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回顧録 ポルシェ911ターボ vs ノーブルM600 価格差2倍の実力は?

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回顧録 ポルシェ911ターボ vs ノーブルM600 価格差2倍の実力は?

もくじ

ー M600市販型に初試乗
ー 高品質な作り込み
ー 高速巡航へ出発
ー 圧倒的パワーとトラクション
ー 踏み抜くなら路面状態に注意
ー 自然なフィーリング
ー 911の圧倒的洗練度
ー 価格相応の実力差
ー フェラーリなどとも並ぶ

スーパーカー対決 フェラーリ458イタリアとライバルたち 回顧録 前編

M600市販型に初試乗

(AUTOCAR JAPAN誌99号の再録)

これまで何度かノーブルM600についての記事をお届けしてきたが、そこで達成された偉業はひとまず忘れていただきたい。なぜならそれらはすべてプロトタイプやテストタイプ、あるいは量産試作モデルでなされたものであり、ここにご紹介する最新のM600こそが、正真正銘の量産車だからである。

量産型そのもののカーボンファイバー製ボディを身にまとったM600がノーブル社外の人間の手によって動かされるのは、今回が初めてだ。だが、なぜこのタイミングなのだろうか。というのも、邦貨換算約3500万円という目が飛び出るような価格で発売されるのとほとんど同時期に、より廉価でさらに速いマクラーレンMP4-12Cが登場するからだ。

そして付け加えるなら、その最新のマクラーレンの登場と同時に、ミドエンジンのスーパーカーという世界の住民が目指すべきゴールポストが、一瞬にして別世界へと移動してしまったからである。

驚異的な速さと完璧さを備えた新型マクラーレンの登場は、M600からその存在意義を、誕生する前に奪い去ってしまったのではないか。加えてフェラーリ458イタリアまで存在しているのだから、M600は最初の顧客の手に届く前に、すでに実質的に余剰な製品なのかもしれないのだ。ましてやポルシェ911ターボの居場所は、いったいどこに残されているというのか?

高品質な作り込み

M600の市販モデルを動かした者がノーブル社外にいない以上、真実を知る者などいるわけもない。だったらわれわれが確認するしかない。幸いノーブルは、まだ1台しかない量産型M600での2日間、800kmの走行を許可してくれた。このクルマが真の実用性と信頼性を備えているのか、実走して確かめてみるとしよう。

同伴車には911ターボを指名した。458イタリアやMP4-12Cとの比較も気になるところだが、それは後日のメガテスト企画として取っておくことにする。

滑稽にすら思えるM600の価格だが、新開発のカーボンファイバー製ボディに込められたクラフツマンシップと、試作車に比べてどれだけ内装が進化しているかを実際に目の当たりにすれば、考えも変わるはずだ。乗り込んだ瞬間、量産型のインテリアがどれほど見事に、そして高品質に造り込まれているかを思い知ることになる。

ただ、問題がないわけではない。ステアリングコラムから生えているレバーは相変わらず外注品だし、ドライビングポジションも完璧とは言いかねる。確かにペダル配置は申し分なく、変に腰をひねる必要はないのだが、おかげでフットレストのための空間がまったく存在しない。また、ペダルの位置があまりに近いために、腕をいっぱいに伸ばして膝を曲げた姿勢を取らざるを得ない。

高速巡航へ出発

もっとも、ほかの部分は実にきっちりできており、この室内を気に入らない人はほとんどいないのではないだろうか。特にダッシュボードの組み付けや仕上げ、F15戦闘機のスイッチを思わせるタッチのトラクションコントロールボタンまわりのデザインは実に秀逸である。

マネージングディレクターのピーター・ボートウッドが操作系について説明してくれたが、ほとんどはすでにお馴染みのものであった。目新しいのはiPhoneを車両のベッカー通信システムに接続する方法くらいのもので、それが終わるとすぐさま走り出した。ノーブルのスタッフは少々不安げな顔を見せていたが、それも当然だろう。過去2年間あまり続いた苦労が結実した、たった1台しか存在しない個体を他人の手にゆだねるのだ。

高速M6号線をバーミンガム方面に向かって走り、それからM5号線と国道A40号線を乗り継いでモンマスに向かう頃には、M600に特別な何かが感じられるようになっていた。そのルーツを考えると、今までに例のないほど立派に仕上がったクルマだと思えてきたのである。

ドライビングポジションに慣れるには少々の時間が必要ではあるが、それ以外は驚くほど扱いやすく仕上がっている。どれだけ多くのパワーでどれほどわずかな重量を走らせているかを考慮し、(周囲の状況が許せば)心の誘惑のままにどれほど簡単に何が可能となるかを想像してみると、まったく特筆に値する。

圧倒的パワーとトラクション

実際、高速道路を流すのは、M600にとっては実に造作ない作業だ。新たにフラットボトムとされたステアリングホイールの前にひとたび腰を据えれば、130km/h前後での巡航は、15分前に合流した真紅の911ターボよりもむしろ快適だし、退屈を感じたりもしなかった。

ここまではパワースイッチを、456psに出力を抑える「ロード」にした状態である。とはいえ車重は1.2tを切るのだから、911ターボを抜き去るには十分だ。M5号線を離れて最初のロータリーを抜けるときの加速で、それはすぐに実感できた。3速でもエネルギーの放出は強烈である。

「ロード」での最大トルクである55.3kg-mを巨大なリアタイヤが路面に伝達する際、一瞬だがステアリングの手応えが軽くなる。1秒の半分ほどの時間でしかないが、まるでウイリーを試しているような感覚だった。

トラクションは十分に確保されており、テールが沈むような不安を誘う挙動もほとんどないが、加速時の感覚はまったくもって強烈だ。心臓一拍分ほどのあっという間に、911ターボが50mも後方に遠ざかっていく。

踏み抜くなら路面状態に注意

パワーボタンを「トラック」に設定すると、最高出力は558psに上がる。違いは明瞭に体感できたが、絶対的な加速力の強烈さよりも、むしろさらに鋭さを増したスロットルレスポンスのほうが印象的だ。このモードでは、さらに尋常ならざる勢いで911ターボは後方に消え去っていく。

続いて「レース」モードに切り替え、659psのパワーと83.5kg-mのトルクをフルに解き放ってみたが、このモードでは地平線が向かってくるさまが、まるでコンピューターゲームのように感じられた。

「レース」でアクセルペダルを踏み抜くには、さすがに事前に路面が完璧にドライであり、なおかつ目の前の道路がほぼストレートであることを確認せずにはいられないはずだ。ギアがどの段だろうとほとんど関係ない。そして、もし不運にも911ターボに乗ってそれについて行く羽目になったなら、恥をかきたくなければ無理に付いて行こうなどとは考えないほうがいい。

しかし、M600のモンスター級の動力性能が発する地震のような波動で真に驚くべきは、実際にそれを発揮させるのにむずかしいテクニックを何も要求されないところだ。

自然なフィーリング

ギアボックスは確かに昔ながらの6段マニュアルではあるが、この種のものとしては操作が軽くてストロークが短く、非常に扱いやすい。クラッチも同等で、これだけの莫大な出力とトルクを伝達するものとして予想する重さの、せいぜい6分の1程度にしか感じられない。

スロットルの操作性も信じられないほどよく躾けられていて、ごく軽く踏んでもハーフでもフルでも、さらにその中間であっても、まったく自然で違和感がない。このあたりは小規模なメーカーが往々にして失敗しやすいところで、これほど速いクルマだと特に危うい箇所なのだが、ノーブルにそんなミスはなかったようだ。

911ターボに乗り換えると、そのフィールは当たり前ながらM600とはまったく異なっていた。正直なところ、なぜこれを比較対象に選んだのか、自分でも疑問に思えたほどだ。ドライビングポジションは伝統的なアップライト姿勢で、低くうずくまるM600から乗り換えると、まるで普通のハッチバックに乗り込んだようだ。

キャビンはほかに思い当たらない種類の、完璧無比の品質と不思議なほど素っ気ないスタイリングの組み合わせである。M600のジェット戦闘機のようなキャビンの隣では、逆にこの普通さが奇妙な個性にも感じられた。

911の圧倒的洗練度

しかし、911ターボは依然として素晴らしく出来のいいクルマであった。あまりにも簡単にその能力のほぼすべてを引き出せるから、たいていの路面ではこちらのほうが安心して心置きなく走らせられる。

徹底した機械的なリファインの水準の高さは、M600には絶対に不可能だと思われるほどの迫力を感じさせる。確かにM600を向こうに回し、純然たる絶対的な加速力で勝負しても勝ち目はないにせよ、このクルマが遅いなどと言われることも、本来はあり得ない事態なのだ。

ただ、911ターボには起きて、M600には構造上の違いからまったく起きないのが、限界近くまで攻めたときのアンダーステアだ。荒れた路面での(スムーズであればマシだがそれでも)911ターボのフロントタイヤのグリップは、M600のそれほどには信頼できない。そういう局面では911ターボのほうがボディの挙動が大きく、フロントタイヤの食い付きに不足が生じるのだ。

低速コーナーでのトラクションで多少は有利だとしても、同じ条件でM600の加速がおよばないことなどあり得ない。もし操れる自信があって周囲に誰もいなければ、M600はいつでも911ターボに圧勝できるだろう。M600はグリップでも加速でもはるかに優り、結果的にいかなる場所でもより速い走りを実現できるのである。

価格相応の実力差

しかも今までとは違い、M600が野獣のように感じられる場面はほとんどなくなっていた。むしろ印象としては、まさに「911ターボの約2倍の価格のクルマ」であり、実際にほとんどの局面で2倍相当の実力を発揮していたといえる。

そういう意味で考えると3500万円の価格は、ドライビングポジションやステアリングコラムのレバーというふたつの細かな問題を考慮に入れたとしても、俄然、ふさわしい数字に思えてきた。

そういうわけで、今回の勝者は間違いなくM600であり、英国が誇るべき素晴らしいクルマだとわれわれは結論づけることにした。ところがそれからわずか5分後だ。M600は突然、ダッシュボード上の小さな黄色のエンジン警告灯を点灯させ、一瞬のうちにM600に対するわれわれの全幅の信頼を粉砕してくれたのである。

すかさずノーブルに電話して説明を求めたところ、驚くべきことに、それは別に心配するような事態ではないと彼らは答えた。M600のツインターボV8に装備されているセンサーはかなりタイトな設定になっているからなのだそうだ。

フェラーリなどとも並ぶ

そうしている理由は訊くまでもなかった。なのですべての撮影を終え、取材が完了したところでわたしは悠然とM600に乗り込み、編集部まで自走で戻ることにした。何しろこの異常発生モードであっても、M600はまだ456psを発生するのだ。些細な欲求不満はあれど、十分に楽しめた帰路だったことをご報告しておこう。

ノーブルの名誉のため(になるかわからないが)に書き添えておくが、結局のところエンジンには何も異常はなかった。ごくわずかだが油温が警告域に踏み込んだため、警告灯が点灯したのだそうだ。

ノーブルは将来的にはリブートボタンを設置し、オーナーが自分の手で警告灯をリセットできるようにするかもしれない。本当に異常があるならもう一度警告灯が点灯するはずだし、問題がなければそれ以降の走りの楽しみを邪魔されずにすむ。

M600は911ターボの位置に取って代われるだけの実力を秘めており、さらに意味深い事実として、マクラーレンやフェラーリに並び、この世界で自分の立ち位置を確立していると断言できるマシーンである。ただ、あの警告灯が点灯さえしなかったら完璧なオモチャとして楽しみ尽くすことができたはずで、それだけが惜しまれる。

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