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シトロエン 2CV、愛しきフランスの大衆車

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シトロエン 2CV、愛しきフランスの大衆車

シトロエン 2CV、大好きです!


岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第187回

価格は31億円!? 「ロールス・ロイス」が製造した究極のフルオーダーモデルとは?


初めてシトロエン 2CVに触れたのは1959年、19才の時だった。

前にも書いたが、2CVという、当時としてはとんでもないクルマで大学に通ってきていた女性(後の家内)に、声をかけたのが始まりだった。

2CVに惹かれたからか、彼女に惹かれたからか、、どちらだったかは忘れた。たぶん、どちらもだったのだろう。

声がけはうまくいって、彼女とはすぐ仲良くなった。当然、2CVにも乗せてもらった。

2CV、、なんといったらいいのか、、もちろんその存在は知っていたし、いろいろな意味で「すごいな~!!??」とは思っていた。でも、あくまで「遠い存在」であり、自分が当事者になることなど夢にも思わなかった。

彼女は知り合ってすぐ、「運転したければどうぞ!」と、2CVのキーを渡してくれた。
そして僕も、遠慮なくキーを受け取った。

デビュー当初は、「醜いアヒルの子」とか「ブリキの缶詰」とか、その容姿は散々な評価だった。が、フランスの大衆は大きく手を広げて迎えた。販売直後から、大量の注文が殺到したという。


僕も多少の困惑はあったものの、ほのぼのとした容姿には、ポジティブな印象を抱いていた。ハッキリした理由は言えないが、なにか惹かれるものを感じていた。

外から見てある程度予想してはいたものの、キャビンの広さと快適さに、まず驚いた。
特に天井が高いのが心地よかった。

キャンバストップは、軽量化と車内騒音を逃す目的で採用したとのことだったが、僕には、とてもオシャレでカッコよく見えた。

キャンバストップは大きく開くので、開放感は抜群。気持ち良いことこの上ない。僕がキャンバストップ好きになった理由のひとつが2CVにあるのは間違いない。

シートは、細い鉄パイプのフレームに薄いクッションを貼り付けただけのようなものだった。でも、僕の目には、貧弱にも安っぽくも見えなかったし、とても気に入ってしまったのはなぜだろう。

そして、座ったら、さらに気に入った。こんなペラペラなシートが、どうしてこんなにも座り心地がいいのか、、呆気に取られたことを覚えている。

運転席周りも「見事に簡潔!!」。ステアリングホイールは、つっかえ棒のような細いスポークが中央部を横切るだけ。速度計は、小さなカップ状のものが、Aピラーに「とってつけたように」取り付けられていた。

フランスでは、「スピードは出ないから速度計は不要!」だったという。が、日本ではそうもいかず後付けした。なので「とってつけたような」は正しい表現ということになる。

フラットなフロントウィンドゥの中央下部にはノブがあり、それを回すと、ガラス下部が押し出されて、キャビンに風が入ってくる。


リアドアの窓はハメ殺しで、フロントドアの窓は中央部にヒンジがあり、下半分がハネ上げられるようになっている。

これが「2CV流エアコンディショナー」のすべてだが、けっこういい感じ。キャンバストップとの組み合わせによる、「風と一緒に走る心地よさ」が、僕はかなり気に入った。

2CVに初めて乗せてもらったのは初夏。だから、開けられるところはすべて開けて走ったはずだが、とても心地よかったことを覚えている。

「風音がうるさいだろう」との声も出そうだが、2CVに乗っていると、そんな「些細なこと?」など、どうでもよくなる。

スピードも出ないし、風音がうるさいとかいうよりも、風を全身に纏って走る心地よさに、より強く惹かれたのではないかと思う。

2CVには当然ヒーターもクーラーもなかったが、1度、真冬に奥日光まで行ったことがある。その時は「ランタン型灯油ヒーター」を積んでいき、暖をとった。

クルマの中、灯油ランタンで暖を取る、、。暖かかったのか、そうでもなかったのかは思い出せない。でも、「そんな行為」が頭を過ぎると、妙に心が温かくなる。とても大切な思い出だ。

彼女の(正確には彼女の兄の)2CVが何年式だったかは覚えていない。が、1958年に中古で買ったということだったので、54~55年辺りのモデルだったのだろう。

とすると、ボディは3730✖️1480✖️1600のサイズだったことになる。全長も全幅も小さいが、全高は頭抜けて高い。

この全高の高さが2CVを大きく感じさせることは確かで、僕の記憶には「小さいクルマ」といった印象はまったくない。

すでに触れたように、キャビンもとても広く感じられた。これも、多くは高さがもたらしたものだろう。

「大人の男がシルクハットを被っても乗れる天井の高さ」が、開発時の重要な命題のひとつだったとされるが、頷ける。

加えて、内装にしてもシートにしても、機能上必要なもの以外は一切切り捨てる、、いわば、「究極の合理的デザイン/設計」がもたらしたものでもあるはずだ。

当然ながら、車両重量も極めて軽い。375ccの初期型は495kgとされるが、家内が乗っていた425ccモデルは520~530kgくらいだったのだろうか。ちょっと信じがたい重量だが、425cc/12HPのエンジンであれば、軽量化の達成も必須の課題だったのだろう。

水平対抗2気筒エンジンは、上記のように非力。最高速度は75km/hとされたが、僕の記憶では、そんなには出なかったように思う。もし出たとしても、かなりの助走距離が必要だったはず。

なので、街走りでも「いつも全開!」。まずは流れに乗り遅れないよう全開でスタートして、流れに乗ったら調整する、、そんなイメージだ。

トランスミッションはシンクロメッシュ(2速以上)付きの4速。当時としては贅沢なスペックだが、4速は、非力なエンジンをカバーするために必要だったのだろう。

ダッシュボードから突き出したようなシフトレバーの操作パターンも独特だった。でも、僕はその操作が楽しかった。彼女に「初めからミスなし!上手いわね!」と褒められ、得意になったことを覚えている。

空冷水平対抗2気筒エンジンは、パワーはないしうるさかった。でも、「どのみち静粛性や遮音性とは無縁のクルマ」との思いがあったせいだろう。まったく気にならなかった。

というよりも、バサバサ、パタパタした音が愛おしく思えるほどだった。本来なら「遅くてうるさい」クルマなど乗りたくないと思うのだろうが、僕は2CVが大好きになった。

Wikipediaによると、「1930~40年代のフランスの農村は近代化が遅れ、日常の移動手段は、手押し車や牛馬の引く荷車に頼っていた」とのこと。そこで、シトロエンは、そんな農民向けに2CVを開発したのだという。

それを裏付けるものとして、「50kgのじゃがいもを載せて走れること」、「荒れた農道でカゴいっぱいの生卵を載せて走っても、一つも割れないこと」といった目標が立てられたという。

今聞くと思わず笑ってしまいそうになるが、非常にわかりやすくて、ほのぼのしていて、でも真剣で、、素晴らしい目標だと思う。

エンジンを前後に積んだ「4✖️4 サハラ」にも乗ったことがあるが、大きなアップダウンのある砂地での走破力は驚異的だった。まさに地の果てまでも走っていけそうだった。

2CVは今や「合理的で粋でなフランス車」の右代表的存在だが、開発のスタート時は「50kgのじゃがいもが積める農民のクルマ」だった、、いい話ではないか。

そして、2CVは広く大衆に受け入れられ、やがて、フランスの日常的光景になり、ヨーロッパの光景にもなっていった。

2CVは基本的モデルチェンジもないまま、1949年から1990年までに390万台が、そして派生モデルも125万台生産されたという。偉大なクルマと言っていい。

家内と出会った当時の2CVに、家内と一緒に乗って「全開で!」走ってみたいものだ。
きっと、楽しくハッピーな気持ちになるだろう。いや、100%そうなると思う!!


● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト


1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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みんなのコメント

4件
  • とても素敵、シンプルに本物の実用性をもとめれば、それは最高のお洒落なになるのかな。
    死ぬまでに一度は乗ってみたい♩
  • 今は家の都合で中古のC4ピカソですが、その前に20年ほど「2CV」に乗ってました。シンプルだけど存在感のあるデザインが気に入ってました。屋根を開けての温泉旅行、海辺の道のドライブなど非常に楽しかったですね。普通のクルマだと単なる「移動」が2CVだと「娯楽」になる感覚...また乗りたいクルマです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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