走るシーラカンスに試乗 ロシアが作るバン、UAZ
掲載 更新 carview! 文:小沢 コージ /写真:中野 英幸
掲載 更新 carview! 文:小沢 コージ /写真:中野 英幸
今の生活すべてがそうだが、漠然と昔は良かった…そう感じることは少なくない。どこへ行っても自動ドアがあり、今年は違うが夏に暑ければクーラーがギンギンに効き、自販機で冷たい飲み物も温かい飲み物もいつでも手に入る世界。コンビニは24時間オープンで、たかが130円の新聞を買っただけで店員は丁寧にお礼を言ってくれ、ユニクロに行けば、クオリティの高い服が異様にリーズナブル価格で手に入る。
確かに便利になった。安全にもなった。不満はない。でも、“なぜか燃えられない”と言う人は多いだろう。
でも、それは当たり前なのだ。なぜならば、人間は満たされた瞬間に停滞するのだから。ダメな政治システムも含め、今の日本の世の中は戦後の先人達、つまり俺たちのおじいさんおばあさんであり、両親たちが作り上げたものだ。より便利に、よりラクに、より安全に、それを突き詰めた結果なのだ。
だが、それはある種強烈な矛盾だが、生活をつまらなくした。生きる喜びを減らした。ある種のダイレクトに心に突き刺さる刺激を無くしてしまったのだ。それはアクを取りすぎるがあまり、コクを無くした料理のようで、誰が悪いというより、仕方のない部分で、たぶんどこかやりすぎたのだろう。
だから俺は思うが、今、敢えて携帯電話を止めてみる、敢えて毎日風呂に入らない、断食をする…そういうような行為が必要なんだと思う。そうしないと人間は生来持っていた感覚を忘れてしまうからだ。
きっと今、UAZに乗るというのはそういうことだ。「馬鹿だな」「なんでこんな不便なクルマに」という人もいるだろうが、それを自覚的にすることなのだ。
お値段は後付けクーラー、後付けパワステも付けられるが、それナシで278万円。高いと言えば高いし、安いと言えば安い。まさに苦労を金を出して買うような行為に他ならない。
でもこれに乗れば、きっと何かが取り戻せるし、何かを思い出すはず。
俺は、UAZから降りる時、運転席側の低すぎるドア開口部に頭をぶつけてしまった。正直、結構痛かった。でも、それを不思議と面白く感じてしまった自分がいた。
ヘンなクルマがあったものだと思う。そして、まだあって良かったと思っているのだ。
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