ゴールデンウィーク明け、みなさんはいかがお過ごしですか?筆者の住むドイツの首都ベルリンは、一時期春らしく暖かくなったものの、先週くらいからまた冬の寒さに逆戻り。コンスタントに日中20度を超える日はいつ頃やってくるのでしょうか…。
そんな寒空の下、個性的な顔立ちと優美なスタイリングが特徴のセダンと出会いました。日本での中古車市場ではほとんど見られなくなってしまった、隠れた名4ドアセダン「ローバー・75」を今回はご紹介します。
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BMWの技術が活かされたFFセダン
イギリスの自動車業界は、特に1990年代以降買収が進み、独自経営を守るメーカー・ブランドはほとんど見られなくなってしまいました。1904年に初の4輪自動車を発売した歴史ある自動車メーカー・ローバーも、相次ぐ買収ののち消滅してしまった会社のひとつです。2019年現在、ローバーの商標権、つまりロゴとブランド名は、ジャガーランドローバーを保有するインドのタタ・モーターズが所有していますが、ローバーの名前を持つクルマは生産されていません。
ローバー・75がデビューしたのは1998年のイギリス・モーターショーで、1999年に入ってから販売が開始されました。ホンダと提携関係にあった中で開発されたクルマ、ローバー・600、ローバー・800の後継車として登場し、ローバーの新たなフラッグシップモデルとして君臨しました。
シャシーは全くの新設計で、フロントエンジン・フロントエンジン・レイアウト。FFでありながら、当時の親会社であるBMWの技術が活かされ、足回りや駆動系、エンジンなどに影響が見られます。
魅力的なインテリア
クルマのデザインを担当したのは、ローバー・デザインセンターのリチャード・ウーリー。彼は前身モデルのローバー・600のデザインも担当していて、イギリスらしいクラシカルなデザインを得意としていますが、ローバー・75でもその才能を遺憾なく発揮しています。優美で滑らかなボディラインと、個性的かつクラシック、そして新しさをも内包したフロントマスク。イギリス車伝統のクロームパーツを決して下品ではなく、上品に、そして控えめに配して、クルマ全体の気品を引き立てています。
ローバー・75にはステーションワゴンタイプの「ツアラー」モデルもラインナップされていましたが、こちらのデザインもただセダンの後部を伸ばしただけではなく、きちんとデザインされた、バランスの取れた美しさに定評がありました。ドイツでは「ツアラー」の方が多く見かけるかもしれません。
ローバー・75最大のセールスポイントといえば、イギリスの伝統をしっかりと受け継いだ、美しいインテリアに尽きるでしょう。磨かれたウォルナットがふんだんに使用されたダッシュボードの中央には、真円のアナログ時計。スイッチやエアコンの吹き出し口は楕円でデザインされ、乗る人に優美な印象を与えます。メーターパネルは機械式腕時計を彷彿とさせるデザインで、照明を点けると柔らかなオレンジ色に輝き、ほどよい固さの本革シートにはしっかりパイピングが施されているなど、古き良きイギリスの高級車の文法に則った非常に魅力的なインテリアとなっています。
極端に短い、日本での販売期間
日本では1999年の導入後、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど非常に高い評価を受けましたが、2000年頃にBMWがローバー部門を撤退したのちに一旦輸入が中止されました。2003年から再び輸入が再開され、2004年にフェイスリフトを含むマイナーチェンジを受けてから、わずか1年後の2005年にMGローバーの経営破綻で生産中止となってしまいます。日本ではアフターサービス上の問題から販売台数は伸び悩み、今では中古車市場でもほとんど見かけません。
ドイツにおいても、日本ほどではないものの珍しいクルマであることには変わりなく、それにもかかわらず比較的安価で取引されています。クラシカルな見た目とは裏腹に、一旦走り出せばストレスのないスムーズなハンドリングも特徴だったローバー・75。イギリスの古き良き伝統を感じさせるこんな小粋なセダンが、今後再び登場することはあるのでしょうか。約21万台が生産されたこのクルマのうち、少しでも多くの個体が残ってほしいと願うばかりです。
[ライター・カメラ/守屋健]
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