五木寛之インタビュー・著書『雨の日には車をみがいて』で読み耽るレシプロ黄金時代の名車の魅力
掲載 更新 carview! 文:杉山 元洋/写真:望月 浩彦 27
掲載 更新 carview! 文:杉山 元洋/写真:望月 浩彦 27
今年90歳を迎える五木さん。免許は65歳のときに「馴染みの道を正確にトレースできなくなり、新幹線から駅の看板の文字が読めなくなった」のを期に返納されている。五木さんにとって車は、“はるか遠くへ移動できる自由を保証してくれる存在”だった。
「運転をやめたとき、男としての人生が終わり、長年の友と別れたような喪失感を味わった。同じように車を降りた北方謙三さんにそう話したら、“最後のマセラティを手放すとき、大好きなワインをタイヤに注いで送り出した”なんて言う。キザだけど彼らしい車人生の終え方だと感心したよね」(五木さん)
無粋を承知で「一番印象に残っている車は?」と訪ねた。
「それは難しい質問だね。“出来のわるい子供ほどかわいい”なんて言葉があるけど、大衆車でも高級車でも、大きくても小さくても、車にはそれぞれに何かしら個性や魅力があって面白かった。とても一台は選べません」と嬉しそうに笑う。
「車に乗り始めたころは、まず加速感に惹かれる。次にブレーキングの味わいが気になりだし、やがてサスペンションの挙動にこだわるようになる。でも最終的には姿の美しさにたどり着くのかもしれない」と五木さん。
車を降りた後も、街を走る車を眺めるのが大好きだという五木さんが、とりわけ美しい車だと思い起こすのは、第4話『バイエルンからきた貴婦人』に登場するBMWの2000CSクーペだ。
「動力性能の高い車は優雅さに欠けることがある。けれど、ピラーレスのこのクーペに乗り込むと、ヨットに乗っているような優雅さを感じた。フロントからテールまで走るラインの美しさは、停まっている車をいつまでも眺めていたくなるほど」(五木さん)
「“いい車は真上から見ても美しいんだよ”と徳大寺有恒さんが教えてくれたけど、みんなそれぞれに“愛車の一番美しく見える角度”にこだわりがあるはず。自分の車に乗り込むときに見とれてしまうようなね」と五木さんは笑う。
>>底しれぬ悪魔のような黒いメルセデス
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