現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【安いだけじゃダメだった】アメリカ車が送った日本への刺客の悲しい結末

ここから本文です

【安いだけじゃダメだった】アメリカ車が送った日本への刺客の悲しい結末

掲載 更新
【安いだけじゃダメだった】アメリカ車が送った日本への刺客の悲しい結末

 団塊の世代の方々が若者だった1960年代までは、ボディの大きさも含めた流麗なスタイルや大排気量エンジンによるパワフルな走り、エアコン、パワーウィンドウ、パワステ、ATといった快適装備を備えたアメ車は憧れの存在だった。

 しかし1970年代に入ると燃費のよさやクオリティや信頼性の高さを理由とした日本車の台頭もあり、日本では潜在的な憧れはあるにせよ、アメ車はここ30年以上日本では販売不振が続いている。

目新しさがない?? 3.5Lよりも2.5Lがいい?? 現役開発者が新3シリーズとクラウンを斬る

 しかしアメリカビッグ3も1990年代に日本市場開拓のため、打倒日本車を掲げて安い価格で勝負に出た時期もあった。

 当記事ではそんな日本に送り込まれたアメリカメーカーの刺客たちを紹介し、残念ながら失敗に終わった原因を考察していく。

文:永田恵一/写真:ベストカー編集部、YANASE、FORD、CHRYSLER

日本車に対抗して安さで勝負するも惨敗

クライスラーネオン(初代)
日本での販売期間:1996~1999年
全長4370×全幅1720×全高1370mm
直4気筒SOHC 1996cc 134ps/ 17.8kgm
価格:149万9000円(SE)

日本での販売増強を目論んで、ネオンの価格設定を日本車に匹敵するほどの低価格にした努力はすばらしかったが、安くて高品質の日本車を相手には安いだけでは難しい

 1994年のデトロイトモーターショーで登場したネオンは、「とにかく安い実用車」というコンセプトを持ち、特にアメリカでのスタート価格は約9000ドル(当時の為替レートで約90万円)を掲げた。

 車格を日本車で例えるとカローラやサニーといった大衆車といったところだが、全幅が若干大きく、3ナンバーサイズだった。エンジンも2Lという小さいながらもアメ車らしいボリュームがセールスポイントであった。

 ネオンは1996年から日本導入が始まり、価格は約130万円からと確かに安かった。しかし約130万円の廉価版はMTでエアコンもオーディオもなく、それなりの装備が着くグレードだと約180万円と、車格がひとつ上のコロナやブルーバード並みだった。

 そのうえATは3速で、各部のクオリティは日本車を基準にしたら信じられないほど低く、要するに同じ値段で買える日本車を買ったほうがずっといいというクルマで、成功する要因はひとつもなかった。

 ネオンは2代目モデルも2000年から日本で販売されたものの、今度は価格が200万円を超え、こちらも失敗に終わってしまった。

値引きなしのワンプライス販売が日本になじまず

サターンSW2ワゴン
日本での販売期間:1997~2001年
全長4520×全幅1695×全高1395mm
直4気筒DOHC 1901cc 126ps/ 16.8kgm
価格:168万円(ベースグレード)

1997年日本導入にあたりセダン、ワゴン、クーペの3モデルを投入したが、アクの強いフロントマスクは3モデル共通で、日本人の好みに合わなかったのも失敗の要因

 サターンは1990年代にGMが「それまでとはまったく違った新しいクルマの売り方」を展開すべく立ち上げたブランドである。

 サターンは値引きをいっさいしないワンプライス販売をセールスポイントとしていたのでディーラー(サターンではリテーラーと呼んでいた)に行ってもスタッフから声を掛けられることはなかった。

 これはアメリカでは画期的な新しいクルマの売り方で、実売価格の不公正感がないことなどで大きな支持を集め、トヨタにも影響を与えた。

 いろいろな意味で1997年から鳴り物入りで日本で販売が始まったサターンはSシリーズというモデルで、車格はコロナやブルーバードに相当し、1.9Lエンジンを搭載。

 ボディタイプはセダンのSL、ステーションワゴンのSW、左側がマツダRX-8のような観音ドアを持つクーペのSCの3つが設定され、価格は日本車より安い約160万円からだった。

 サターン自体はクオリティも特に悪くないし、ほかのアメリカからの刺客と違い5ナンバーサイズで価格も安かったのだが、やはり失敗に終わった。

 敗因としてはワンプライス販売が程度はともかくとして値引きが当たり前の日本では受け入れられなかった。多少価格設定の高い日本車でも、値引きしてもらえばサターンも日本車も値段は変わらない、「ならば整備関係などいろいろな意味で日本車のほうが安心」という、単純な理由ばかりが浮かぶ。

 ただサターンが日米で当たり前だった値引き販売に対するアンチテーゼを唱えたことは、日本でもサターンが販売された小さいながらもひとつの意義だったかもしれない。

安さを売りにするも日本車の敵ではなかった

ポンティアックグランダム(4代目)
日本での販売期間:1991~1996年
全長4785×全幅1740×全高1375mm
直4気筒DOHC 2392cc 152ps/ 20.7kgm
価格:230万円(SEセダン)

押し出しの強い昆虫系のフロントマスクが印象的なグランダム。乗り心地のよさなどセダンとしての快適性は備えていたが日本車に対抗できる品質はなかった

 グランダムは1990年代中盤のマークII三兄弟やディアマンテのようなボディサイズを持ち、250万円から300万円の価格でエンジンは2.4L、4気筒と3.1L、V6を積み、排気量を考慮してアメ車=外車として見れば一見安いというクルマである。

 しかしクルマ自体はエンジンの振動が大きい、ハンドリングが不自然、クオリティはライバルとして想像するマークII三兄弟やディアマンテに到底及ばないなど、ボディは大きくても実質的な車格はカローラやサニー相当だった。

 グランダムも「この金額出すならば日本車のほうがずっといい」という結論になるのは順当で、こちらも失敗に終わった。

欧州生産車でもあまりに地味すぎ

フォードモンデオセダン(初代)
日本での販売期間:1994~2001年
全長4490×全幅1750×全高1435mm
直列4気筒DOHC 1795cc 115ps/ 15.5kgm
価格:172万8000円(L)

欧州フォードが開発生産したモデルということでアメ車ではないが、フォードが日本に刺客として投入。モンデオは出来も悪くなく、価格も安かったが決定的な魅力に欠けた

 モンデオはヨーロッパフォードが生産、開発を行った日本車だとエンジン排気量ではコロナやブルーバードに相当するモデルだが、ボディサイズはもっと大きかった。

 日本では1994年から初代モデルがセダンとステーションワゴンのバリエーションで販売が始まった。

 初代モンデオは当時フォードが日本で力を入れ始めたのに加え、この頃日本で価格破壊という言葉がよく聞かれたほどのデフレが始まったのに呼応し、価格は約200万円からと日本車並みだった。

 モンデオは動力性能こそ平均的だが、ヨーロッパ製らしいシッカリした走りを備えており、純粋なアメ車とは違ったキャラクターを持っていた。

 ならば売れたかというと当初はディーラーがそれなりにあったのもありなかなか売れたのだが、長期的には成功しなかった。

 成功しなかった理由としては、モンデオはキャラクターはあったもののヨーロッパ車としては薄く、外車に触れたいならもう少し払ってでもゴルフやプジョー306などに流れるユーザーが少なくなかった。

 日本車にも日産プリメーラのようなヨーロッパ的なクルマもあり、ならば何度も書いた「日本車のほうが安心」というユーザー心理が挙げられる。

トヨタの販売力をもってしてもお手上げ

トヨタキャバリエ
日本での販売期間:1996~2000年
全長4600×全幅1740×全高1355mm
直4気筒DOHC 2392cc 150ps/ 21.4kgm
価格:149万9000円(2.4S)

シボレーキャバリエをトヨタブランドで販売。アメリカでは人気モデルだったキャバリエも日本人の琴線を刺激することができず、トヨタも大苦戦。次は何を押しつけられる!?

 キャバリエはかつてGMとの合弁工場をアメリカに持っていたトヨタが当時の日米貿易摩擦緩和のため、GMからのOEM供給の形で1996年に年間2万台の販売目標を掲げたモデルである。

 ボディタイプはセダンと2ドアクーペで、車格は日本車ならコロナやブルーバードに相当した。トヨタが販売するだけに右ハンドル化に加えウィンカーとワイパーレバーは日本車と同じ配置に変更し、価格は2.4Lエンジンを搭載しながら同クラスの日本車並みの約180万円からと安く設定し、CMには所ジョージさんを起用するなど、万全の体制が敷かれた。

 しかし、結果は大失敗に終わった。敗因としてはアメ車らしいトルクフルな走りではあったものの、ネオンほどではないにせよ日本車のような高いクオリティは備えておらず、「日本車並みの価格なら日本車を買ったほうがいいし安心」ということに尽きる。

 キャバリエはモデル末期には価格を約150万円スタートまで値下げしり、キャバリエ購入資金100万円プレゼントなども展開したがそれでも状況は好転せず、「トヨタがあれだけちゃんとやってもダメだった」ということだけが強く印象に残った。

 キャバリエは笛吹けどまったく踊らず、苦肉の策でセダンを白黒パトカー、覆面パトカーとして大量納入した。

アメリカメーカーは売り方の再考が必要

 普段意識することは少ないが、日本は日本メーカーが造る高品質なクルマを比較的適切な価格で買える非常に恵まれた国である。またクルマは基本的に長期間使う整備も必要な耐久消費財、道具である。

 このことを考えると、なんらかの強い個性か魅力を持たないアメ車を含めた外車が安くても日本で売れないというのもごく当たり前のことに感じる。

 もしアメリカメーカーが日本でクルマを拡販したいというなら、本国に近い適正価格を付けることを大前提に、優秀な実用車が溢れ返っている日本にはキャデラックのような高級車やカマロのようなスペシャリティカー、ピックアップトラックといった強い個性を持つか、日本車が弱いジャンルのクルマを導入するしかないように思う。

 そういった売り方をしている代表的なブランドはスポーツモデルのRSとカングーを中心としたルノーで、ルノーが日本で成長を続けている。

 ルノーの躍進を見ると、売り方を再考すればアメ車も日本で一応の数なら売れる可能性もそれなりにあるのではないだろうか。

こんな記事も読まれています

驚速D’station Vantage GT3、初ポールの秘訣はタイヤ、新型の能力、チームの対応力にあり
驚速D’station Vantage GT3、初ポールの秘訣はタイヤ、新型の能力、チームの対応力にあり
AUTOSPORT web
バニャイア、母国で今季スプリント初勝利。マルティンが転倒で、M.マルケスが3連続2位/第7戦イタリアGP
バニャイア、母国で今季スプリント初勝利。マルティンが転倒で、M.マルケスが3連続2位/第7戦イタリアGP
AUTOSPORT web
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #13 【ルノー カングー】
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #13 【ルノー カングー】
グーネット
「悔しい」予選2番手のスバルBRZ。重要な決勝に向けてのセット変更と井口&山内のドライビング
「悔しい」予選2番手のスバルBRZ。重要な決勝に向けてのセット変更と井口&山内のドライビング
AUTOSPORT web
「手応えあり」のSHADE RACINGと「全然わからない」Studie。雨予報の鈴鹿でミシュランの逆襲はあるか
「手応えあり」のSHADE RACINGと「全然わからない」Studie。雨予報の鈴鹿でミシュランの逆襲はあるか
AUTOSPORT web
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #12 【フォード エコノライン】
キャンパーたちのアウトドア系愛車スナップ #12 【フォード エコノライン】
グーネット
商用バン&ワゴン宿命の対決 ぶっちゃけハイエースと日産NV350キャラバンどっちがいいの?
商用バン&ワゴン宿命の対決 ぶっちゃけハイエースと日産NV350キャラバンどっちがいいの?
ベストカーWeb
あなたの知らない英国車「ブリストル406」とは? BMW製6気筒と兄弟といわれる直6エンジンで気持ちよく走るコツをお教えします【旧車ソムリエ】
あなたの知らない英国車「ブリストル406」とは? BMW製6気筒と兄弟といわれる直6エンジンで気持ちよく走るコツをお教えします【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
ペドロ・アコスタ、2025年よりレッドブルKTMファクトリー・レーシングに昇格が決定/MotoGP
ペドロ・アコスタ、2025年よりレッドブルKTMファクトリー・レーシングに昇格が決定/MotoGP
AUTOSPORT web
藤井誠暢「タイヤがすべて」 ファグ「イギリス人だから雨は得意だよ(笑)」【第3戦GT300予選会見】
藤井誠暢「タイヤがすべて」 ファグ「イギリス人だから雨は得意だよ(笑)」【第3戦GT300予選会見】
AUTOSPORT web
初ポール獲得のアレジ「本当に最高。好物をいっぺんに食べているよう!」【第3戦GT500予選会見】
初ポール獲得のアレジ「本当に最高。好物をいっぺんに食べているよう!」【第3戦GT500予選会見】
AUTOSPORT web
D’station Vantageがチーム初ポール。ダンロップの1-2に最重量muta GR86が続く【第3戦GT300予選レポート】
D’station Vantageがチーム初ポール。ダンロップの1-2に最重量muta GR86が続く【第3戦GT300予選レポート】
AUTOSPORT web
W12との別れは「初体験」との出会い ベントレー・コンチネンタルGT スピード プラグインHVの試作車へ試乗
W12との別れは「初体験」との出会い ベントレー・コンチネンタルGT スピード プラグインHVの試作車へ試乗
AUTOCAR JAPAN
「ミラノデザインウィーク」に登場したクルマたちを一挙公開! 一番人気の会場はズバリ「ポルシェ」でした【ユーコ伊太利通信】
「ミラノデザインウィーク」に登場したクルマたちを一挙公開! 一番人気の会場はズバリ「ポルシェ」でした【ユーコ伊太利通信】
Auto Messe Web
スーパーGT鈴鹿でワンツーのトヨタ・スープラから感じられる“キャラ変”「セクター1、2であの速さというのは、今までなかったこと」
スーパーGT鈴鹿でワンツーのトヨタ・スープラから感じられる“キャラ変”「セクター1、2であの速さというのは、今までなかったこと」
motorsport.com 日本版
【正式結果】2024年スーパーGT第3戦鈴鹿 公式予選
【正式結果】2024年スーパーGT第3戦鈴鹿 公式予選
AUTOSPORT web
笹原&アレジ組が初ポール。3メーカー混戦、スピン&トラブル多発の鈴鹿を制す【第3戦GT500予選レポート】
笹原&アレジ組が初ポール。3メーカー混戦、スピン&トラブル多発の鈴鹿を制す【第3戦GT500予選レポート】
AUTOSPORT web
絶好調バニャイヤが決勝レースも勝利! バスティアニーニとドゥカティ母国ワンツー|MotoGPイタリア決勝
絶好調バニャイヤが決勝レースも勝利! バスティアニーニとドゥカティ母国ワンツー|MotoGPイタリア決勝
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

153.0176.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

-万円

中古車を検索
キャバリエの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

153.0176.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

-万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村