クルマ所有の負担感
クルマ社会より「公共交通中心の社会」のほうがメリットは大きいのではないだろうか――。ソニー損保が2023年7月に発表した「全国カーライフ実態調査」によると、回答者の多くが、マイカーを維持するための費用になんらかの負担を感じていることが明らかになった。
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調査によれば、クルマの諸経費で負担に感じるもののトップは「自動車税」(68.6%)だ。次いで「ガソリン代・燃料代」(66.4%)、「車検・点検費」(61.0%)、「自動車保険料」(51.3%)と続く。いずれもクルマを所有する上で避けては通れない支出項目だ。
特に深刻なのがガソリン代だ。「ガソリン代・燃料代」を負担に感じる人の割合は、2021年の54.0%から2022年は68.1%へと急増。2023年も66.4%と増加傾向にある。ウクライナ危機や円安の影響でガソリン高が続いており、ドライバーの家計を直撃しているのだ。
そもそもマイカーを所有し利用している人は、年間でどれほどの支出をしているのだろうか。「全国カーライフ実態調査」では、
「平均月額1万3500円」
だとしている。ただ、これは保険料、ガソリン代・燃料代、駐車場代、修理代等の総額だ。実際には、これ以外にも税金などさまざまな費用がかかる。
クレジットカードを運営する三菱UFJニコスのウェブサイトでは、自動車の維持費は主に
・税金
・保険料
・メンテナンス費
・走行に必要な費用
の大きく四つに分けられることを説明し、これらを総合した軽自動車、小型自動車、普通自動車の年間維持費の目安は以下の通りだとしている。
・軽自動車:約37万~44万円
・小型自動車(1.3t):約44万~53万円
・普通自動車(1.9t):約52万~61万円
月額に換算すると、
・軽自動車:約3万1000~3万7000円
・小型自動車(1.3t):約3万7000~4万4000円
・普通自動車(1.9t):約4万3000~5万1000円
となる。日々の走行距離の違いによるガソリン代、地域による駐車場代の違いなどはあるが、いずれにしても、マイカーは、自由な移動できる反面、
「それなりの負担」
が強いられることは確かだろう。
地域別の移動費割合
一方、移動に公共交通を利用する場合、マイカーに比べると負担は軽い。
2022年の総務省の家計調査から「都市階級・地方・都道府県庁所在市別1世帯当たり年間の品目別支出金額,購入数量(二人以上の世帯)」を見ると、
・公共交通が発達している都市部
・マイカー依存度の高い地方都市
とでは、家計に占める移動にかかる費用の割合が大きく異なることがわかる。
東京都区部の場合、年間消費支出385万9597円のうち、移動にかかる費用(公共交通と自動車関連費の合計)は20万5230円で、消費支出の5.3%を占める。内訳は、
・公共交通費:5万2061円
・自動車関連費:15万3169円
となっている。
一方、富山県富山市を例にあげると年間消費支出380万1610円のうち、移動にかかる費用は38万9730円で、消費支出の10.3%に上る。内訳を見ると、
・公共交通費:1万3347円
・自動車関連費:37万6383円
を占めている。
ほかの地域を見ると福井市でも年間消費支出329万1587円のうち、移動にかかる費用は39万2372円で、消費支出の11.9%を占める。公共交通費は9724円なのに対し、自動車関連費は38万2648円に上る。
こうした数字から、公共交通が発達した都市部では
「移動費が消費支出に占める割合」
が低く抑えられている。一方で自動車依存度の高い地方都市では、移動費、実質的に自動車関連費の支出が高くなることがわかる。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、2022年の都道府県別の賃金(男女計)は、東京都が37万5500円と最も高く、富山県は28万1200円、福井県は28万3500円と東京都を大きく下回っている。収入が少ないにもかかわらず、マイカーという
「支出の多い移動手段に依存せざるを得ない」
のが地方の実情といえるだろう。「クルマは持たざるを得ない」という構造的問題が、家計を大きく圧迫しているのである。
那覇市「車中心」から転換
では、クルマから公共交通への転換をスムーズに進めていくにはどのような取り組みが求められるだろうか。
まず、自治体が中心となって、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりビジョンを策定することが重要だ。そのビジョンには、鉄道やバスなどの
・公共交通網の再編/強化
・駅周辺への都市機能の集約
・歩行者や自転車利用者に優しい道路環境の整備
など、多岐にわたる施策を盛り込む必要がある。これらは、一朝一夕には進まない。しかし、全国では地域の将来を考えて、マイカーから公共交通への転換を目指す、さまざまな試みが進んでいる。
栃木県宇都宮市で新たに開通した次世代型路面電車(LRT)の中心とした交通網の再編などがそれだ。沖縄県那覇市で計画されているLRT新設計画も、公共交通の利便性を高めることで、誰もが移動しやすい街をつくることを目的としている。
那覇市が進めるLRTの新設計画は、「車中心のまち」から
「人中心のまち」
への転換を図る市の交通まちづくりの一環として位置付けられている。
那覇市交通基本計画では、市民・行政・事業者の協働によるまちづくりと、市民ひとりひとりの意識改革・努力により「人中心のまち」を目指すことを根幹の考え方としている。そして、基本目標に
「誰もが移動しやすいまちをつくる」
を掲げ、その実現に向けた施策のひとつとして「公共交通利用環境の向上・充実」を掲げている。
知られざる副次的効果
LRTの新設計画は、この方針に沿った具体的な取り組みのひとつである。環境負荷が少なく、定時制に優れたLRTを市内の公共交通ネットワークの核として整備することで、クルマに過度に依存しない持続可能な都市交通体系の構築を目指しているのだ。
LRTを軸とした利便性の高い公共交通網を形成することは、クルマを利用しなくても快適に移動できる環境を創出し、クルマ依存から脱却した「人中心のまち」の実現につながる。同時に、
・都心部の渋滞緩和
・空気質の改善
・交通事故の削減
など、多岐にわたる副次的な効果も期待できるだろう。
また、公共交通を利用することには、移動時間を有効活用できるというメリットもあることにも触れておきたい。マイカーの運転では、常に前方に注意を向けていなければならず、他のことに集中することは難しい。しかし、電車やバスなら、運転から解放されるため、移動時間を自分の好きなことに使うことができるのだ。
例えば、通勤電車のなかで読書をしたり、外国語の勉強をしたりと、自己啓発に励む人は多い。スマートフォンを使って情報収集をしたり、音楽を聴いてリラックスしたりするのもいい。
このように、公共交通の利用は、出費以外でも常にハンドルを握り緊張を強いられるマイカーでの移動に比べてメリットのほうが大きいのだ。
求められる市民の意識変革
公共交通を再編するために行政が莫大(ばくだい)な支出をすることに対しては
「税金が上がる」
など不安を覚える人もいるだろう。しかし、整備が進めば、生活のなかで多額の固定費に苦しむことから解放され、浮いたお金で趣味や娯楽を楽しむことができる、ずっと豊かな人生が得られるのではないだろうか。
財布に優しく、身体に優しい暮らし――。それを実現する鍵は、ひとりひとりが公共交通への意識を高め、クルマとの付き合い方を主体的に変えていくことにある。
それを実現するための、公共交通を基本とした都市計画が、全国で進んでいくことを期待したい。
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みんなのコメント
今回のLRT開通で家からモールまでゆっくり行っても30分以内で快適である。
乗るのもSuicaなどで簡単に乗り降り出来るから苦では無い。 宇都宮市街地の移動も車より優先なので時間のロスも少ない。 これからは地方都市はLRTの普及が地域の活性化にも貢献するでしょう。
函館や広島、姫路なども路面電車が住民の足になっていると感じた。 マイカーと公共交通機関を上手く使い、快適な生活を送る時代になって行く事が望まれる。