている。

そして、市販モデルでも1万2763cc、プロトタイプに供された第1号車に至っては1万4726ccという乗用車史上最大の排気量を持つ直列8気筒エンジンを搭載。自動車史上最高級車といわれる「T41ロワイヤル」も、もちろんブガッティの芸術的センスから生み出されたマスターピースだった。

自動車とその世界観を表現媒体とした芸術活動とは?

芸術家エットレ・ブガッティが生涯にわたって追い求めたのは、自動車という当時最先端テクノロジーの結晶を表現媒体とした「総合芸術」。彼の造った自動車の多くが芸術作品としても通用する美しさと音楽的なエキゾーストノートを誇ることは、幸運にしてブガッティに触れる機会を得たエンスージアストなら周知の事実であろう。

当時の高級車は、エンジンやシャシーなどのメカニズムのみを製造し、ボディ架装は専業のコーチビルダーに委ねるのが常道とされていたのだが、ブガッティではデザインからエットレ自らが手がけ、製造もすべて自社で行うことをデフォルトとしていた。

そして、肝心のメカニズムでも美的側面を最優先したエットレは、たとえばアルミニウム合金製エンジンブロックも直方体にこだわるために、直列4気筒ないしは8気筒だけとしたうえに、ヘッドの形がシンプルな直方体ではなくなるDOHCも極力排除。

アルファ ロメオなどのライバルにパワーでは後塵を喫しながらも、かのパブロ・ピカソは白銀に輝く直方体のエンジンを「最も美しい人工物」と評したといわれている。

また、プロポーションに影響を与える独立懸架の採用も最後まで拒むなど、テクノロジーの進化に抗ってでさえも、自動車という乗り物が潜在的に持つ古典的な機能美を徹底して表現しようとしていた。

さらに自動車以外にも、エットレ自身と彼を取り巻く人々によってなされたドラマティックなストーリー。モータースポーツやコンクール・デレガンスなどの晴れ舞台で、ヨーロッパ中の観衆の視線を独占した華やかなカリスマ性。そして、クルマ創りの場から日常生活の場に至るまでの環境に要求する徹底した美へのこだわりなど、エットレが表現しようとしたすべてが、今なお世界中の熱心な愛好家「ブガッティスタ」を魅了し続けているのだ。

英国の研究家H.G.コンウェイの著した、ブガッティのバイブルとも称される名作『Le Pur-Sang des Automobiles』によると、イスパノ・スイザ社によって併合される1963年までにモールスハイムのアトリエから生み出されたブガッティのクルマは、ツーリングモデルからワークスのGPマシンまで全て合わせても、じつに約7800台+αに過ぎないと推定されている。

しかし、ブガッティが数あまた存在する名門メーカーの中でも最高の伝説的存在として、その神秘性とカリスマ性を保ち続けているという事実は何人たりとも否定できまい。

エットレの死と第1期ブガッティの終焉

2つの世界大戦をはさんだ「ベル・エポック」と呼ばれる時代に隆盛を極めたブガッティだが、「ル・パトロン」こと開祖エットレの存在があまりに大きかったゆえに、ブガッティ社の存亡は彼自身の命運と表裏一体のものとなった。

3.3Lの直列8気筒DOHCユニットを搭載し、1935年に登場したツーリングカー「T57」およびスーパースポーツ「T57S」では、長男であるジャン・ブガッティがデザインワークを主導し、ブガッティ帝国を継承するに相応しい才覚を見せた。ところが、そのジャンがル・マン24時間レースのために開発した「T57Gタンク」をテスト中に事故で夭折したことが、ブガッティ落日のはじまりとなってしまう。

第二次世界大戦の勃発により、フランスを占領したナチス・ドイツ軍にモールスハイムの工房を接収されてパリに疎開したエットレは、戦時中も複数のアイデアを図案化していた。また、自由を何よりも愛するエットレは占領下のフランスで奮闘したレジスタンスに秘密裏に協力、パリのアトリエはレジスタンス闘士たちの中継センターとしての役割も果たしたと云われる。

しかし憎きナチの敗走も、大戦後のブガッティ復活を目指した新しいプロジェクトさえも、エットレの命の炎を再燃させるには至らなかった。1947年8月21日、エットレ・ブガッティは自ら築いた帝国とその後継者を失った失意のうちに、その波乱に満ちた66年の生涯を終えたのである。

そして戦後のフランスでは、まずは国民の足を確保すべしという方針のもと、高級車にはほとんど禁止税とも言うべき高い税金が掛けられることになる。その結果「ドラージュ」や「タルボ・ラーゴ」など、多くの名門がその命運を途絶えさせる中、モールスハイムの荘園を取り戻す裁判には勝訴したものの、会社牽引の原動力たるエットレやジャンはすでに亡かった。

戦前型T57の焼き直しとも言える「T101」でお茶を濁していたブガッティにかつての栄光が再訪するなど、もはや見果てぬ夢だったのだ。

最後の生産車T101は6台を製作しただけに終わり、その6台目のシャシーには「fini(おわり)」のプラークが付けられたと言われる。

1963年7月末日を以って、モールスハイムは親会社となることが決定したかつてのライバル、イスパノ・スイザ社に全設備を移管するため、ついに業務停止と工場閉鎖の憂き目を見ることとなった。

同年7月22日、モールスハイムで支給された最後の給料袋には「ル・パトロン」時代からの熟練工を含むすべての従業員に宛てて、ブガッティ家からの謝意を記した一通の手紙が添えられていた。

この日、自動車の芸術性を飽くことなく追い求め続けた孤高のカリスマ的コンストラクターは、自動車史の表舞台から静かに姿を消したのである。

しかし、ブガッティとその芸術を愛する愛好家たちの中で、その伝説は綿々と語り継がれることになる。ブガッティ終焉から四半世紀を迎えた1987年、イタリアにてこのブランドの復活を実現したロマーノ・アルティオーリも、そんなブガッティ伝説を幼時から信奉する一人であった。

こんな記事も読まれています

『シェルパ450』搭載のロイヤルエンフィールド新型「ヒマラヤ」88万円から発売決定!
『シェルパ450』搭載のロイヤルエンフィールド新型「ヒマラヤ」88万円から発売決定!
WEBヤングマシン
WRCイタリアがサルディニア島で開幕。今季2連勝中のオジエが首位発進、タナクが4.7秒差で追う/デイ1
WRCイタリアがサルディニア島で開幕。今季2連勝中のオジエが首位発進、タナクが4.7秒差で追う/デイ1
AUTOSPORT web
往年の“ファクトリーマシン”が蘇った!? 注目のヤマハ新型「XSR900 GP」はやはり爆売れ!? 販売店での反響とは
往年の“ファクトリーマシン”が蘇った!? 注目のヤマハ新型「XSR900 GP」はやはり爆売れ!? 販売店での反響とは
VAGUE
【販売店に聞いてみた】海外で新型が発表された日産キックス、ユーザーの反響はどうなのか?
【販売店に聞いてみた】海外で新型が発表された日産キックス、ユーザーの反響はどうなのか?
月刊自家用車WEB
ホンダ新型「“ミニ”ステップワゴン」初公開!? 大人気「コンパクトミニバン」8年ぶり全面刷新! フリード&ステップワゴン“共通性”持った理由とは
ホンダ新型「“ミニ”ステップワゴン」初公開!? 大人気「コンパクトミニバン」8年ぶり全面刷新! フリード&ステップワゴン“共通性”持った理由とは
くるまのニュース
自動車産業の未来を共創!スバル、トヨタ、マツダが電動化時代の新たなエンジン開発を「三社三様」で宣言
自動車産業の未来を共創!スバル、トヨタ、マツダが電動化時代の新たなエンジン開発を「三社三様」で宣言
@DIME
熊本バス・鉄道5社「交通系ICカードやめます」 停止は年内予定、公共交通の運賃収受は本当にこれでいいのか?
熊本バス・鉄道5社「交通系ICカードやめます」 停止は年内予定、公共交通の運賃収受は本当にこれでいいのか?
Merkmal
ホンダ「ディオ110・ベーシック」【1分で読める 原付二種紹介 2024年現行モデル】
ホンダ「ディオ110・ベーシック」【1分で読める 原付二種紹介 2024年現行モデル】
webオートバイ
日本製SUV危うし!? 日本未導入の中国[GEELY]ハイブリッドSUV「星越L」サーキット試乗! クォリティはやはり高かった!!!
日本製SUV危うし!? 日本未導入の中国[GEELY]ハイブリッドSUV「星越L」サーキット試乗! クォリティはやはり高かった!!!
ベストカーWeb
これで十分じゃん! シンプルでライトなアウトドアライフにピッタリなスズキ エブリイがベースの軽キャンパー
これで十分じゃん! シンプルでライトなアウトドアライフにピッタリなスズキ エブリイがベースの軽キャンパー
月刊自家用車WEB
インディ500ウイナー×アステモレッド。チーム・ペンスキーがニューガーデン車の新リバリーを公開
インディ500ウイナー×アステモレッド。チーム・ペンスキーがニューガーデン車の新リバリーを公開
AUTOSPORT web
[新型フリード]予約中!! けど旧型モデルはまだ新車で買えるゾ!! 価格上昇気になるなら熟成版を爆安でゲットするのもアリじゃない!?
[新型フリード]予約中!! けど旧型モデルはまだ新車で買えるゾ!! 価格上昇気になるなら熟成版を爆安でゲットするのもアリじゃない!?
ベストカーWeb
ヤマハのリンスが2番手で好発進。バニャイアは唯一の1分44秒台で初日最速/第7戦イタリアGP
ヤマハのリンスが2番手で好発進。バニャイアは唯一の1分44秒台で初日最速/第7戦イタリアGP
AUTOSPORT web
[知ったかぶり]していないですか? 今さら聞けないクルマ用語
[知ったかぶり]していないですか? 今さら聞けないクルマ用語
ベストカーWeb
まるで[フランス車]の如き乗り心地じゃない!? 中国[小鵬X9]はアルファード/ヴェルファイア以上のドライバーズミニバンなのか?
まるで[フランス車]の如き乗り心地じゃない!? 中国[小鵬X9]はアルファード/ヴェルファイア以上のドライバーズミニバンなのか?
ベストカーWeb
「思う存分泣いてくれ」と言いたかったのに……山本尚貴が掛けた牧野任祐への言葉とスーパーフォーミュラ初優勝という大きな転換点
「思う存分泣いてくれ」と言いたかったのに……山本尚貴が掛けた牧野任祐への言葉とスーパーフォーミュラ初優勝という大きな転換点
AUTOSPORT web
「丸」と「四角」で冷え方に差が出る? エアコンの吹き出し口の形って性能的にはどっちがいいの?
「丸」と「四角」で冷え方に差が出る? エアコンの吹き出し口の形って性能的にはどっちがいいの?
ベストカーWeb
STANLEY牧野任祐、SF初優勝で迎えるGT鈴鹿戦と改めて振り返る苦労「肩の荷がちょっと降りた」
STANLEY牧野任祐、SF初優勝で迎えるGT鈴鹿戦と改めて振り返る苦労「肩の荷がちょっと降りた」
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

536.2563.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

82.5175.0万円

中古車を検索
CCの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

536.2563.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

82.5175.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村