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ニューモデル 2019.6.23

廃車と引き換え、新車に助成金 スクラップ・インセンティブ 英自動車業界を救った制度

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もくじ

ー 自動車業界を金融危機から救った
ー 懐疑的な政府を説得
ー ヒュンダイの素早い対応
ー 売れすぎで保証金返還も
ー 高級車は恩恵小
ー 安全かつエコなクルマが普及
ー 番外編:ヒュンダイi10 どんなクルマ?

    スクラップマニア、廃車にこだわるコレクター いったいなぜ? 前編

自動車業界を金融危機から救った

2009年4月は英国自動車業界にとって悲惨な時期であった。2008年のリーマン・ブラザース破綻をきっかけとして起こった金融危機により、各銀行の経営も悪化し、自動車の売り上げも大きく落ち込んだ。

結果として、その1年間を通して新車販売は振るわず、2009年第1四半期には30%も減少した。英国での自動車生産台数は57%もの落ち込みを見せている。しかし、それからちょうど1カ月後にはディーラーが整理券を発行しなければならないほど大盛況になるとは誰が予想しただろうか。

このカギとなったのはスクラップ・インセンティブだ。自動車業界を活気づけるため、新車への買い替えを促す制度である。当時から今にいたるまで賛否両論あるこの制度だが、一部のメーカーはこのおかげで40万台ほどの売り上げに成功したともいわれている。

これはどんなものなのだろうか。中心となった立案者は自動車製造販売協会を率いるポール・エヴァリットだ。「自動車の販売は経済のバロメーターであり、当時は毎月のように新車登録が減少していました」と彼はいう。「底の見えない金融危機の中、ゴードン・ブラウン率いる政府はこの流れを変える施策を検討していました」

懐疑的な政府を説得

当時、各社のCEO、SMMT、そして政府代表のピーター・マンデルソンが参加する会議が開かれた。そこで業界側はドイツで行われたスクラップ・インセンティブを挙げ、同様の制度をはじめてはどうかと提案しました。

英国GMを率いていたビル・パーフィットは当時をこう回想する。「マンデルソンは非常に丁寧でしたが、この提案に最初はあまり好意的ではありませんでした。そこでわたしは、このスランプはサプライヤーにまで大きな影響を与えていることを説明しました。わたしはそのうち6つか7つを担当していましたが、もし一社でも破綻すればわれわれは生産を中断し新たなサプライヤーを探さねばなりません。これには数カ月を要します」

「マンデルソンはこのインセンティブによりキアやヒュンダイなどような安価な輸入車に客足が流れるのではないかと懸念していました。もちろん、彼の言っていることも一理あります。しかし、それでも税収の拡大が期待できるばかりでなく、サプライヤーの倒産も防ぐことにつながるでしょう」

最終的にこの施策はアリスター・ダーリング財務大臣によって発表されたが、その詳細は明かされなかった。結局実施されたのはドイツ政府のそれと比べ小規模なもので、新車購入時に2000ポンド(27万円)の補助金を出すというものだ。ただし、政府が拠出するのはその半額のみで、残りは各メーカーが負担する。

ヒュンダイの素早い対応

パーフィットはこのシステムで不正が行われないよう細心の注意を払った。スクラップされる車両に車検が残っており、12カ月以上にわたってそのひとに所有され、さらに廃車証明書により再登録ができない状態であることを確認するというものだ。

すぐに対応に取り掛かったメーカーのひとつはヒュンダイだ。当時同社を率いていたトニー・ホワイトホーンは、「2009年初頭の時点でこの制度の導入の可能性を耳にし、ドイツ人の同僚にアドバイスを求めました。その結果、在庫車を抱える必要があるとわかりました。そこでわたしはリスクを覚悟の上で月に1000台ずつ、計7000台のi10を注文しました」と説明した。

このインセンティブ制度がアナウンスされたとき、彼はすでに準備が完了していた。「われわれは想定される施策の内容に合わせて、価格表やプレスリリースなどをすべて準備しておきました。メディアや顧客は情報を求めていましたが、ライバル各社は準備ができておらずインタビューを断っている状態でした。一方われわれはすぐに広報をすることができました」

ヒュンダイの戦略は、このインセンティブの利用によりi10クラシックを4995ポンド(68万円)で販売するというものだ。リースではわずか月額85ポンド(1万2000円)からだ。最初の船積み分はその船が到着する前に完売した。2009年末までに、同社は2008年の実績の2倍以上となる3万9000台を売り上げた。マンデルソンの予想は正しかったということだ。

売れすぎで保証金返還も

ヒュンダイのディーラーはさらに大きな影響を受けた。南海岸に2店舗を持つリッチモンド・ヒュンダイを率いるマイケル・ノーブスは自身を「スクラップ・インセンティブの王」と呼ぶほどの成功を収めている。

「当時はショールームの端から端まで伸びるほどの行列ができました。後にも先にもそんなことは初めてです。一般的な質問に答えるためのスタッフを用意し、購入を決めた顧客だけがセールスマンと話をすることができるようにしました」と彼は説明する。

他のディーラーでも飲食店のようなスタイルの整理券を発行した。ヒュンダイは売れすぎるあまり、ノーブスは最終的に500人の顧客に車両を確保することができず、保証金を返還せざるを得なかったという。

ヒュンダイやその他の海外生産車は届くまでに時間を要するが、日産やヴォグゾールなどのように英国内で生産する車両はより素早く車両を供給することができた。「この制度は非常にうまくいきました。開始から3週間の間には生産が改善し、サプライヤーたちも倒産の危機を脱しました」とパーフィットは語る。

高級車は恩恵小

日産はマイクラやキャッシュカイが英国生産であることをアピールすべく、マイクラにユニオンジャックのデカールを取りつけて配車した。当時日産UKを指揮したのはポール・ウィルコックスだ。「サンダーランド工場は非常に柔軟性が高く、すぐに増産体制に入ることができました。一気に在庫を増やすことができたため、強気の戦略をとることができたのです」と彼は語る。

一方、安価なハッチバックを持たないメーカーなどはそれほど積極的ではなかった。パーフィットはとある会合を回想する。「メルセデス、ポルシェ、BMWなどもこの施策の恩恵を受けようとしていました。そこで彼らはマンデルソンの会合への参加を申し出てきました。その場でマンデルソンは彼らに対し、英国における生産台数を尋ねたのです」

「彼らが0だと答えると、マンデルソンは彼らの希望はドイツ政府に伝えるべきだと言いました。彼は本当ならば英国生産車のみに限定したかったのですが、それは許されないでしょう」

しかし、この波に乗り切れなかったのは高級ブランドだけではない。ウィルコックスは回想する。「いくつかのメーカーは奇妙な行動をとりました。おそらく彼らは値引きをできるだけの利幅がなかったり、すぐに車両を生産することができなかったのでしょう。機会を逃さずに行動できたメーカーだけが成功を掴めたのです」

安全かつエコなクルマが普及

いくつかのメーカーはこの施策のメーカー負担分をカバーするための値上げをした疑いも持たれている。What Car?誌が2010年に行なった調査ではフォード・フィエスタが32.6%もの値上げを行なったことが確認されている。ただし、フォードはこれを為替相場の変動によるものと説明している。

パーフィットはこう説明する。「新車販売における利益はそれほど大きくありません。しかし、低金利ローンや無料整備などの販促をするための余力は残してあります。そこに1000ポンド(14万円)もの新たな支出が加わるとなれば、値上げせざるを得ないメーカーもあるでしょう」

6月だけでも申請は5万件を超え、その成功はすぐに明らかとなった。SMMTやパーフィットは政府に対し施策の延長を求めた。結局のところ10万台ぶんにあたる1億ポンド(137億円)の追加拠出が決定され、廃車対象にバンが加わった。

個々のメーカーによって成果は異なるが、全国で39万2227台にこの制度が適用された。「これにより、英国内を走るクルマが大きく様変わりしました。ひとびとはより安全かつクリーンなクルマに乗るようになったのです」とウィルコックスは語る。もしこの施策がなけれ数百ものディーラーやサプライヤーが倒産に追い込まれたと彼らは説明する。

さらにエヴァリットはこう結論づけた。「スクラップインセンティブにより、ひとびとの消費が促進されました。金融危機とはいえ、大規模な失業があったわけでもなく、ひとびとは単に消費を恐れていただけでした。インセンティブは皆が新車を買う動機付けの役割を果たしたのです」

番外編:ヒュンダイi10 どんなクルマ?

登録から10年以上が経過したクルマのオーナーが、i10を月々85ポンド(1万2000円)で買えるという話を聞いたら、飛びつくのも無理はない。車検や高価な整備が近づいていたらなおさらだ。i10は5人乗りで、エアコンがあり、5年間の保証もついている。

当時最も売れたエントリーレベルのクラシックで、それも唯一の無償カラーであるソリッドな赤の車両は6カ月待ちであった。多くのひとは追加料金を支払うことで納期の短いメタリックの色を選択した。やや古い1.1ℓエンジンを搭載する限定車も設定されていたが、今回われわれはやや新しい1.2ℓ、78psのモデルに試乗した。

背が高く、非常に軽い操作感やソフトなサスペンションは典型的なわれわれ好みのクルマではない。しかし、10年が経った今でも平均的エコノミーカーよりはパワーがあり、シフトチェンジも楽しめる。

ランニングコストは安く、実走行でも16km/ℓ程度の燃費を実現する。走行4万km台の個体が3495ポンド(48万円)で入手可能だ。初度登録以来年間200ポンド(2万7000円)程度の値下がりと考えると、非常に低コストである。多くのクラシックカーをスクラップ送りにしたという点も含め、i10は自動車史における重要な1ページを刻んだといえそうだ。

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(AUTOCAR JAPAN 編集部)

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