Audi AI:TRAIL quattro
アウディ AI:トレイル クワトロ
アウディの次世代バギーコンセプトに見る、EVとオフローダーの親和性【フランクフルトショー 2019】
「空飛ぶ目」兼ヘッドライト役にドローンを
アウディは、第68回フランクフルト・モーターショーで電気自動車のオフロードコンセプト「AI:トレイル クワトロ」を公開した。
全長4.15m×全幅2.15m×全高1.67mの4人乗りオフローダーは、「quattro」の名前のとおりアウディを象徴するフルタイム4輪駆動方式を採用。最低地上高は340mmで、水深約500mmの渡河性能をもつ。
フロントウィンドウはヘリコプターの風防のようにコクピットを包みこみ、前方・側方ともに広大な視野を確保。観音開き式のサイドドアにもリヤセクションにもガラスを積極的に採用し、全周に圧倒的な視界を作り出した。
人間側からの「見る」だけでなく、機械側の「見る」にも注目したのがAI:トレイル クワトロ最大のハイライト。プロペラのないLED付き電動ドローンを5機装備し、それらを「空飛ぶ目」として活躍させるという提案だ。
羽根なし扇風機と同じ原理で揚力を発生するドローンは、車両前方を照射しながら飛行。これによりヘッドライトが不要になるだけでなく、撮影画像をWiFi送信してディスプレイに表示できるので全方位の状況を“目視”することができる。
ドローンは完全自動操縦で、最少2台、最大5台までが必要な照度や照射面積に合わせて飛行する。車両のルーフラックもしくはルーフには非接触充電システムを搭載しており、必要に応じてドッキングする仕組みになっている。
オフロードでも250km走行が目標値
モーターは各アクスルに、バッテリーはフロアと一体化し、最大システム出力が320kW、最大トルクは1000Nmを発生。航続距離はWLTPモードで400~500km、ホイールが空転しやすいオフロード走行でも最大250kmを目標にする。ハイテクスチールやアルミニウム、カーボンファイバーを各所に採用することで、大容量バッテリーを搭載しながら車重も1750kgに抑えた。
サスペンションは前後マクファーソンストラットで、減衰力を連続的に可変する電制アダプティブダンパーを備える。850mmの大径タイヤを装着し、ホイールは22インチ。タイヤにはセンサー制御による可変空気圧調整機能を搭載。光学センサーとESCを連携させ、砂の上では空気圧を低下させてトラクションをあげ、アスファルトでは空気圧を上げて安定性を高めるなど常に最適圧に制御する。また、ホイールアーチをなくすことでサスペンションの動きを走行中に目視することも可能にした。ガラス面積の広いサイドドアは観音開き式。
跳ね上げ式のフロントウィンドウや、取り外してアウトドアチェアとしても使える後席、普段はアンビエントライトとして、外せば大型の懐中電灯としても使える光源を採用するなど遊び心のある新提案も盛り込んだ。
ステアリングとペダルはコンベンショナル
EVパワートレインやレベル4の自動運転機能、最先端のドローン機構など、近未来を最大限見据えたコンセプトカーながら、コンベンショナルなステアリングやペダルを備えているのにはAI:トレイル クワトロだからこその理由がある。
レベル4の自動運転の作動は、高速道路や都市部などインフラが整っているエリアに限定される。未舗装路や林道までデジタル地図にデータ収録されている現状であっても、侵食や路面の変化、天候によってオフロード環境は時々刻々と変化する。従って自動運転の条件に適合しないエリアの走行を念頭に置いたAI:トレイル クワトロは、ドライバーが責任を持って運転を行う装置が必要不可欠なのだ。
AI:トレイル クワトロというコンセプトが教えてくれるのは、EVプラットフォームとオフローダーとの親和性の高さだ。モーターはホイールに、バッテリーは床と一体化できるため、オーバーハングを可能な限り切りつめることが可能(=アプローチ/ディパーチャアングルを稼ぐことができる)で、各インホイールモーターがそれぞれの駆動力を最適制御するから、エネルギーと場所を消費するディファレンシャルやロックも必要ない。フォルクスワーゲンもMEBアーキテクチャーベースの「ID. バギー」を提案している。
ひと昔前の現実とかけ離れたコンセプトカーとは異なり、AI:トレイル クワトロは電気がもたらす新しいモビリティの形として、地に足のついた提案なのである。
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