いまでも街のヘビーユーザーに愛されるタフなヤツ
ホンダは1981年に前輪1+後輪2というスリーホイール構造の革新的な乗りもの「スリーター」を開発しました。それはフロント部分がスイングするように左右に傾き、バイクの軽快さと低速でもふらつかない3輪の安定性を持つ新しい乗りものでした。
【画像】ホンダ「GYRO X」(1982年型)の詳細を画像で見る(10枚)
その第1弾は、未来的なデザインの中に4輪車の快適性を2輪車で実現した「ストリーム」でした。
そして翌1982年にスリーターの新しい仲間として加わったのが、第2弾となる「GYRO X(ジャイロ・エックス)」です。ハードな4輪駆動車を思わせるその外観は、不整地や雪道でも優れた走破性がそのままデザイン化されたように見えます。
街の風景でも自然の中でも溶け込み、最も過酷な冬の雪道ですら遊びのフィールドに変えてしまう、アウトドアライフを満喫するためのタフなランドスリーターでした。
当時、流行した「ヘビーデューティ」というワードは、激しい使用や仕事に適した耐久性に優れているモノを表す言葉でしたが、転じてオフロードや雪道などのタフな路面でも走れる車両を表す言葉としても使われていました。
それまでに無い新しいカテゴリーのバイクとして登場したヘビーデューティな車両、それが「ジャイロX」でした。
「ジャイロX」には、ワンタッチパーキングやノンスリップデフ、スイング機構など、ホンダの先進技術と独自メカニズムが76点も盛り込まれていました(特許や実用新案に出願した数)。その中でも最も特徴的なのはノンスリップデフです。
そもそも「ジャイロX」は、接地面の広い2本のブロックタイヤで駆動しているので、悪路でのトラクションに優れていますが、ノンスリップデフはさらに過酷な路面状況の時に威力を発揮します。
通常のデファレンシャルでは左右どちらかのタイヤが窪地や溝に落ちた際、落ちた側のタイヤは空転します。構造上、空転していない側のタイヤは回転が止まり、車両はその場に立ち往生(いわゆるスタック)してしまいます。
ハードな4輪駆動車でお馴染みのノンスリップデフは、左右輪の回転差が大きくなった時には摩擦クラッチをロックさせて、左右均等に駆動力を伝えます。
このシステムにより雪や泥などスリップしやすい路面でも駆動が途切れにくく、特別なテクニックが必要なくても誰でも悪路や雪道を走行する事ができます。
このような特別なメカニズムを採用する頼もしい原付3輪モデル「ジャイロX」は、発売の翌年にはフロントホイールを8インチから10インチに大径化し、クッションストロークを伸ばし、さらに走破性を向上。グリップヒーターをオプション設定するなどの改良を施します。
そうしてタフな走行条件に対応する一方、荷物を運べる街の実用車として人気が高まり、1985年には旋回時に左右後輪の回転差を調整するデファンレンシャル・クラッチを採用した兄弟車「ジャイロ・アップ」が登場します。
「ジャイロ」シリーズが荷物運搬の一役を担うのは、ヘビーデューティとして生まれた本望かもしれません。
「ジャイロX」はその後、エンジンの4サイクル化などの改良を施し、「ジャイロ・アップ」と共に街のビジネス車として現在でも活躍しています。
1990年には「ジャイロX」の兄弟車として、大型スクリーンと一体型のルーフを装備した「ジャイロ・キャノピー」が登場し、食品デリバリーなどで大活躍しています。2020年にはEV化し、ラインナップに登場しました。
こうしてロングセラーとなった「ジャイロ」シリーズは、今後も街の実用車として走り続けることでしょう。
ホンダ「ジャイロX」(1982年型)の当時の販売価格は17万8000円です。
■ホンダ「GYRO X」(1982年型)主要諸元エンジン種類:空冷2ストローク単気筒総排気量:49cc最高出力:5.0PS/6500rpm最大トルク:0.56kg-m/5000rpm全長×全幅×全高:1595×625×1395mm始動方式:セル・キック併用車両重量:86kg燃料タンク容量:5Lタイヤサイズ(F):3.75-8-2PRタイヤサイズ(R):5.4-6-4PR
【取材協力】ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)※2023年12月以前に撮影
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みんなのコメント
ワタシ的にはそのまたお隣の「ロードフォックス」が気になって…笑
続報をお待ちしております…
現在も稼働しているジャイロUPは2st関係の部品が在庫切れ次第廃盤になっているので、延命させるのは困難でしょう。