2023年にフルモデルチェンジを迎えたトヨタ アルファード/ヴェルファイアの売れ行きが好調だ。なぜ“アルヴェル”の人気は高いのか? その歴史を辿り、人気の理由をみていくことにしよう。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産
エルグランドが先輩なのに…アルファード/ヴェルファイアがミニバン王者に!! なんで高級ミニバンの覇者になれたのよ
■最新の“アルヴェル”は何が変わった?
2023年6月にデビューしたトヨタ 新型アルファード。シリーズ通算4代目のモデルで、前モデルとなる3代目はモデル末期まで順調なセールスを重ねていた
トヨタの高級ミニバン・アルファードと、その兄弟車であるヴェルファイアの新型が発表されたのが2023年6月21日。同車のモデルチェンジは8年ぶりで、新型アルファードは4代目にあたる。
新型アルファード/ヴェルファイアの開発テーマは「快適な移動の幸せ」。振動&騒音対策、燃費や走りなどの基本性能を向上させつつ、内・外装デザインに高級感を持たせ、ゆとりの室内空間や使い勝手の良さも追求している。
今回のモデルチェンジでは、アルファードとヴェルファイアそれぞれの個性をより明確なものにしているのもポイントのひとつ。アルファードはよりラグジュアリーに、ヴェルファイアはアグレッシブな方向へと進化している。
新型の発表と同時に受注もスタートしたアルファード/ヴェルファイアだが、あっという間に当初の予定台数は完売してしまったという。先代モデルも高い人気を誇っていたが、今回はそれを上回る勢いもあるといわれている。
では、なぜここまで“アルヴェル”は人気を集めているのか? その歴史を振り返ってみることにしよう。
■満を持して誕生!! トヨタ初の高級ミニバン
2002年に初代モデルがデビューしたトヨタ アルファード。アルファードGとアルファードVの2つのモデルが用意された(写真はアルファードG MS)
アルファードの販売開始は2002年。このジャンルでは日産のエルグランドが先行していて、アルファードはエルグランドに遅れること5年でデビューした。
ライバルのエルグランドがFRだったのに対し、エルグランドではFFであった。それをベースにした4WDモデルを用意。FFベースで室内空間が広いことや、燃費や税制面で有利な2.4リッター仕様があることなどから、エルグランドを抜いて国内高級ミニバンのトップセールスモデルとなった。
初代のアルファードには、アルファードGとアルファードVの2モデルがあった。GとVは販売チャンネルが異なることに加えて顔つきにも違いがあり、高級感を全面に押し出したGと、若者層にアピールするいかついフェイスのVが、それぞれの個性を主張していた。
2008年には最初のモデルチェンジが行われ、アルファードVにはヴェルファイアの名称が与えられて独立した車種となった。プラットフォームや多くのコンポーネンツを共用する兄弟車なのは変わりがないが、外観上の違いはより大きくなった。
2015年に2度目のフルモデルチェンジを実施。アルファードは3代目、ヴェルファイアは2代目モデルが登場した。このモデルチェンジはミニバンではなく高級車のイメージを重視したもので、アルファードは「豪華・勇壮」、ヴェルファイアは「大胆・不敵」がテーマだった。
実は、ヴェルファイアはともかく、アルファードがより高級路線へと進化したのは次に説明する理由があった。
■ファミリーカーからショーファーカーへ
2008年に販売が開始された2代目トヨタ アルファード。プラットフォームも一新した完全新規開発車であり、トヨタのこのモデルに対する意気込みがうかがえた
高級とはいえ、ミニバンとして登場したアルファードは、本来ファミリーや大人数で使用するためのクルマだった。だが、このアルファードの特性を意外な方向で生かした利用法が生まれてきたのだ。
2023年4月までトヨタの代表取締役社長を務め、現在は会長の地位にある豊田章男氏は、役員時代の2004年に、仕事に使うクルマをそれまでのセダンからアルファードへと変更した。
会社の重役などが、運転は専任のドライバーに任せ、自身は後部座席に乗って移動するクルマをショーファーカー、またはショーファードリブンなとどと呼ぶが、このショーファーカーには長年セダンが使用されてきた。
だが、章男氏はアルファードの室内空間の広さに注目した。まずは広い車内でゆったり仕事ができること、余裕のある空間はくつろぐにも最適なこと。そして必要ならば車内で着替えもしやすいなどがショーファーカーにうってつけだったのだ。
章男氏の乗り換えがきっかけになったのかは不明だが、高級ミニバンをショーファーカーとして使用する流れは一気に進み、現在では多くの会社重役や芸能人などが高級ミニバンを利用している。
アルファード/ヴェルファイアはこうしたニーズをうけて、より快適になるよう進化を続け、最新モデルでは日本ならではの「おもてなし」をベースにした機能が多数盛り込まれている。
■生き残ったヴェルファイア
2023年に発表された新型トヨタ ヴェルファイア。一時は存続の危機もささやかれたが、継続が正式に決定し、多くのヴェルファイアファンから歓迎されている
それまでアルファードはトヨペット店で、ヴェルファイアはネッツ店でのみ購入が可能だったのだが、この方針転換によってユーザーの選択肢は一気に広がった。
顧客側にも“馴染みの店”はあり、それがネッツ店だった場合、どうしてもヴェルファイアを選択せざるを得ないこともあった。もちろん、その反対のケースもあったわけだが。
アルファードよりもアグレッシブなイメージのあるヴェルファイアは、一時期はアルファードを上回る販売成績を記録していた。しかし、2017年のマイナーチェンジで少々やりすぎた感はあり、あまりに“ヤンチャ”になったヴェルファイアを敬遠する顧客も現れた。
その結果、モデル(世代)末期となった2022年の販売台数はアルファードの約6万台に対し、なんと2200台と大きく水を開けられてしまった。つまり従来はヴェルファイアを選択していた層がアルファードに流れたということになる。
販売の低迷により、2023年のフルモデルチェンジではヴェルファイアがなくなるというウワサまで出る始末となった。だが、実際はアルファードと同時にヴェルファイアの新型も発表され、ヴェルファイアファンの心配は杞憂に終わった。
火のない所に煙は立たぬというだけあって、トヨタ社内でヴェルファイア廃止が検討されたのが事実だったことは2023年6月の発表会で明らかになった。
ヴェルファイア廃止案に対して、開発チーム、経営陣、販売店から多くの反対の声が上がり、それを受けて存続も決定。ヴェルファイアには支持者も多いことが証明された。
■“アルヴェル”の覇権は今後も安泰なのか?
高級ミニバンカテゴリーでは圧倒的なシェアを誇るトヨタ アルファード。2023年6月発表の最新モデルも、受注開始直後に完売となるなど、その人気は健在
新型のセールスも好調なアルファード/ヴェルファイアだが、いったいこの人気はいつまで続くのだろうか?
もちろん未来のことは誰も正確に予測できない。だが、現在の状況を見ると、両車の人気はしばらく続くとみて間違いないだろう。
現在のミニバンはSUV人気に押され、かつてほどのシェアを確保できていないとも聞く。しかし、アルファード/ヴェルファイアは、それまでにあまり例のなかった高級ミニバンというジャンルを確立し、独り勝ちの状態になった。
好調な売れ行きはメーカーに利益をもたらし、それが次期モデル開発資金にもなる。つまり、現行型のアルファード/ヴェルファイアが売れ続けるかぎり、その王座は当分安泰と考えてよい。
とはいえ“アルヴェル”をひとくくりで考えると、ライバル不在の状況はあまり健全とはいえない。ここはひとつ、他メーカーからの強力なライバルの出現を期待したい。それが最終的にアルファード/ヴェルファイアのさらなる進化にもつながるはずだ。
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みんなのコメント
ミニバンで走りを売りにして日産とホンダは終わったんです。
ドライビングプレジャーとかを求める層に訴えても、中途半端で売れません。
トヨタが良いとは言わないが日産が自滅しただけ、オウンゴールって感じかな