フォルクスワーゲンの最新EV、ID.4ライトに試乗
フォルクスワーゲン初の純バッテリーEV「ID.4」は、2022年末に日本でもリリースされた。従来のICE(内燃機関)車と変わらない充電口の位置や、馴染みのあるブレーキと加速感など、ガソリン車から乗り換えても違和感なく扱える、細かな気配り。あるいは急速充電やクラス最大級の荷室スペースなどをアピールしてきたのだが、これまでは日本初上陸記念モデルの「ローンチエディション」が中核で、まだ普通のセールスには至っていなかったようにも見受けられた。しかし2023年下半期になって、おそらくは日本市場においても「本命」となるであろう、スタンダードの「ID.4ライト」の国内販売が本格化するにあたり、AMWでも試乗のチャンスを得た。
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2024年モデルでは最大走行距離が1割アップ
ID.4プロとID.4ライトの違いは、バッテリー容量にモーターの出力、タイヤ寸法、標準装備のアイテムなどとされる。ID.4プロのバッテリー容量は77kWhで、モーター出力は150kW(204ps)、最大トルクは310Nmを発生する。いっぽう、ベーシックグレードとなるID.4ライトのバッテリー容量は52kWhで、モーター出力は125kW(170ps)、最大トルクは310Nmとなる。すなわち「プロ」と「ライト」で最大トルクは同一だが、最高出力は低く抑えられていることになる。
ちなみに、一充電で可能な最大走行距離(WLTCモード)は、2022年モデルのID.4プロ ローンチエディションで561km、ID.4ライト ローンチエディションでは388kmとされていたのだが、この秋アップデートされた2024年モデルではバッテリーのプログラム変更により、ID.4プロで625km、ID.4ライトも435kmまで、それぞれ延長されることになったという。
ホイールベースは2770mm、スリーサイズは全長4585mm×全幅1850mm×全高1640mmと、同じVWのICE搭載SUV「ティグアン」などに近いディメンション。ただし車両重量はバッテリーの小さなID.4ライト系でも1950kg。ID.4プロ系では2140kgに達するのは、一定以上の航続距離を期したBEVゆえのことであろう。
くわえて、ID.4プロがアロイホイールに前235/50R20、後255/45R20の大径タイヤを組み合わせるのに対して、ID.4ライトはスチールホイール+樹脂製フルキャップに、前後とも235/60R18のタイヤを組み合わせる。
これらの変更点が、走りにも明らかなグレードダウンをもたらすのか? 今回のテストドライブで、じっくり検証してみることにした。
ドイツ車的な質実剛健さはEVでも健在
VW ID.4に乗るのは、これが2度目となる。前回は、上級版にあたるID.4プロの日本導入記念モデル、ローンチエディションだったと記憶しているが、今回のID.4ライトは一部の装備まで省略されているせいか、内外装のつくりは今世紀のVWとしては簡素なものと映る。
またプロ/ライトを問わず、ダッシュパネルやドアパネルの樹脂パーツも現行ゴルフなどよりも硬い感触のものが多く、ドアを開くと前席のシートレールがはっきりと見えてしまうのも「ご愛敬」。でも、手動でスライドさせるシートやスイッチ類の操作タッチは、依然としてスムーズで上質である。
明らかに簡素ながらドイツ車らしい、あるいは往年の「ワーゲン」らしい質実剛健さと受け取れなくもない。自分自身でも、かつてのVW最小モデル「up!」を半年ほど前まで日常のアシとして愛用し、そのドイツ的合理主義にある種の尊敬を抱いていた筆者は、このID.4ライトの割り切りも肯定的に受けとめている。
ちょうどいいパワー感で違和感なく走れる
ところで、これはきわめて少ないBEV経験に基づく、つまりは偏見に近い感想(妄想?)なのだが、500psを超えるようなパワーを誇示するハイパワー系のBEVには、正直なところ苦手意識がある。
人間、とくに筆者のようなアナクロ派のクルマ好きの感覚というのは保守的なもので、電動モーターのトルク特性から、乱暴にアクセルを踏み込むとそのまま直線的かつ猛然と加速してしまうハイパワーBEVの特質は、理屈では分かっているつもりでもなかなか身体がついていかない。だから、最初は圧倒的な速さに駆られるように加速を楽しんでいても、わりと早々に疲労困憊となってしまうのだ。
いっぽう最高出力125kW(170ps)のID.4ライトは、パワー/トルクがさほど高くないゆえに、路面や空気の抵抗の影響を受けとめてしまうのだろう。結果として、これまで慣れ親しんだICE車やハイブリッド車と大差ない、二次曲線的な加速フィールを体感させてくれる。それは、VWの目指すところである実用車としてはよく考え抜いた、とても好ましいチューニングと思われる。
とはいえ、高速道路であっても痛痒はまったく感じさせず、ちょっと気を緩めると驚くようなスピードが出てしまうくらいには高性能ながら、やはり調子によってアクセルを踏んでいると、バッテリー残量を示すゲージがみるみる減ってゆくのはやむをえまい。
角のとれた穏やかな乗り心地がライトの美点
そしてID.4プロとの違いをもっとも感じさせたのは、乗り心地を含めたドライブフィールである。小型化されたバッテリーパックはキャビン床下、リアを駆動するシングルモーターは後輪車軸の直前に配置。つまりは事実上のミッドシップであり、前後の重量配分も47:53というスポーティなスペックの持ち主ではあるものの、小心者の筆者が一般公道で走らせられる程度のペースにおいては、安定したハンドリングを披露する。
ただしこの安定性とは表裏一体で、乗り心地がけっこうハードなものとなるのは、ID.4に共通する特質。それでもID.4ライトに装着される前後とも235/60R18という、今どき珍しいほどに厚みのあるタイヤのせいなのか、路面の継ぎ目などでも体感するハーシュネスは、ID.4プロよりも明らかに角がとれた穏やかなものである。
VWではID.4を「背伸びをしない等身大の理想が叶う、人にも優しいEV」と自認しているのだが、ID.4ライトこそその精神をもっともピュアに体現しているかに感じられた。
一充電での走行可能距離がID.4プロよりも200km近くも低くなってしまうのは悩ましいところではあるが、長距離ドライブをあまり前提としない使い方であるならば、こちらのID.4ライトこそが、より「人に優しい」と思うのである。
試乗車の諸元
■VOLKSWAGEN ID.4 Lite フォルクスワーゲン ID.4ライト
・車両価格(消費税込):514万2000円 ・全長:4585mm ・全幅:1850mm ・全高:1640mm ・ホイールベース:2770mm ・車両重量:1950kg ・モーター最高出力:125kW(170ps)/3851-15311rpm ・モーター最大トルク:310Nm(31.6kg-m)/0-3851rpm ・バッテリー総電力量:52.0kWh ・ラゲッジ容量:543(1575)L ・サスペンション:(前)ストラット式、(後)マルチリンク式 ・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ドラム ・タイヤ:(前&後)235/60R18
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