スバルを救ったツーリングワゴン
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Masakatsu Sato(佐藤正勝)日本車にとって1989年は特別な年といえる。
初代のマツダ・ロードスター、スカイラインGT-R(BNR32)、MR2(SW20)、フェアレディZ(Z32)、初代セルシオ、そして初代となるスバル・レガシィといった後世に名を残す名車がデビューした年だからである。
1980年代、日本の自動車メーカーは右肩上がりの景気の波に乗り、過去最高の収益を記録し続けていた。
だが旧態依然としたラインナップしか持ち合わせていなかった富士重工業(現在はSUBARUに商号を変更)だけは流れに乗り遅れつつあった。
そこで満を持してデビューしたモデルがレガシィだった。
パワートレインはスバルの伝統として定着していた水平対向エンジン+AWDシステムという、いわゆるシンメトリカルAWDだが、なにより話題をさらったのはそのスタイリッシュな外観だった。
レガシィには4ドアセダンとツーリングワゴンという2種類のボディ形式が用意されていたが、人気を牽引したのはツーリングワゴンの方だった。スキーをはじめとするアウトドア・ブームやRVブームと相まって、スバルにとってレガシィはまさに起死回生の1台となったのだった。
1989年から販売を開始した初代レガシィは1993年に2代目へとバトンタッチしている。パワートレインやプラットフォームといった主要コンポーネンツを初代から引き継いだ2代目レガシィは、デザイン的なインパクトこそ若干薄れたように見えたが、初代が切り開いたマーケットを受け継いで、スバルの躍進を支えるヒット作となったのである。
銘機が刻んだ280psの金字塔
現在では6代目まで代替わりが進んでいるレガシィにとって最新の話題は、スバルの基幹エンジンであるEJ20の生産終了が発表されたことだろう。
初代レガシィとともにデビューした水平対向4気筒エンジン、EJ20は、レガシィやインプレッサのパワーユニットとしてWRCのマニュファクチャラーズ・タイトル連覇の陰の功労者でもあったのである。
2代目レガシィにもキャリーオーバーされたEJ20エンジンは、2Lという排気量はそのままに、ターボ等のセッティングによって市販モデルでも徐々に最高出力を高めていった。
デビュー当時は220psだったが、2代目レガシィでは250psに達し、さらにその後期型では2Lの市販車として初めての280ps(自主規制値)を達成したのである。
デビュー当時は個性が弱まったように見られていた2代目レガシィのスタイリングだが、特にツーリングワゴンは現代の眼で見てもそれほど古さを感じさせないから不思議だ。
全体的に角が丸められ微かにサイズアップしているが、それでも5ナンバー枠(すでにサイズ縛りではなくなっていたが)ギリギリに収まるように設計されていた点も実用性の面で高い評価を得ていた。
2代目レガシィのスタイリングを完成させたのはメルセデスからスバルにやってきて、そのあと再びメルセデスに帰っていったフランス人デザイナー、オリビエ・ブーレイである。
レガシィ30年の歴史を振り返る1台
今回撮影車輛として借り出したレガシィ・ツーリングワゴンGT-Bのオーナーは、なんとスバルである。自動車メーカーが自社の過去のアーカイブを研究実験用に維持している例は珍しくないが、これを広報車として貸し出しているのは稀だ。
スバルは今年、歴代のレガシィを確保してメンテナンスを施し、30年前にはじまった革命を振り返ろうとしているのである。
2代目レガシィはデビューから3年後の1996年にマイナーチェンジが施されており、ツーリングワゴンのGT-B(のMTモデル)とセダンのRSに280ps版のEJ20が搭載されている。
またGT-BとRSにはビルシュタインの倒立ダンパーが標準装備され、リアに大型のエンブレムが掲げられたことでも話題を呼んだ。
初代レガシィはステーションワゴンに対するバンや商用車といった旧いイメージを払拭し、2代目は動力性能と運動性能を高めスポーツワゴンというカテゴリーを定着させたことで後世に語り継がれる1台となっている。
2代目レガシィの功績はもうひとつある。クロスオーバーモデルとしておなじみのアウトバックは、2代目をベースに誕生しているのである。
1995年にデビューしたレガシィ・グランドワゴンは車高を上げたレガシィであり、その後のレガシィ・ランカスター、レガシィ・アウトバックと命脈をつなぎ、ステーションワゴン・ベースのSUVというひとつのカテゴリーを作り出しているのである。
では26年前にクルマ好きを騒がせたハイパワーモデル、レガシィ・ツーリングワゴンGT-Bを試乗してみようと思う。
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