ロードゴーイングレーシングカーであるポルシェ 911 GT3(992型)が発表された。日本上陸はもう少し時間がかかりそうだが、ドイツ本国のサーキットと公道でいち早く試乗するチャンスを得た。(Motor Magazine2021年7月号より)
スワンネックタイプのリアウイングを装着する新型GT3
2021年モデルの911GT3の特徴は、これまで以上にモータースポーツのノウハウが移植されたことである。まずフロントエンドにはメッシュでカバーされたエアアウトレット、そしてリアではスワンネック(白鳥の首)タイプのリアウイングを装備する。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
この上面から吊り下げられたようなウイングはモータースポーツの世界ではすでに知られているデザインで、今までのようにスポイラーを立てるのではなく、下面を通過する速い空気の流れで空気抵抗を増やさずにダウンフォースを得ることができる。さらにフロントのサスペンションにはストラット式に代わって、待望のダブルウイッシュボーン式が採用された。
搭載されるナチュラルアスピレーション(NA)の4L水平対向6気筒は991スパイダーに採用されたタイプの発展型で、新たに独立スロットルバルブを持ったインテークと高効率エキゾーストシステムの採用などによって、最高出力は510ps、最大トルクは470Nmと、先代のGT3どころかGT3 RSを10psと10Nm上回るスペックを得ている。トランスミッションは7速DCT(PDK)に6速MTが加わり、最高速度は前者で318km/h、後者で320km/hに達する。
重量は旧モデルとほぼ同じ1418kg(MT)、あるいは1435kg(DCT)に収まっている。これは省略されたリアシート、ボンネットやドアミラーなどに採用したカーボン強化プラスチックやフロント軽量ガラス、ポリカーボネート製のリアウインドウに加えて、軽量ブレーキディスクや鍛造ホイール、軽量化されたスポーツエキゾーストシステムの採用などが貢献している。
いつものとおり左手でイグニッションノブを回すと薄い防音材を通してキャビン内に逞しい金属的なサウンドが響き渡る。ドライバー正面のコクピットにはGT3専用の「トラックスクリーン」が選択可能で、タコメーター、タイヤプレッシャー、油圧、油温、水温、燃料などサーキット走行に必要な情報だけが表示される。
加速もスゴイが、減速もスゴイ。懐の深いシャシも好印象
試乗会は最初のセッションが、およそ4.2kmのビルスターベルグサーキット、そして午後は一般公道とGT3の二面性を確かめるには最適の内容であった。ピットレーンからのフル加速は圧巻で、体はバケットシートに押し付けられ続ける。またオプションのPCCBブレーキが秀逸で、フルブレーキングでは反対に4点式のシートベルトが体に食い込むほどの減速Gが襲ってくる。
コーナリングでは、クリッピングポイントへ向けてのターンイン時に路面のインフォメーションをハンドルから確かに伝えてくれる。さらにキャンバー角の変化が少ないダブルウイッシュボーン採用の効果でロードホールディング性が向上、ラインを乱さずにコーナーを脱出できる。ややオーバースピードで飛び込んでもPDKと組み合わされる電子制御のデフがソフトにラインに引き戻してくれる。新型GT3のシャシは懐の深いハンドリング特性を持っており、ドライバーはその技量に合わせながらタイムアップができる。
続く一般公道でのテストでは、フレキシブルなボクサーエンジンとスムーズなPDKの組み合わせ、さらにスポーティでハードなシャシにも関わらず、快適なドライブが始まる。ただし不整路面では細かなショックがハンドルそしてシートを通じて伝わってくる。
また街中では、コンパクトなサイズと見切りの良いボディで狭い道、あるいは駐車場でも思った以上に日常的に乗り回せることが確認できた。ポルシェ911が誕生以来、半世紀以上にわたって培われてきた基本的な利点がこのGT3にも当然受け継がれているのだ。
ポルシェジャパンではすでにこの新型GT3の予約注文を受け付けており、価格は7速DCTそして6速MTともに2296万円と発表されている。
300km/h巡航もできそうなスーパーカイエンの登場も間近
4年目を迎えた3代目のポルシェカイエンにそろそろフェイスリフトのタイミングが回ってきた。しかも同時に新しいバリエーションが追加されるというのだ。レポーターは幸運なことにこのハイエンドSUVのテストドライブに参加、自らハンドルを握ることも許された。
事前のブリーフィングによればこの追加されるトップモデルは、GTSとターボを合わせたもっともスポーティなカイエンで、BMW X6M(625ps)やランボルギーニ ウルス(650ps)などに対抗する目的で企画されている。開発は2019年からスタートしており、コロナ禍にもかかわらず効果的なリモートワークで開発は遅延なく進められたという。
改良型のボディはすべてクーペで、エンジンは4L V8ツインターボであるが、過給圧のアップや吸排気系の見直しでポルシェによれば最高出力640ps、最大トルクは850Nmに達している。外観はカモフラージュされており詳細は不明だが、噂では顔つきはパナメーラのような表情になるという。またリアのアダプティブスポイラーも専用のデザインだ。
スタートしてまず驚いたのは低回転域から盛り上がりの感じられるパワーで、アウトバーン上でペダルを踏み込むとメーターの数字はあっという間に200km/hを表示する。そのまま踏み続ければ容易に300km/hに届くパワーの余裕が感じられた。
標準装備のエアサスペンションは従来より15%硬く、スプリングのバネレートも上がっている。その結果確かにハードな乗り心地だが、ダンピングはしっかり効いており、高速域でのさらなるスタビリティの高さが認められた。
一方、オプションのPCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)は2.2トンを超えるSUVに確実なストッピングパワーで安心してハイスピードクルージングを約束している。このスーパーカイエン(編集部註:カイエンターボGT)は、ドイツで正式発表された。
マカンEVはバーチャルテストで開発中
ポルシェ本社から2023年に登場予定のEV化される通称「マカンII」の開発先行リリースが発表され、日本でも話題になっている。これにより先だって間もなく発表される予定の現行型のフェイスリフトモデル(通称「マカンI」)の影が薄くなってしまった。
マカンII、すなわちエレクトロ マカンはポルシェとアウディが共同で開発したBEV用のプラットフォーム「PPE(プレミアム プラットフォーム エレクトリック)」を使用している。ちなみにアウディは2024年に登場が予想されているQ6eトロンで採用する予定だ。
タイカン、タイカン クロスツーリスモに続くマカン エレクトリックはすでに販売されている2モデルと同じように800Vのアーキテクチャーを有している。一方、デザインはタイカンのようなポルシェEV用のヘッドライトが採用されるはずである。
マカンの開発はこれまで以上にデジタル化が進んでおり、過去には常識であったさまざまな気象条件や荒れた地形を探して世界中を走らせるこれまでのようなテストは行われない。20台のデジタル プロトタイプがまず制作され、それで空力特性、エネルギーマネージメント、操作性、あるいは騒音などをバーチャルテストを通じて遂行してしまうのである。
こうしてシーティングボックスと呼ばれるモックアップを作成、ここで最終的に人間工学に基づいた操作性や視認性を確認する。マカンの開発はこうして4年前からスタートしているのだ。
ポルシェのオリバー・ブルーメCEOは「電動化はポルシェブランドにピッタリのモビリティだ。それは高効率の追求だけでなく、パワートレーンの性格も基本的にスポーティなのだ。2022年までに60憶ユーロ(約8000億円)をエレクトロモビリティに投資して、2025年にはニューモデルの50%を電動化したい」と語っており、このマカン エレクトリックは最初の量販モデルとして注目される。
噂される911のハイブリッドモデル
れっきとしたスポーツカーメーカーのポルシェだが、他のメーカーに負けず劣らず電動化戦略を積極的に進めている。BEVでは日本での発売も始まったタイカンの評価が高く、世界的に販売も好調だという。
パワートレーンやバッテリー容量のバリエーションを拡大するだけでなく、タイカン クロスツーリスモを追加するなど、BEVユーザーのより細かいニーズにも対応していこうという意図がうかがえる。
また、さらなる電気自動車の拡大を狙うべく、前述したように次期マカンはBEVへと変貌を遂げる。ただし、2021年中に、エンジンを搭載した現在のマカンの改良型を発売する予定で、BEVの次期マカンと一緒に発売される予定という。つまり、一方で電動化を進めながら、エンジン搭載車についても今すぐになくなってしまうというわけではなさそうだ。
注目したいのは911の行方。今回紹介している911GT3や911ターボSはガソリンエンジンを搭載するが、911にハイブリッドモデルが現在開発中であることがウワサされている。
おそらくカイエンとパナメーラに設定されているターボEハイブリッドを進化させたパワーユニットになることが予想される。最強の911の誕生に期待したい。(文:アレキサンダー・オーステルン<キムラ・オフィス>/写真:キムラ・オフィス)
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