どんなクルマ?
text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)
【画像】TクロスTSIファースト・プラス/ポロ1.0 TSIハイライン【比べる】 全45枚
photo:Keisuke Maeda(前田恵介)
商品説明によると「T」が「小さい」と解釈できる、英語ならばタイニィ(tiny)か、とも思ったのだが、「T」にとくに意味はないそうだ。SUVは頭文字を「T」とするVWのこだわりに則したとのこと。
車名の由来はともかく、「小さい」はTクロスにとって重要である。
プラットフォームも含めてハードウェアの構成はポロをベースとする。車体平面寸法は、全長が55mm、全幅が10mm拡大されるが、ホイールベースは共通。全高を除けば艤装レベルのサイズ差しかない(Tクロスの全長×全幅×全高:4115×1760×1580mm)。
全高は130mm増。ルーフレールや増加した最低地上高を除いても、室内高は50mm以上拡大した考えられる。外観を見れば瞭然だが、プロポーションは大きく変化した。この辺りはポロのボディシェルを用いてSUV側にシフトしたクロス・ポロと異なる部分だ。
実際に乗り込んだ印象でもポロよりキャビンが一回り大きくなったように思えた。
内装 持ち味は見晴らし性
高いアイポイントと傾斜の減少したフロントウインドウにより前席からの見晴らしも向上しているが、その変化は後席のほうが大きい。
膝前スペースはポロから大きく変化していないものの、天井の圧迫感の減少やサイドウインドウからの見晴らしの向上で開放感が高まっている。クロスオーバーSUVであるとともに、見晴らしが魅力の高アイポイント車でもある。
SUVとして注意しなければならないのは駆動方式。2WD(FF)に限定される。
ベースとなったポロに4WD車がラインナップされず、4WDが必須となる用途までは想定していないとのこと。もっとも、下回りがしっかりしていればFFでもかなりの踏破性を期待できるが、その目安となる最低地上高は未発表。
VWの方針らしいが、仕方がないので床下を覗いてみると、主構造部では180mmくらいはありそう。大径タイヤの装着による拡大代は15mmくらいなので、サス設定は悪路対応したTクロス専用なのだ。
ポロから“進化”した点
今回の試乗では悪路走破性を試すことはできなかったが、泥濘でもなければ多少荒れたダート路くらいはそう困難はないだろう。同時にそれは一般的なアウトドアレジャー用途に十分なことを示す。
どちらの視点でも少々中途半端な感は否めないのだが、レジャードライブの楽しみを向上させるのは間違いなく、SUVブームに乗ったわけでもなく、実用性や居心地の方向でポロから進化したモデルと捉えるには十分。
生活の楽しみを拡げる小さくて便利なクルマ、言い方を換えるなら新しいスタンダードの提案である。
どんな感じ?
パワートレインの構成は1L 3気筒ターボに7速DSG(DCT)。ポロの標準型と同系統のパワートレインだが、エンジン単体はアップ! GTIと同じ高出力型。
ポロに比べると最高出力で21ps、最大トルクで2.5kg-mも向上。車重はポロ対比で110kg増加しているが、パワーウェイトレシオもトルクウェイトレシオも上回る。
タイヤ周長も含めた総合変速比も多少低め、つまり加速志向となっている。常用回転域の低下と加速性能の向上が主目的と思われるが、極低速域での取り扱い、つまり悪路を慎重に走らせる時にも有効な設定である。
ただし、変速比の差は大きめに見積もっても3~6%程度である。そのとおり、パワーフィールはポロによく似ている。
軽快、DSGはリズミカル
アクセル開度変化が穏やかで比較的安定している時には、ダウンシフトを堪えてトルクに任せた制御。アクセル開度や速度の変化が大きくなると、早めのダウンシフトでアクセル開度変化を抑えるとともに伸びやかな加速感にシフト。
以前のVW車に比べると余力感は多少減少したが、ドライブフィールが軽快になって、いい意味でコンパクトなSUVらしい。
駐車場での取り回しなど停車から微速を多用する状況や坂道発進での滑らかさではトルコン式のATに多少劣るものの、DSGの歯切れいい変速フィールは山岳路でのドライビングをリズミカルに楽しませてくれる。
実用的かつファントゥドライブなパワートレインである。
足のセッティングについて
フットワークは、試乗車が215/45R18を履くTSIファースト・プラスだったこともあるが、ファミリー&レジャー用途よりも高速ツアラー的な印象が強い。GTI系のVW車ほどではないが、ポロやゴルフの標準系より引き締まった印象である。
高くなった重心高を、あるいは沈み込みストロークを抑え込んだサスチューンにより、切れのいいハンドリングを示す。しかも、ヨー方向の動きを誇張するような表層的軽快感ではなく、前輪に荷重を掛けて深く刻み込むような操縦感覚。
アンジュレーションのある高速コーナーでも方向性の揺らぎは少なく、ライントレース性に優れた弱アンダーステアを維持。コーナリング中の加減速も同様の安定性を発揮し、初見の山岳路でも安心してハイアベレージを維持できる。この辺りの特性はGTI系の血筋を感じてしまう。
路面アンジュレーションなどの煽られるような状況での落ち着きはすこぶる良好だが、路面の継ぎ目などの段差乗り越えでは突き上げが目立つ。つまり乗り心地もGTI的である。
付け加えるなら悪路踏破性を考えると、沈み込みの硬さはロードクリアランス確保に多少役立つが、ロールは締めすぎと思われる。まぁ、悪路に関してはサスチューンの適不適が大きく影響しないレベルの荒れ具合が、Tクロスの射程距離内というわけだ。
「買い」か? ポロとの価格差
走りの適性を「日常と市街地」「高速長距離」「ラフロード」「オフロード」の状況で重み付けするなら、「8/10/5/1」くらいの感じである。日常用途に使いやすいコンパクトサイズで高速ツーリングも得意。キャビン実用性は一般2BOX系と同等以上。
と、ここまではポロと丸被り。オフロードまでは考えないにしても、ラフロード性能がオマケで加わる。
ACCを標準装着する「ポロ」のTSIハイラインは税込で約276万円。
Tクロスのベーシック仕様でも、同等以上の安全&運転支援装備が装着されて約300万円。上級設定のTSIファースト・プラスならLKAも標準装着されている。
同等装備におけるポロとTクロスの価格差は、多めに見積もって15万円あるかどうか。SUVあるいは高性能型エンジン搭載だからプレミアム価格、という値付けではない。
コストパフォーマンスで見ても…
安心の高速ツアラーとしてフォルクスワーゲン車を選ぶユーザーにとって、Tクロスは十二分に魅力的であり、コンパクトカーとしては内外問わずに安全&運転支援装備も充実している。国産車に比べると高価と言っても、性能や装備内容からすれば納得できる範疇。けっこうコスパが高い。
代々ポロやゴルフはコンパクトカーの基準器であり、それは今も変わらない。ただ、それはウェルバランスという意味でもある。そこを違えずにSUVの要素でレジャー用途向けの実用性や雰囲気が付加されれば、そっちのほうが魅力的に思えても当然。もちろん、100%オンロード志向なら話は別だが。
4WDと組み合わせてシャシーもオフロード対応にしたとすれば、経済性やスペース効率が低下する可能性が高く、FFだけで纏めたのはレジャー用途込みのウェルバランス。この辺りが冒頭で「新しいスタンダードの提案」と記した理由である。
目先を変えたクルマの楽しみ方もちょっと興味があるという実践派ユーザーには魅力的な存在である。
試乗車スペック
TクロスTSIファースト・プラス(導入記念特別仕様車)
価格:335万9000円
全長:4115mm
全幅:1760mm
全高:1580mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:16.9km/L(WLTCモード)
CO2排出量:137g/km
車両重量:1270kg
パワートレイン:直列3気筒ターボ999cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:116ps/5000-5500rpm
最大トルク:20.4kg-m/2000-3500rpm
ギアボックス:7速DCT
乗車定員:5名
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みんなのコメント
クロスオーバーSUVとは気分的なものなので、アウトドアライフするでなければどうなんだろうね。